はじめに
2024年11月の米大統領選に向け、共和党と民主党の大統領候補が出そろった。世界の覇権国であるアメリカの次期大統領は、グローバル経済とマーケットに大きな影響を与えるため、世界中から注目を集めている。
本記事では、「米ドル高」に影響を与える可能性のある政策に焦点を当て、主要候補の情報をまとめた。
民主党:バイデン=ハリス政権の継続
カマラ・ハリス副大統領は、バイデン大統領から後継指名を受けた。ハリス氏は現政権の政策を継続すると予想されるため、以下ではバイデン政権の4年間の実績と今後の方針をまとめている。
共和党:トランプ氏の政策
共和党候補のドナルド・トランプ氏については、2017年から2021年の大統領在任時の政策が継続されると仮定し、過去の実績を中心にまとめた。
政策比較表
両候補の政策を比較した表を以下に示す。
バイデン政権とトランプ候補の政策比較表
政策分野 | バイデン政権の実績 | トランプ政権時の政策&選挙戦での政策(想定) |
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財政政策 |
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通商政策 |
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金融・財政政策 |
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インフレ対策 |
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雇用政策 |
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対中政策 |
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対日政策 |
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為替政策 |
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FRBへの姿勢 |
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ドル高シナリオにつながるアメリカのインフレ
本レポートの趣旨であるドル円の今後を占うなかで、「ドル高」に影響しそうな政策という視点で整理したい。つまり、新大統領の政策などによって今後FRBの「利上げ」が想起される場合はどのような状況なのかを考えておくことに価値があると考える。「利上げ」につながる状況とは、すなわち米国内のインフレ加速懸念が高まるときと推測される。直近の2022年には、コロナ禍からの経済の急激な回復のなかで、モノの供給が需要に追いつかない状況が発生した。人手不足も相まって急激なインフレとなり、FRBは5%ほどの利上げを実施した。この間、ドル/円が記録的な上昇を見せたことは記憶に新しい。このような過去の事例を踏まえ、今後の政策動向とそれに伴う経済指標の変化、特にインフレに注目することが、ドル/円相場の予測において重要となるであろう。
今回の大統領選において、どちらの候補・陣営が勝利した場合であっても、インフレにつながる政策を市場が想起した場合は、ドル高につながる可能性がある。ではどのような場面がドル高を引き起こす可能性があるか、考察することが重要である。具体的には、財政支出の大幅な拡大、減税政策の実施、インフラ投資の増加、貿易摩擦の激化による輸入コストの上昇、労働市場の規制緩和による賃金上昇圧力の増大、エネルギー政策の変更による燃料価格の上昇などが挙げられるだろう。そのため、選挙結果に関わらず、これらの要因を注視し、ドル/円相場への影響を慎重に分析する必要があるだろう。
1. 財政刺激策の拡大
- 大規模な政府支出: インフラ投資、社会保障プログラム、その他の公共事業に対する政府支出が増加すると、アメリカ経済全体に大量の資金が注入されることに。需要が供給を上回る場合は、物価が上昇し、インフレが加速する可能性がある。
- 減税: 減税政策によって消費者や企業の可処分所得が増えると、消費や投資が増加し、需要が増加。インフレ圧力が高まる可能性がある。
2. 貿易政策と労働規制
- 貿易の制限や関税の引き上げ: 中国などからの輸入品に対する関税が引き上げられると、輸入品の購入コストが増加。その結果、国内の物価が上昇することが考えられる。
- 労働市場規制: 最低賃金の大幅な引き上げや、労働者の権利強化に伴う規制強化が行われると、企業のコストが増加し、最終的にそのコストが消費者に転嫁されて物価が上昇する可能性がある。
3. 通貨政策や金融政策の変更
- 米ドルの供給増加: 量的緩和などの政策により、市場に大量の資金が供給されると、その結果として通貨の価値が低下し、インフレ圧力が高まることがある。
4. エネルギー政策の変更
- 環境規制の強化: 石油やガスなどのエネルギー産業に対する規制が強化されると、エネルギーコストが上昇し、それが全体的な生産コストの増加につながり、インフレを引き起こす可能性がある。例えば、石油・ガス採掘に対する制限が強化されると、供給不足が発生し、エネルギー価格が上昇する。
5. 社会保障や福祉政策の変更
- 大規模な社会保障拡充: ヘルスケアや教育に対する政府支出が急増する場合、その資金を賄うための借り入れや通貨の発行が行われ、インフレの原因となる可能性がある。
6. 国際的な要因
- 地政学的リスクの高まり: アメリカ政府の外交政策が緊張を引き起こし、原油価格やその他の重要な輸入品の価格が上昇すると、輸入コストの上昇が国内物価に波及してインフレを引き起こす可能性がある。
これらのインフレ要因について、あらためて両候補の実績や政策スタンスから評価してみた。
カマラ・ハリス候補(バイデン政権が行った政策)
1.エネルギー産業に対する規制
気候変動対策を重要な政策課題の一つとして掲げており、エネルギー産業に対する規制を強化してきた。
2.財政支出の増加
大規模な政府支出を増加させる政策を推進してきた。特に、インフラ投資や社会保障プログラムに対する支出が大きく増加した。
トランプ候補(2017年からの大統領の任期中の政策)
1. 減税政策
- 2017年の減税および雇用法(Tax Cuts and Jobs Act): トランプ政権は大規模な減税を実施し、企業税率を引き下げ、個人の所得税率も減少さた。減税は個人や企業の可処分所得を増やし、消費や投資を刺激する効果がある。これは一時的に需要を増加させ、インフレ圧力を高める可能性があったが、当時はインフレの兆候はそれほど強くは現れなかった。
2. 規制緩和
- トランプ政権は多くの産業において規制緩和を進め、特にエネルギー、金融、環境分野での規制を緩和した。これにより、企業のコスト削減や生産性の向上が図られ、物価上昇圧力が抑えられる側面があった。
3. 貿易政策と関税
- トランプ政権の貿易政策は、特に中国に対する強硬な姿勢が特徴で、関税の引き上げを通じて「貿易戦争」を展開した。これにより、特定の輸入品の価格が上昇し、消費者物価に影響を与えることがあった。
4. 財政支出の増加
- トランプ政権では、特に国防費やその他の分野で財政支出が増加したが、バイデン政権ほど大規模なインフラ投資や社会保障プログラムへの支出増加は見られず。そのため、政府支出によるインフレ圧力は比較的限定的だった。
5. コロナ禍への対応
- トランプ政権の末期には、新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、経済に大きな打撃を与えた。この時期には、大規模な経済対策が実施されたが、パンデミックの影響で供給面での制約が生じた一方で、需要は抑えられ、インフレ圧力は限定的だった。
6. メキシコ移民の制限
- トランプ政権はメキシコ国境の壁建設や違法移民を送還するなどを行った。アメリカにおける移民、とりわけメキシコからの移民は、特に農業、建設業、サービス業などの分野で重要な労働力を提供している。メキシコ移民の制限が厳しくなれば、これらの産業での労働力供給が減少する。
- 労働力供給が減少すると、企業は労働者を確保するために賃金を引き上げる必要が出てくる。また、労働力不足が続けば、生産の遅延やコストの増加が生じ、商品の供給が減少する可能性がある。
- 労働力不足に伴う賃金上昇は、企業のコスト構造に影響を与える。これが最終的な製品やサービスの価格に転嫁されれば、インフレが加速することになる。
- また、農業、建設業、サービス業などの分野での価格上昇が他のセクターにも波及し、広範なインフレを引き起こすことが考えられる。
最後に
現在の政治状況において、共和党と民主党の両陣営とも、いくつかの政策項目に関して明確な立場を示していないのが現状だ。この政策の不確実性は、投資家にとって大きな課題となる。特に、外国為替市場で投資を行う際には、この不確実性を常に念頭に置く必要がある。為替レートは、各国の経済状況や政策の違いを反映して変動するため、政策の方向性が不明確であることは、為替相場の予測を困難にする要因となる。
そのような状況下で、外国為替投資を成功させるためには、インフレーションの動向に特に注目しながら、日々の米国ニュースを丹念にチェックすることが重要だと感じる。インフレーションは、通貨の購買力に直接影響を与え、ひいては為替レートにも大きな影響を及ぼすからだ。
備考:日本の金融政策について
通貨ペア「ドル円」を構成する日本円の利上げについて考察する。2024年7月31日、日銀会合で利上げが決定され、政策金利が0.25%となった。この決定を契機に、ドル円相場の大幅下落や日本株の大幅下落など、市場に大きな動きが見られた。多くの市場参加者は、この利上げをマーケット混乱のきっかけととらえているようだ。その後、日銀副総裁が利上げ継続議論について「火消し」を行ったことから、当面は市場を驚かせるような急速な利上げは見込みづらい状況となっている。ここで注目すべきは、日銀の利上げが進まない場合の影響である。対米ドルとの金利差が維持されることで、歴史的な円安相場が再演される可能性があると考えられる。今後も注視が必要であろう。
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