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イマムオール逮捕から1年 トルコリラと政治動向の現在地【海外特派員レポート】2026年4月7日

2025年3月19日の朝、エクレム・イマムオール・イスタンブール広域市市長の自宅に警官隊が踏み込みました。汚職や組織犯罪への関与を名目とした逮捕状を手に、100人以上を巻き込む大規模な捜索・拘束作戦が展開されたのです。イマムオール氏は当時、2028年の大統領選に向けて野党・共和人民党(CHP)の最有力候補として名前が挙がっていた人物でした。この逮捕劇はトルコ経済と市民生活に激震をもたらしました。

■「津波」と形容された市場の混乱

Medyascope紙はイマムオール氏の拘束が金融市場に「津波」のような打撃を与えたと伝えました。ドル/トルコリラは36トルコリラ台から一気に40トルコリラを突破し、ユーロ/トルコリラは45トルコリラに迫りました。イスタンブール証券取引所(BIST)では4回にわたりサーキットブレーカーが発動され、その週のBIST100の終値は前週末比16.57%安の9,044ポイントと、2008年以来最大の週間下落幅を記録しました。

トルコ中央銀行は通貨防衛のために3日間で約266億ドルの外貨を市場に売却しました。これはここ1年で積み上げてきた純外貨ポジションの約半分に相当する規模でした。資本市場委員会(SPK)は空売り禁止など緊急措置を講じ、トルコ・ウェルス・ファンド(TVF)が株式市場への介入買いを行いました。しかしBIST100は翌週も不安定な動きが続き、外国人投資家の信頼回復には時間がかかりました。

■街に広がった不安と怒り

逮捕翌日、近所の青空市場へ買い物に出かけると、いつもなら威勢よく声が飛び交う売り場がどことなく静かでした。野菜売りのおじさんは値札を書き直す手を止め、ちらりとスマートフォンに目をやっていました。行き交う人々の話題も事件に関するものが多かったことを覚えています。

近所の両替商には普段の何倍もの客が押し寄せ、ドルや金を買い求める行列が扉の外まで続きました。60代くらいの男性が「政治家が争うたびに、損をするのはいつも庶民だ」とつぶやく声も耳に残っています。SNS上でも「銀行から預金を引き出せ」という呼びかけが拡散し、ドルや金への逃避を促す書き込みが相次ぎました。政治的な立場にかかわらず、市民が共通して口にしたのは「経済への不安」でした。普段はエルドアン大統領を支持するという知人でさえ、「イマムオールが正しいかどうかより、トルコリラが下がる方が怖い」と本音を漏らしていました。

■経済専門家たちの警告

Cumhuriyet紙はコチ大学のセルヴァ・デミルアルプ教授の見解を伝えました。「この政治危機が経済に与えるコストは甚大だ。より高いトルコリラ安、より高いインフレ、より高い金利、そして減速する成長として現れるだろう」と教授は語りました。

元トルコ中央銀行副総裁で経済学者のファーティフ・オズアタイ教授はYetkin Reportへの寄稿で、「政治危機が深まれば、トルコリラと金利が跳ね上がり、インフレが再び上昇する。外貨建て借入を抱える企業の財務は悪化し、成長は止まり、失業が増加する」と警告しました。実際、それまで順調に進んでいた利下げサイクルは中断を余儀なくされ、トルコ中央銀行は4月に政策金利を引き上げるという緊急対応に迫られました。

■1,550万人が示した「民意」

逮捕状が執行された3月23日、CHPは全国に5,600か所の「連帯投票所」を設置し、イマムオール氏を大統領候補として選出する党内選挙を実施しました。公式発表によれば1,550万人の市民が参加し、圧倒的多数が支持を表明しました。

ニュース映像には、各地の投票所に朝から行列をつくる市民の姿が映し出されていました。「黙っていたくなかった」という人、「こんなおかしなことがあっていいのか」と涙ぐむ老齢の女性の顔も印象に残っています。Medyascope紙によると、イスタンブールからエルドアン大統領の地元として知られるリゼまで、全国各地で抗議運動が広がり、若者たちが先頭に立ちました。3月19日から4月2日まで続いた抗議活動では警察が催涙ガスや放水車で対応し、2,000人以上が拘束、うち300人以上が起訴されました。筆者が住む県は与党支持が根強いのですが、当時夜の街を歩くと、若者のグループが声を上げながら歩く姿があちこちに見られました。

■エルドアン大統領の支持率への影

この事件はエルドアン大統領の支持基盤にも影を落としました。2025年9月にGÜNDEMARが実施した世論調査では、CHPが35.8%と首位に立ち、与党AKPは30.9%にとどまりました。さらにAKP支持者の約43%が逮捕は純粋に法的な問題ではないと感じているという結果も注目されました。大統領選の仮想対決でも、複数の調査でエルドアン大統領が野党候補に後れを取る結果が相次いでいます。エルドアン大統領は現行憲法の規定により2028年の大統領選に出馬できないとされていますが、憲法改正による続投を模索しているとの観測も絶えず、政治的な不透明感はさらに続いています。この点については次回の記事で詳しく取り上げる予定です。

■トルコリラの先行きと投資家への示唆

イマムオール氏の逮捕から1年が経過した今も、政治的不確実性はトルコリラの重石となっています。市場の混乱が収まった後も、近所の商店主は「政治の話はしたくないが、トルコリラが不安定になると仕入れ値に直結する」と話し、ドルや金を手元に置く習慣はやめていません。数字や政策だけでは語れない、こうした市民の生活感覚こそが、この事件の根深さを物語っています。トルコリラは経済指標だけでなく、政治の動向にも鋭敏に反応する通貨です。2025年3月のこの出来事は、そのことを改めて世界に示した出来事として、今後も長く語り継がれることになるでしょう。

 

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毛羽部チャイ子氏
トルコ在住。トルコの大学および国営機関での勤務経験を持つ。翻訳・通訳や机上調査(リサーチ)にも従事しながら、 現地メディアの情報や生活者目線をもとにトルコの政治・社会情勢を伝えている。
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