
(画像=iStock photo)
テスラ(TESLA)は単なる電気自動車(EV)メーカーではありません。AI、ロボティクス、そして、エネルギー事業を融合させ、未来のテクノロジーを牽引する存在です。しかし、その道のりは平坦ではありません。世界のEV市場は競争が激化しています。価格競争の大波が押し寄せています。テスラ(TESLA)は今、かつてない正念場を迎えています。テスラ(TESLA)の「成績表」を読み解いて、同社が直面している課題と、未来の可能性に対する市場の期待について解説します。
(1)直近の決算内容とテスラ(TESLA)の2025年3Q業績予想
テスラ(TESLA)の最新決算である2025年(FY25)第2四半期(2Q)の内容を見てみると、同社がかなり厳しい事業環境に直面していることがわかります。売上高は前年同期比でマイナス11.8%という減少を記録、本業の儲けを示す営業利益もマイナス42.5%と大幅に落ち込みました。これは世界的なEV需要の伸び悩みと、台頭する中国メーカーなどとの激しい価格競争が主な原因です。利益を削ってでも、販売台数を維持しようという戦略が、収益性を圧迫しています。


単位:百万ドル
これを踏まえて目前に控えた2025年(FY25)第3四半期(3Q)の決算はどうなるでしょうか。市場アナリストたちの多くが、2025年2Qからの回復を見込んでいるようです。私の分析結果も方向性としては同じです。テスラ(TESLA)がどのように業績を回復するのか、その中身と、現在抱えている構造的な課題に焦点を当てます。
・テスラ(TESLA)を支える未来への期待感
私の2025年(FY25)第3四半期(3Q)の業績予想は、売上高24,500百万ドルと、2025年(FY25)2Qから回復するものの、前年同期(FY24 3Q)の25,182百万ドルには、少し及ばないと見ています。
市場が期待しているのは、まず「サイバートラック」の生産拡大です。テスラ(TESLA)が開発した未来的なデザインのピックアップトラックで、大きな話題を集めましたが、まだ生産立ち上げの初期段階です。モデル3改良版などの新モデル投入による販売のテコ入れです。
それ以外にも「FSD(完全自動運転)」技術や、テスラが開発中の人型ロボットで、将来的には工場労働などでの活用が期待されている「オプティマス」の実用化に向けた進捗、そしてエネルギー事業といったEV以外の事業など、現在の株価を支える未来への期待感を維持できるような内容が出てくるかどうかが重要です。
・EV事業の収益性回復が鍵を握る
最大の課題は電気自動車(EV)事業の収益性回復です。3Qの営業利益は1,100百万ドル、営業利益率は4.5%と、2025年(FY25)2Qから改善するものの、依然として低水準が続くと私は見ています。ライバル会社との激しい価格競争は、今後も続くと予想され、収益性を確保しながら販売台数を伸ばすという難しい舵取りを迫られます。また、次世代廉価モデルの投入時期が依然として不透明です。それまでの間、既存モデルで厳しい競争を勝ち抜けるかどうかが、テスラ(TESLA)にとって大きな課題となります。
(2)売上高の動向
会社がビジネスで稼いだ総収入である売上高は、テスラ(TESLA)の場合、主にEV事業の販売代金になります。売上高成長率は去年の同じ時期と比べて売上が何%増減したかを示します。 下表を見ると、テスラ(TESLA)は2025年(FY25)に入ってから、売上高成長率がマイナスに転じていることがわかります。これまでのような急成長期から、安定成長期、あるいは厳しい競争期に入ったことを示しています。販売価格引き下げが販売台数の減少を補えないまま、売上高を減少させています。

単位:百万ドル
(3)営業利益の動向
営業利益は売上高からコストを差し引いた本業による「儲け」のことです。営業利益率はその「儲け」の効率性を示します。テスラの営業利益率は、2025年(FY25)に入って急激に悪化しています。2024年(FY24)3Qには10.8%を確保していましたが、2025年(FY25)1Qは、営業利益がわずか399百万ドル、営業利益率は過去最低の2.1%にまで落ち込みました。
営業利益率2.1%という数字は、「100ドルの自動車を販売したとき、手元に残る利益がわずか2.1ドル」ということです。トヨタを始めとする他の大手自動車メーカーの一般的な営業利益率は最低でも5%、多いところでは10%を超えます。そう考えると、テスラ(TESLA)は極めて低水準です。売上金のほとんどはコストに消えてしまい、利益が出ていない非常に厳しい状況です。2025年(FY25)2Qの決算は営業利益率が4.1%と、最悪だった1Qから、わずかに回復しました。しかし、前年同期(FY24 2Q)は6.3%なので、それと比較すると依然として低く、本格的な回復には程遠い状況です。
私は2025年(FY25)第3四半期(3Q)の営業利益率が約4.5%(営業利益1,100百万ドル ÷ 売上高24,500百万ドル)と、2Qから微増するものの、根本的な改善には至らないと予想しています。売上高が回復傾向にあっても、中国EVメーカーとの値下げ競争が継続し、サイバートラックの生産立ち上げによるコスト増が重くのしかかり、利益を圧迫し続けている可能性が高いと見ています。これはテスラ(TESLA)が直面している課題が単なる「成長鈍化」ではなく、「構造的な収益性悪化」にあるということです。
(4)当期利益の動向
営業利益の悪化は最終的な会社の当期利益に大きな影響を及ぼしています。当期利益は純利益とも呼ばれ、営業利益から支払利息や税金などを差し引いた、会社の最終的な「手取り」です。

四半期データを見ると、まず2023年(FY23)4Qの7,928百万ドルという当期利益が突出していますが、これは一時的な税制上の優遇措置などが含まれる特殊なケースです。この例外を除いてトレンドを見ると、当期利益は営業利益と同様に厳しい状況にあることがわかります。
特に2025年(FY25)1Qの当期利益はわずか409百万ドルです。これは前年同期(FY24 1Q)の1,390百万ドルと比較して、実にマイナス70.6%という大幅な減少で、収益性の課題が最終利益を直撃していることが分かります。最新の決算である2025年(FY25)2Qは1,190百万ドルで、最悪だった2025年(FY25)1Qよりも回復しました。しかし、2024年(FY24)の四半期平均が約1,800百万ドルなので、依然として低い水準です。私の2025年(FY25)3Qの予想も、約1,250百万ドルと緩やかな回復に留まっています。
これは、たとえ売上高が回復基調にあっても、1)値下げ競争による利益率の圧迫、2)サイバートラックの生産立ち上げコスト、3)FSD(完全自動運転)やロボットへの先行投資などが重くのしかかり、最終利益は圧迫されたままになるという可能性が高いからです。この当期利益の水準は、現在のテスラ(TESLA)が、短期的な利益をある程度犠牲にしてでも、市場シェアを維持し、将来のための巨額投資を優先していることの証でしょう。
(5)株主価値指標の動き
株価が会社の価値に対して割安か割高か、株主にとって重要な判断指標を見ていきます。

1)EPS
EPS (1株当たり利益)は、「株主が持つ1株に対して、会社がいくら利益を生み出したか」を示します。テスラ(TESLA)のEPSは、利益の減少に伴い大幅に低下しています。

2)PER
PER (株価収益率)は、「株価がEPSの何倍か」を示し、「投資家がその会社の将来の成長にどれだけ期待しているか」を測る指標です。テスラ(TESLA)はEPSが大きく低下しているにもかかわらず、PERは100倍を超える非常に高い水準で推移しています。これは現在の利益水準から見れば、株価が極めて割高であることを意味します。しかし、同時に投資家が現在のEV事業の苦戦を乗り越え、FSDやロボットといった未来の事業が、将来巨大な利益を生み出すことに強く期待していることも示しています。テスラ(TESLA)に対する市場の期待が、現在の業績よりも大きく先行していると言えます。
3)PBR
PBR (株価純資産倍率)は、「会社の純粋な資産価値に対して、市場がどれだけ付加価値を付けて評価しているか」を示します。一般的な自動車メーカーのPBRが1倍前後であるのに対して、テスラ(TESLA)は10倍超の非常に高い水準を維持しています。
これは市場が同社の純資産(工場や設備などの帳簿上の価値)をはるかに超える「目に見えない価値」を認めている証拠です。投資家は現在のEV事業の苦戦を一時的なものと捉え、FSD(完全自動運転)、ロボット、AIといった未来の事業が将来巨大な利益を生み出す「テクノロジー企業」として強く期待しています。
テスラ(TESLA)の高いPERと高いPBRの両立は、現在の厳しい企業業績と市場の期待感の間に存在する非常に大きなギャップを示しています。
(6)貸借対照表から見る「財務の安定性」
続いて貸借対照表のデータから分析してみます。会社がどれくらいの財産(資産)を持ち、どれくらいの借金(負債)を抱え、最終的にどれだけの純資産を持っているか、そのバランスから財務の安定性が見えてきます。


単位:百万ドル
1)資産の動向
テスラ(TESLA)の総資産(流動資産+固定資産)は、2022年(FY22)の82,338百万ドルから、2025年(FY25)2Qには128,567百万ドルへと約2年半で1.56倍に拡大しています。これは厳しいEV市場の競争環境にあっても、サイバートラックの生産ライン、新型ギガファクトリー(EV用の部品を大量生産する大規模工場)やAI、ロボティクス開発といった未来への積極的な事業投資を継続してきた結果です。
2)負債の動向
テスラ(TESLA)の負債合計(流動負債+固定負債)は、2022年(FY22)の36,440百万ドルから、2025年(FY25)2Qの50,495百万ドルへと、約1.38倍増加となっています。資産の増加(1.56倍)と比べて、負債の伸びは緩やかに抑えられています。
3)純資産の動向
テスラ(TESLA)は資産の伸びが負債の伸びを上回った結果、返済不要の会社の自己資本である純資産は、2022年(FY22)の45,898百万ドルから、2025年(FY25)2Qには78,072百万ドルへと約1.7倍増加しました。これは2025年(FY25)に入って利益水準が大きく落ち込んでいるにもかかわらず、それまでに稼いだ莫大な利益が内部留保されており、根本的な会社の体力が強くなっていることを示しています。
4)流動比率の動向
流動比率(流動資産 ÷ 流動負債)は、会社の「短期的な支払い能力」を見る指標です。100%以上あることが健全性の目安とされています。テスラ(TESLA)の流動比率は、2022年(FY22)の153.2%から上昇傾向を示し、2025年(FY25)2Qには203.7%となっています。現在のテスラ(TESLA)は、短期的な資金繰りについて全く懸念がない状態であることがわかります。
5)自己資本比率の動向
自己資本比率(純資産 ÷ 総資産)は、会社の「長期的な安定性」を見る重要指標の一つです。総資産のうち返済不要の純資産がどれくらいの割合かを示します。テスラ(TESLA)の自己資本比率は2022年(FY22)の55.7%から、2025年(FY25)2Qには60.7%へと着実に上昇しています。利益減少の局面でも、財務の安定性を向上させており、借金への依存度が低い会社であることが分かります。
(7)キャッシュフロー計算書から見る「事業の健全性」
最後にテスラ(TESLA)のキャッシュフロー計算書を見てみましょう。


単位:百万ドル
1)営業キャッシュフロー(営業CF)の動向
テスラ(TESLA)の本業で現金を稼ぐ力を示す営業CFは、2024年(FY24)には年間で14,923百万ドルを生み出し、巨額のプラスとなりました。テスラ(TESLA)は2025年(FY25)上半期(1Q+2Q)合計で、4,696百万ドル(2,156百万ドル + 2,540百万ドル)の現金を本業で稼ぎ出しています。これは2024年(FY24)の通期実績に対して約31.5%の進捗率です。上半期が終了した時点で、進捗率が50%を大きく下回っているのは、損益計算書で示された利益率の急激な悪化が、テスラ(TESLA)の「現金を稼ぐ力」を鈍化させています。
しかし、ここで重要なのは利益が激減する中でも、テスラ(TESLA)の事業活動自体は、依然として現金を生み出していて、営業CFがプラスになっている点です。それは事業の根幹がまだ健全であることを示しています。
2)投資キャッシュフロー(投資CF)の動向
テスラ(TESLA)の将来への投資を示す投資CFは、2024年(FY24)に18,787百万ドルという巨額投資を実行し、大幅マイナスとなりました。なお、2025年(FY25)に入ってからも、こうした投資は継続されており、上半期(1Q+2Q)の投資CFの総額は4,595百万ドル(1,651百万ドル +2,944百万ドル)のマイナスなっています。
これは、2024年(FY24)の年間投資額に対して約24.5%にあたります。上半期終了時点で実行された投資が24.5%に留まっていることは、2024年(FY24)と比較して投資ペースを意図的に緩めている可能性を示唆しています。
ペース鈍化の理由は、収益環境の悪化(営業CFの鈍化)に備え、手元資金の流動性確保を目的に投資計画を調整していることが考えられます。ただし、依然として未来の成長のために、巨額の投資を継続している姿勢は変わっていないと判断できるレベルでしょう。
3)財務キャッシュフロー(財務CF)の動向
資金のやりくりを示す財務CFは、2024年(FY24)には、年間で3,853百万ドルのプラスとなりました。これは営業CFで稼いだ現金だけでは足りないほどの巨額な投資(投資CF)を行うため、外部から資金調達していたことを意味します。
しかし、2025年(FY25)になって状況は一変しています。2025年(FY25)上半期(1Q+2Q)の借金返済や自己株買いのための財務CFの合計は、わずかですが554百万ドル(332百万ドル +222百万ドル)のマイナスに転じました。つまり「資金調達」から「資金返済」に転換したわけです。
これは投資CFからも分かるように、テスラ(TESLA)は投資ペースを調整することで、本業で稼いだ現金(営業CF)の範囲内で投資と返済をまかなうという、より保守的で健全な財務運営にシフトしたとみることができます。
(8)未来への投資を継続するテスラ(TESLA)
テスラ(TESLA)の2025年(FY25)1Qの売上高は大きく落ち込みました。しかし2Qには回復の兆しを見せています。私は2025年1Qを「底」とする回復は、2025年(FY25)3Qも続くと予想しました。これは「EV市場で激しい値下げ競争が続いても、同社のEVに対する需要は底堅い」という見方に基づいています。
ただし、売上が回復しても利益の回復は鈍いと見ています。なぜなら、テスラ(TESLA)がサイバートラックの生産ラインの立ち上げにかけるコストや、競争力維持のために販売価格を値下げしている影響が、今後も重くのしかかると考えられるからです。
それでもテスラ(TESLA)は、「目先の利益は厳しい(収益性の悪化)」状況が続くものの、「未来のための投資(FSDやロボット開発)は止めない」という基本戦略を変更しないと考えます。投資家にとっては、同社の未来への投資計画が予定通りに進んでいるかどうかを確認することが、テスラ(TESLA)の企業価値を見極める上で非常に重要になるでしょう。
(本文ここまで)
岩田仙吉(いわたせんきち)氏株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
本サイトに掲載する情報には充分に注意を払っていますが、その内容について保証するものではありません。また本サービスは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであって、投資勧誘を目的として提供するものではありません。投資方針や時期選択等の最終決定はご自身で判断されますようお願いいたします。なお、本サービスの閲覧によって生じたいかなる損害につきましても、株式会社外為どっとコムは一切の責任を負いかねますことをご了承ください。
