みずほリサーチ&テクノロジーズ エグゼクティブエコノミストで元日銀理事の門間一夫氏へのインタビュー後編。株価と為替の見通しについて詳しく解説します。
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日経平均株価の現状をどう見るか
日経平均が最高値を更新し続けていることについて、門間氏は大きなトレンド自体には違和感がないとします。2010年代初頭から日本企業が株価重視の経営に変わってきたためです。
ただし、この2〜3週間の株高、特に高市トレードの株高は条件反射的で過熱感があると指摘。高市氏の首相就任が不透明になったことで、一日で1,200円安となったのもその表れだといいます。
また、世界の株高の根底にあるAIバブルについても調整リスクがあり、米中対立の再燃も株価を不安定にする要因となっているとの見方です。
利上げの株価への影響は限定的か
日銀が12月に利上げした場合、株価への影響はほとんどないとの見方を示しました。マーケットはすでに12月か1月の利上げを織り込んでおり、日銀も事前に情報を発信するため、サプライズにならない可能性が高いというのが理由です。
植田ショックについても、実際は米雇用統計悪化による影響で、日銀の利上げが直接の原因ではなかったと改めて強調しました。
高市トレードは一時的との見方
高市氏の総裁就任で株価が大幅上昇した「高市トレード」について、門間氏は条件反射的な動きで、一度頭を冷やして考えれば二度目の高市トレードはないとの見方を示しました。
財政拡大すれば株高になるという因果関係は本来なく、むしろトラスショックのように長期金利上昇でネガティブになる可能性もあるといいます。
仮に玉木政権になった場合も、高市氏で上がりすぎた分の調整はあるかもしれませんが、AIや米中、アメリカ経済といったより大きな要因に埋もれてしまうだろうとの見方です。
日経5万円到達は困難との見方
年内の日経平均5万円到達について、門間氏は可能性は高くないとの見方を示しました。
現在48,000円だとPERで18〜19倍となり、やや割高感があるといいます。適正水準は16〜17倍程度で、45,000円あたりが妥当。そこからあと2ヶ月で5万円を目指すのは厳しいとの分析です。
ドル円150円横ばいが本命シナリオ
為替について、門間氏が最も確率の高いメインシナリオとして挙げたのがドル円150円前後の横ばいです。
円安が続く背景には、2022年の米大幅利上げ(0%→5%)で40円円安になった影響が続いているためとの分析。ただし、これ以上の大きな円安にはならない見通しだといいます。
日銀が円安を止める構図
円安が160円方向へ進めば、日銀が利上げで止めに入る可能性が高いとのこと。一方、140円台へ円高が進めば、日銀は利上げを停止する見込み。つまり、日銀が上下を抑制するレンジ相場になるというわけです。
円高は米国次第
一方で円高方向は、日本固有の要因では動きにくい状況だといいます。円高になるには、アメリカ経済が本格的な景気後退に陥り、FRBが大幅利下げに踏み切るケースが考えられるとのことです。
金利差だけでは説明できない為替
興味深いのは、日欧金利差が縮小しているにもかかわらず、ユーロ円が史上最高値を更新している点です。門間氏は、為替はストーリー(雰囲気)で決まる面があると指摘します。
今年のテーマは「ドル一強の巻き戻し」。ドイツの財政政策転換という歴史的転換があったユーロにはポジティブストーリーがあり、資金が流れやすいといいます。一方、日本にはそういうストーリーがないため、ドルと一緒にだらだら下がっているという構図だとの分析です。
上下非対称のリスクシナリオ
ドル円相場のリスクは上下非対称だと門間氏は分析します。
円安方向(確率高いが限定的)
日本に円高要素がない分、じわじわと155円、160円へ円安が進む可能性はあるといいます。ただし日銀が利上げで止めるため、170円、180円といったとんでもない円安にはならない見通しです。
円高方向(確率低いが大きく動く可能性)
確率は低いものの、アメリカが景気後退に陥った場合は、FRBが大幅利下げに踏み切り、大きく円高になる可能性があるといいます。これはテールリスクですが、動きは大きくなる可能性があるとのことです。
為替はアメリカ次第との見方
結局のところ、為替を決めるのはアメリカ経済の動向だと門間氏は指摘します。
アメリカ経済が予想以上に強い場合、米中立金利が4%近いとなれば、大きなリプライシングが起き、ドル高円安になる可能性があるといいます。それを受けて日銀も思った以上に利上げすることになる見込みです。
逆に、アメリカが本格的な景気後退に陥れば、FRBは今年2回、来年2回といったペースではなく、もっと急ピッチで利下げし、大幅な円高になる可能性があるとのこと。
いずれにしても、日本固有の要因よりアメリカ次第というのが門間氏の一貫した見方です。
まとめ
●株価
- 日経5万円到達は難しい
- 高市トレードは一時的で過熱
- 利上げの株価への影響は限定的
- AIバブル調整リスクあり
●為替
- ドル円150円横ばいが本命
- 160円で日銀利上げ、140円で停止
- 円安リスクは限定的、円高リスクは低確率だが大きい
- 為替はアメリカ経済次第
●重要ポイント
- 日本固有の要因より海外要因が重要
- 新政権の影響は限定的
- 米中対立再燃もリスク要因
関連:【元日銀理事が警告】新政権で日本経済はどうなる?|門間一夫氏
門間 一夫 氏(もんま かずお)
1957年生まれ。1981年東京大学経済学部を卒業し日本銀行に入行。1988年米国ウォートンスクール経営学修士。2007年6月から調査統計局長、2011年4月から企画局長を歴任。2012年5月から金融政策担当理事として、2%物価安定目標の導入に至る局面を担当。2013年3月から国際担当理事として、G7やG20などの国際会議に出席。2016年5月末に日本銀行を退職し同6月から現職。専門はマクロ経済、金融政策。著書『日本経済の見えない真実』(日経BP、2022年9月)
株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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