
※登壇者の発言は収録時点の情報に基づいた見解となります。
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「株価が上がっているのに、なぜ生活は豊かにならないのか」「金の急騰は何を意味しているのか」「円安はいつまで続くのか」——2026年の相場を読み解くうえで欠かせないこれらの問いに、ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジストの佐々木融氏(2026年2月10日撮影)と、経済アナリストの朝倉慶氏(2026年3月2日撮影)にそれぞれ独自の視点でお答えいただきました。
今回注目したいのは、異なる経歴を持つお二人が共通した結論にたどり着いていることです。それは「株高も金高も、通貨の価値が下がっているだけだ」という認識です。本記事では、この共通認識を軸に、お二人の見解を比較しながら2026年のドル円相場と投資戦略を整理します。
【必見!】佐々木融氏、朝倉慶氏の解説動画
●佐々木融氏の解説動画(前編)
●佐々木融氏の解説動画(後編)
●朝倉慶氏の解説動画
共通認識①|株高・金高は通貨価値低下の裏返し
●佐々木融氏の視点——トルコやアルゼンチンと同じ構造
佐々木氏は、通貨安によってインフレ率が上昇すると、企業収益や税収が名目値で膨らみ、株価が上昇すると分析しています。この現象はトルコやアルゼンチンといった通貨安やインフレに苦しむ新興国でも同様に発生しており、日本でもまったく同じことが起きていると指摘します。
●朝倉慶氏の視点——金価格高騰が映すドルの減価
朝倉氏は、株高・金高の本質を理解するカギとして金の歴史的な価格推移を挙げます。1972年に1トロイオンス35ドルだった金が現在では4,000ドルを超えています。朝倉氏によれば、これは金の価値が上がったのではなく、通貨の価値が低下したことを意味しています。
日本株についても同様の見方を示しています。2007年のGDPは約500兆円、現在は約600兆円と増加率は約20%に過ぎません。一方で株価は7,000円台から5万円台へと7倍以上に膨張しています。この間、為替レートは1ドル70円台から150円台へと円の価値はおよそ半分になりました。つまり、名目上の数字は膨らんだものの、実質的な豊かさはほとんど変わっていないということです。
朝倉氏はこの現象をこう要約しています——株、金、不動産、ビットコイン、あらゆる資産が上がっているように見えるのは、現金の価値が下がっているに過ぎない、と。
●二人が示す共通のメッセージ
立場もアプローチも異なる二人の専門家が、同じ結論に到達していることは注目に値します。「株価が上がった=豊かになった」ではない。これは2026年の相場を読み解くうえで個人投資家にとって重要な視点です。
共通認識②|円安が止まらない構造的理由——実質金利のマイナス
●佐々木氏の分析——構造的円安の2大要因
佐々木氏は実質金利を中核に据えつつ、2つの構造的要因を整理しています。第一に、名目金利がインフレ率を下回る状態が続く実質金利のマイナス。第二に、対外直接投資による継続的な資本流出です。
佐々木氏はここに政策のジレンマを加えます。金利上昇を受け入れれば構造的円安がやや緩和する方向に向かいますが、利払い負担を恐れて金利を抑えれば実質金利のマイナス幅はさらに拡大し、円安が加速する。長期金利がわずかに上昇するだけでも、政府の利払い負担は消費税収に匹敵する規模にまで膨らむと佐々木氏は分析しています。
●朝倉氏の分析——金利差ではなく実質金利で見よ
日銀は利上げ、FRBは利下げ方向にあるにもかかわらず、なぜ円安が続くのか。朝倉氏はこの問いに対して、名目金利と実質金利の違いに注目すべきだと説明します。
日本の政策金利は0.75%ですが、賃金ベースのインフレ率は3.7%。つまり実質金利はマイナス約3%です。お金を持っているだけで年間3%ずつ価値が目減りする計算であり、しかも朝倉氏は体感インフレ率は10%以上だと見ています。日本は名目金利がインフレ率を下回る数少ない国であり、円が売られるのは合理的な帰結だと分析しています。
共通認識③|インフレは止まらない——構造的な要因が複合的に重なる
●佐々木氏——見せかけのインフレ率低下に警鐘
佐々木氏は2026年のインフレ動向について独自の警告を発しています。ガソリンの暫定税率引き下げや電気・ガスへの補助金、高校授業料や給食費の無償化拡大などにより、インフレ率は一時的に低下する見込みです。しかし佐々木氏は、減税や補助金は消費を刺激するため、むしろ先行きのインフレ率を上げる要因になると指摘します。数字上で下がったインフレ率を見て「利上げ不要」と判断されてしまうと、実質金利がさらにマイナス幅を拡大し、円安が進みやすくなるというリスクを指摘しています。
●朝倉氏——マネー供給のシステム化
朝倉氏がインフレの根本原因として挙げるのは、世界的なマネーの過剰供給です。リーマンショック以降、FRBは資産規模を約9倍に、日銀は7〜8倍に、ECBも約6倍に拡大しました。1929年の大恐慌の教訓から「危機が訪れたらマネーを刷る」というのが常態化し、やがて危機がなくてもマネーを供給し続けるようになりました。高齢化による社会保障費の膨張や地政学リスクの増大によるサプライチェーン再編コストの増加も加わり、「モノが安い時代は去った」と朝倉氏は結論づけています。
共通認識④|積極財政は円安を加速させる
●佐々木氏——必要なのは構造改革
佐々木氏は、財政政策が「いくら配るか」という話ばかりになっている現状を問題視しています。アベノミクスの一本目の金融緩和と二本目の財政出動が効いてきた今こそ、三本目の矢である「構造改革」に本腰を入れるべきタイミングだと主張しています。
●朝倉氏——高圧経済は今の日本には合わない
高市政権が掲げる「高圧経済」路線について、朝倉氏は現在の日本には適さないと述べています。現在の日本では建設コストが高騰し、米は供給不足から価格が急騰し、大工や介護といったエッセンシャルワーカーが不足しています。問題の本質は需要不足ではなく供給不足にあり、そこに財政でお金を投入しても物価が上がるだけだというのが朝倉氏の主張です。
2026年末ドル円予想の比較
●佐々木融氏:165円程度
佐々木氏は2026年末165円程度への円安進行を予想しています。構造的な円安の継続を基本シナリオに据えています。
予想の前提:
・インフレ率は2%台で高止まり、日銀の利上げは年2回程度
・FRBの利下げは1回から0回
・対外直接投資は増加
リスクシナリオ: 日銀が年3〜4回の積極利上げを実施する、あるいは国債購入停止を明確に打ち出して長期金利上昇を容認する場合。佐々木氏は「これは私の予想にとってのリスクシナリオだが、日本経済全体にとってはその方が望ましい」とも述べています。
●朝倉慶氏:170円方向
朝倉氏は2026年のドル円について170円方向を見込んでいます。160〜165円付近で為替介入が入り一時的に円高に戻す場面がありつつも、構造的な円安圧力が上回り再びドル高・円安が進むという展開を想定しています。
予想の前提:
・実質金利マイナスが継続し、円保有自体がマイナスリターン
・中央銀行によるマネー供給の構造化
・積極財政によるインフレ圧力の上乗せ
二人の見解を比べてみると
●共通していたこと
・株高・金高は通貨価値低下の裏返しであり、実質的な豊かさが増えているわけではない
・円安の根本原因は実質金利のマイナスであり、構造的な問題である
・積極財政は円安をさらに加速させるリスクがある
・インフレは一時的ではなく、構造的に長期化する見通し
・預貯金のまま放置すれば資産が実質的に目減りするリスクがある
・ドル円は2026年末に向けてさらなる円安方向を予想
まとめ——個人投資家へのメッセージ
佐々木融氏と朝倉慶氏、それぞれ異なる分析手法を持つお二人が共通して発するメッセージは明確です——「円安・株高・金高は通貨価値低下の裏返しだ」。
お二人に共通するのは「現金の価値が下がる環境では、何らかの資産に振り分ける行動が必要」という認識です。佐々木氏は豪ドル・スイスフラン・ユーロなどの外貨投資と日本株、そしてゴールドの積立投資を推奨。朝倉氏は日本株全体に対する割安感を指摘しつつ、製造業を中心に海外からの再評価が進んでいると分析しています。
外為どっとコム マネ育チャンネルでは、引き続き経済の第一線で活躍されている有識者をお招きし、最新のドル円相場見通しをお届けしていきます。ぜひ動画・記事もあわせてご覧ください。
ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジスト佐々木 融 (ささき・とおる)氏
1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。
2010年にマネージングディレクター就任、2015年から2023年11月まで同行市場調査本部長。23年12月から現職。著書に「インフレ・円安・バラマキ・国富流出」「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」など。
朝倉慶(あさくら・けい)
1954年、埼玉県生まれ。1977年、明治大学政治経済学部卒業後、証券会社に勤務するも3年で独立。顧客向けに発行するレポートが、この数年の経済予測をことごとく的中させる。船井幸雄氏が著書のなかで「経済予測の超プロ・K氏」として紹介し、一躍注目される。 2008年に初めて著書を出版し、以降、ベストセラーとなる本を次々と出版。
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