
執筆日時:2026年3月31日 16時05分
執筆者 :株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
賃金上昇でスタグフレーションの兆し
2026年4月3日21時30分に3月分の米雇用統計が発表されます。
2月分の米雇用統計では、雇用者数の大幅減少と失業率の上昇が確認され、労働市場の減速が意識されました。一方で賃金は高止まりが続き、景気の弱さとインフレ圧力が併存する“スタグフレーションの兆し”が市場で意識され始めています。
こうした中で、前回の弱さが一時的な揺らぎなのか、それとも基調的な変調の始まりなのかを判断するうえで、3月分の雇用統計は注目されます。
まずは前回の内容を振り返ります。
ドル急落→急反発・株急落・金急伸:9.2万人減のショック
NFPは大幅減少となり、過去2か月分も下方修正されました。失業率は4.4%へ悪化し、労働参加率も低下しました。一方で平均時給は前年比+3.8%と伸びが続き、賃金上昇圧力が残りました。この結果を受けて市場は利下げ再開観測を織り込み始めました。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)※出所:データ米国労働省
| 産業別 | Feb-25 | Dec-25 | Jan-26 | Feb-26 |
| 全体 | 42 | -17 | 126 | -92 |
| 財生産部門 | 1 | -21 | 51 | -25 |
| 鉱業・林業 | 0 | -1 | -2 | -2 |
| 建設業 | 3 | -7 | 48 | -11 |
| 製造 | -2 | -13 | 5 | -12 |
| 民間サービス部門 | 39 | 14 | 95 | -61 |
| 卸売 | 2.6 | -5.7 | 2.5 | 6 |
| 小売 | -17.5 | -23.6 | 10.7 | 2.3 |
| 運輸 | 24.2 | -4.8 | -12.4 | -11.3 |
| 公益(電気・ガス・水道) | 1.8 | 0.7 | 0.4 | 1.3 |
| 情報 | -1 | -6 | -19 | -11 |
| 金融・保険 | 12 | 1 | -30 | 10 |
| 専門・企業向け | -7 | -19 | 18 | -5 |
| 民間教育・医療サービス | 58 | 38 | 129 | -34 |
| 娯楽・接客 | -36 | 25 | -12 | -27 |
| その他のサービス | 2 | 8 | 8 | 8 |
| 政府分野 | 2 | -10 | -20 | -6 |
各市場の反応
【為替市場】
雇用悪化を受けて米ドル/円は157円台半ばへ下落。その後、中東情勢を背景に158.09円f付近まで反発しましたが、株安や介入警戒感から上値は限定されました。
【株式市場】
米主要3指数はそろって下落。弱い雇用データと原油高が重しとなりました。
- ダウ平均:前日比-0.95%(-453.19)で 47,501.55ドル
- ナスダック総合:前日比 -1.59%(-361.3)で 22,387.68
- S&P500種株価指数:前日比 -1.33%(-90.69)で 6,740.00
【金市場】
金スポットは上昇。ドル安と地政学リスクを背景に、NY終盤には5,149ドル前後まで上昇しました。
図表2.前回発表前後のドル円の動き
米ドル/円 5分足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
ストライキによる「ノイズ」と雇用の真の姿
足元の米雇用市場は、ストライキの影響やその反動といった一時的な要因が数字を揺らし、実態を把握しにくい状況が続いています。3月のNFPは反動で改善して見えやすいものの、求人1件当たりの失業者の割合が示すように、基調的な労働需要はまだ弱含みで推移している可能性が高いと考えられます。企業の採用姿勢も慎重で、反動増は“見かけの改善”にとどまり、実質的な雇用の伸びは限定的とみられます。
先行指標が示す「強弱のねじれ」
雇用関連の先行指標は方向感が揃わず、労働市場の実像をつかみにくい状態が続いています。ADPとISM非製造業は底堅い一方、JOLTSの採用率は低く、労働市場には停滞感が残ります。また、Indeed job postings指数も下げ渋る格好は見せているものの、回復基調は見られていません。こうした状況を踏まえると、失業率が大きく改善する展開は描きにくく、悪い意味での低下が起こる可能性も残ります。結果として、失業率は高止まりに近い形で推移しやすいとみられます。
図表3.雇用者数変化に関連するデータ
| 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 | |
| JOLTS求人件数 万件 | 684.6 | 655 | 694.6 | - | - |
| 求人1件に対する失業者の割合 | 1.1 | 1.1 | 1.1 | - | - |
| Indeed job postings index(平均) | 101.3 | 102.9 | 102.9 | 102.9 | 102.8 |
| ADP民間雇用者数 万人 | 7.4 | 3.7 | 1.1 | 6.3 | - |
| ISM製造業雇用指数 | 44 | 44.9 | 48.1 | 48.8 | - |
| ISM非製造業雇用指数 | 48.9 | 52 | 50.3 | 51.8 | - |
| 新規失業保険申請者件数 万件 | 22.2 | 22.4 | 21 | 20.8 | 20.5 |
| 失業保険継続受給者数 万人 | 194.3 | 191.3 | 181.9 | 183.3 | 181.9 |
出所:各種公表データを基に外為総研が作成
※失業保険データは、雇用統計調査週の分
※Indeed job postings(平均)は各月ごとの平均値、3月分は20日までの平均値
「サーム・ルール」への警戒と賃金インフレのジレンマ
失業率は景気後退シグナルである「サーム・ルール」の発動水準にはまだ届いていないものの、市場で警戒されやすい状態にあります。サーム・ルールとは、失業率の3カ月平均が、過去12カ月の3カ月平均の最低値から0.5ポイント以上上昇すると景気後退入りの可能性が高まると判断する指標です。
同時に、賃金は高止まりが続き、インフレ圧力が根強く残っています。景気減速とインフレが並存するという、FRBにとって最も厄介な“スタグフレーション的”局面が意識されやすい環境です。賃金の粘着性は強く、急速な鈍化は見込みにくい状況が続いています。
3月分の雇用統計はストライキの反動で表面上は改善して見える可能性がある一方で、労働需要の鈍化や賃金の粘着性といった基調の弱さがむしろ鮮明になりやすい局面です。景気減速とインフレ圧力が同時に残ることで、市場が安心できる内容にはなりにくく、スタグフレーション懸念が高まりやすいと考えられます。
取引戦略
メイン戦略
■ 1. 米ドル/円
方向感が出にくく、乱高下しやすい展開です。レンジ逆張りが基本になります。
- 景気悪化=ドル安
- 賃金インフレ=ドル高
→ 相殺しやすい構図です。
- 160.50円売り/158.50円買い
■ 2. 株式市場(Good Fridayで米株現物休場)
■ 3. 金(ゴールド)
最も強いアセットです。押し目買いが有効です。
- インフレ懸念
- 景気悪化で安全資産需要
- ドルの方向感喪失も追い風です。
- 4,700〜4,800ドルを突破すれば上昇第二波へ
※指標発表前の水準では、数字が変わる可能性があります。
リスクシナリオ
■【サプライズシナリオ】 完全に強い雇用(NFP強い × 失業率低下 × 賃金強い)
市場反応:ドル高・金安(利下げ後退)
- - ドル円:買い(163円方向) - 株式(Good Fridayで米株現物休場) - 金:売り
図表6.ドル/円チャート

米ドル/円 日足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
付随データ
図表7.[雇用統計の実績と予想]
| 年月 | 非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||
| 予想値 | 初回結果 | 予想値 | 初回結果 | |
| 2026年03月 | 6.0 | - | 4.4 | - |
| 2026年02月 | 5.5 | -9.2 | 4.3 | 4.4 |
| 2026年01月 | 7.0 | 13.0 | 4.4 | 4.3 |
| 2025年12月 | 7.0 | 5.0 | 4.5 | 4.4 |
| 2025年11月 | - | -10.5 | 4.5 | 4.6 |
| 2025年10月 | - | -10.5 | - | - |
| 年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
| 予想値 | 初回結果 | 初回結果 | |
| 2026年03月 | 0.4 | - | - |
| 2026年02月 | 0.3 | 0.4 | 62.0 |
| 2026年01月 | 0.3 | 0.4 | 62.5 |
| 2025年12月 | 0.3 | 0.3 | 62.4 |
| 2025年11月 | 0.3 | 0.1 | 62.5 |
| 2025年10月 | 0.3 | 0.4 | - |
◇関連の経済データ実績
| 年月 | ISM製造業雇用指数 | ISM非製造業雇用指数 |
| 2026年03月 | - | - |
| 2026年02月 | 48.8 | 51.8 |
| 2026年01月 | 48.1 | 50.3 |
| 2025年12月 | 44.9 | 52.0 |
| 2025年11月 | 44.0 | 48.9 |
| 2025年10月 | 46.0 | 48.2 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
市場予想は弊社経済課レンダーより、2026年3月31日 現在
▼FX取引関連配信 番組紹介はこちら
小野 直人
株式会社DZHフィナンシャルリサーチでの情報配信業務、上田ハーロー株式会社での調査・市場部門を経て、2021年より外為どっとコム総合研究所へ参画。ニュースベンダーとFX会社で培った「情報の目利き力」と「市場実務の経験」を武器に、個人投資家へ有益な情報を発信している。ドル円などの主要通貨に加え、トルコリラ・メキシコペソなどの新興国通貨、日経平均・NYダウといった株価指数(CFD)まで、幅広い金融商品の分析を得意とするマーケットアナリスト。
本サイトに掲載する情報には充分に注意を払っていますが、その内容について保証するものではありません。また本サービスは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであって、投資勧誘を目的として提供するものではありません。投資方針や時期選択等の最終決定はご自身で判断されますようお願いいたします。なお、本サービスの閲覧によって生じたいかなる損害につきましても、株式会社外為どっとコムは一切の責任を負いかねますことをご了承ください。
