
※登壇者の発言は収録時点の情報に基づいた見解となります。
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「構造的円安はどこまで進むのか」「日銀の利上げは間に合うのか」「個人投資家は何に投資すべきなのか」——2026年の相場を読み解くうえで欠かせない問いに、ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジストの佐々木融氏に独自の視点でお答えいただきました。本記事では、2025年11月の前回インタビューから約3ヶ月——その間に起きた変化を踏まえ、佐々木氏の見方がどのように深化・更新されたのかを比較しながらご紹介します。
佐々木融氏|前回(2025年11月6日撮影)の見解
●ドル円157円へ——円安加速の2大要因
前回インタビュー時点(2025年11月上旬)、佐々木氏は2025年末に向けた円安シナリオを明確に示していました。
①FOMCのタカ派転換: パウエル議長が「12月利下げは既定路線でない」と発言し、堅調な雇用市場やトランプ関税によるインフレ懸念を背景に、ドル高継続が見込まれる。
②実質金利マイナスの構造問題: 名目金利よりインフレ率が高い状態が継続し、円保有で実質的に資産が目減りする構造的な円売り圧力が続いている。
●「トルコ化」リスクの警鐘
日本とトルコの共通点(実質金利マイナス、株価は史上最高値だが通貨は下落)を挙げ、「通貨は単なる紙切れ。株価も金も上がっているのは、通貨価値低下の裏返し」と警告。
●対米投資80兆円超の円安圧力
80兆円超の対米投資が、年末から2026年にかけて巨大な円安圧力になると予測しました。
●前回のまとめ(2025年11月時点)
・ドル円は年末157円へ向かう可能性が高い
・実質金利のマイナスが続く限り、円は構造的に弱い
・対米投資80兆円超は大きな円売り圧力
・株高・金高騰は通貨価値低下の裏返し
佐々木融氏|今回(2026年2月10日撮影)の最新見解
●衆院選後の市場と「構造的円安」の深化
2026年2月8日の衆院選で自民党が予想以上の圧勝を収めました。佐々木氏によると、選挙前に積み上がっていた円売りポジションの利益確定が入り、足元では「ドル円の上値が重い」状態になっています。
また選挙の影響とは別にドル売りの動きも同時に進行しており、これがドル円を押し下げる要因にもなっているとのことです。
こうした状況の中でも佐々木氏の基本認識は変わりません——「構造的な円安の状態が続いている」。
円安を引き起こす2つの構造的要因(前回から継続):
・実質金利がマイナスであること(名目金利 < インフレ率)
・対外直接投資による継続的な資本流出
●「円安か金利上昇か」の二択
第2次高市政権が本格的な積極財政を推し進める場合、以下のジレンマが生じると指摘します。
「すでにインフレ圧力が高い中で積極財政を行えば、インフレ率はさらに高止まりします。一方で、日本は今、金利上昇による利払い負担の増加という問題に直面しています。政府も日銀も、金利が上がると利払い負担が増えてしまうんです」
分岐点となる政策判断:
・金利上昇を受け入れる場合 → 構造的円安がやや緩和する方向へ
・利払い負担を恐れて金利を抑える場合 → 実質金利がさらにマイナスに拡大し、円安が加速
長期金利が2.5%程度まで上昇し横ばいが続くだけで、政府の利払い負担は現在の約2.5倍・約25兆円に膨らむと試算。これは過度な試算ではなく「現在の消費税収とほぼ同規模」と佐々木氏は見ています。
●「失われた30年」のツケが顕在化する局面へ
佐々木氏が今回特に強調するのは、過去の政策のツケという問題です。
「日本は『失われた30年』を脱却し、金利が上昇し始めました。しかし、ここで過去30年間の政策のツケを支払うことになります。様々な問題がこれから顕在化してくるでしょう」
すでに政府の利払い負担は増加し始めており、日銀も短期金利を引き上げると当座預金に対して金利を支払う必要が生じます。これは過去の量的緩和政策やマイナス金利政策といった非伝統的な金融政策の帰結であると分析しています。
●インフレ率の「見せかけの低下」
2026年はガソリンの暫定税率引き下げや電気・ガスへの補助金、高校授業料や給食費の無償化拡大など、さまざまな減税・補助金政策によってインフレ率が一時的に低下する見込みですが、佐々木氏はこれを慎重に見ています。
「この下がったインフレ率は一時的なものです。減税や補助金は消費を刺激するため、むしろ先行きのインフレ率を上げる要因になります。数字上下がったインフレ率を見て『だから利上げしなくていい』となってしまうと、実質金利がさらにマイナスになり、円安が進みやすくなります」
●今の日本に必要なのは「金額」ではなく「アイデア」
減税政策について、佐々木氏は興味深い指摘もしています。
「財政政策が『いくら配るか』『いくら給付するか』という話ばかりになってきています。でも、今の日本に必要なのは金額の問題ではなく、アイデアの問題だと思うんです」
アベノミクスの一本目の金融緩和と二本目の財政出動が効いてきた今こそ、三本目の矢である「構造改革」に本腰を入れるべきタイミングだと佐々木氏は解説しています。
●日銀の金融政策正常化——「まだ始まったばかり」
日銀の利上げペースについては、2026年は4月と10月の2回を予想。ただし本来であればもう少し積極的な利上げが望ましいものの、政権との関係を考慮するとペースは抑制されると見ています。
「全く達成できていません。達成どころか、取り組むべき課題は依然として山積しています」——これが日銀の課題達成度についての佐々木氏の率直な評価です。
インフレ率並みに政策金利を引き上げることが本来は必要ですが、利払い費増加と世論の批判という2つの壁がこれを困難にしているとも指摘します。金利を引き上げると日銀は銀行に対して金利を支払う必要が生じるため、「銀行を儲けさせるために利上げをするのか」といった世論の批判が高まる可能性があるというのです。
ターミナルレート(最終到達水準)についても「インフレ率次第」とし、現時点では市場が1.6〜2%程度を織り込み始めているとしつつも、インフレ率が今後さらに上昇すれば5%方向に向かう可能性もあると述べています。
●FRBについては「利下げ局面は既に終了」
市場が年内2回の利下げを織り込む中で、前回の「FRBのタカ派転換がドル高を支える」から、「利下げ局面は既に終了している」とやや見通しにも変化を感じます。
ウォーシュ新FRB議長のタカ派的な姿勢が確認されたこと、投票権を持つ地区連銀総裁を変更する機会があったにもかかわらず変更しなかったこと、さらにパウエル現FRB議長が訴追の可能性に対して強く反発し、共和党議員がそれに同調したことなどから、「FRBは最終的にファンダメンタルズに基づいてのみ金融政策を運営する」と確信を持つようになったと説明しています。
●地政学リスクと「ドルが買われないリスク」
ドルや米国債から資金が流出している動き、金価格の上昇がドル離れの裏返しであること——アメリカと対立関係にある国々がドル保有に現実的なリスクを感じている構造を指摘します。
「ユーロドルが特段の理由なく継続的に上昇する、ドルスイスが下落し続ける、あるいはドルが下落しながら米国の長期金利が上昇する」といった動きが見られた場合にはドルへの警戒が必要だとしています。
●2026年末のドル円予想は165円
2025年末の157円予想は見事に的中しましたが、今回は2026年末165円程度まで円安が進行するとの予想です。
予想の前提条件:
・インフレ率は2%台で高止まり、日銀の利上げは年2回程度
・FRBの利下げは1回から0回(佐々木氏は利下げなしを予想)
・対外直接投資は増加(トランプ政権との合意で今後80兆円超)
リスクシナリオ(円高方向): 日銀が政権との関係を度外視して年3〜4回の積極的な利上げを実施する、あるいは長期金利上昇に対して「国債購入はもう実施しない」という明確な方針を示して長期金利の上昇を容認する場合。「これは私の予想にとってのリスクシナリオですが、日本経済全体にとってはその方が望ましい」と佐々木氏は述べています。
●推奨資産クラスの変化
長期的な運用に適している通貨として、前回は豪ドルとスイスフランを挙げていましたが、その後対円で史上最高値を更新。今回はこれに加えてユーロも組み入れ候補として言及し、ドルに対するヘッジを構築することが望ましいとしています。
また日本株については「実質金利マイナスが継続すれば円安が進み、日本株は名目上膨張する」というロジックで引き続き有望としています。米国株に投資する場合はドルの動向という不確実性が加わりバリュエーションも既に高水準にあるため、日本株のほうが比較的シンプルなロジックで上昇が期待できると分析しています。
ゴールドについては急上昇ペースへの追随は危険として「少しずつ積み立てる」アプローチを推奨しています。
前回(2025年11月)から今回(2026年2月)で変わったこと・変わらなかったこと
●変わらなかったこと(継続する見解)
・構造的円安は続く(実質金利マイナス+対外直接投資フロー)
前回から一貫して指摘されている中核的な見方です。高市政権の政策がこの構造をさらに深める可能性があるという見方も変わっていません。
・株高・金高は通貨価値下落の裏返し
円安・インフレが進む環境では株価や金価格が名目上膨張するが、これは実質的な豊かさではなくトルコやアルゼンチンでも見られる現象だと今回も繰り返されました。
・預貯金だけでは資産が目減りするリスク
インフレ率が実質的にお金を目減りさせているため、何らかの投資行動が必要という基本的なメッセージは変わっていません。
●変わったこと(アップデートされた見解)
・「意図的インフレ誘導の疑い」から「政策のジレンマ」へ
前回は「わざとやっている可能性がある」という踏み込んだ表現でしたが、今回はむしろ構造的なジレンマ(利払い負担の増大と政権からの圧力)として整理されています。「意図的とは考えにくいが、一般論として政府がそうした考えを持つことは経済学的に理解できる」という表現に変化しました。
・FRBの利下げ観測:タカ派転換の可能性 → 「利下げ局面は既に終了」
前回はFOMCのタカ派転換の可能性を円安要因として挙げていましたが、今回は「利下げは終わった」との見方を示しています。
・リスク要因として地政学リスクを前面に
ドル離れ・米国債離れという動きを具体的に論じ、「これが今のドル円相場を見る上で最も重要なリスク」と位置づけました。
・「失われた30年のツケ」という長期的文脈の強調
日銀が正常化を進める中で、過去の量的緩和・マイナス金利のツケ(当座預金への利払い増加、長期金利上昇による政府負担増)が今後顕在化していくという見方が今回より詳細に語られました。
まとめ——個人投資家へのメッセージ
前回から今回にかけて、佐々木氏の分析の骨格は変わっていません。「実質金利がマイナスである限り、円は構造的に弱い」——これが揺るぎない中核です。
ただし、今回の佐々木氏へのインタビューを終えて、前回より問題が深刻化している印象を受けました。衆院選での自民圧勝は積極財政路線を加速させ、利上げを困難にする政治的圧力をさらに強める可能性があります。2026年は補助金効果でインフレ率が一時的に低下するように見えますが、それが「利上げ不要論」の根拠になってしまうと、実質金利のマイナス幅がかえって拡大し、円安がさらに進む逆説的なリスクがあります。
佐々木氏が個人投資家に贈るメッセージは一貫しています——「先入観を持たず、分散投資と時間分散を継続すること」。急激に上昇した資産を追いかけるのではなく、少しずつ積み立て、長期的に保有する規律こそが、変化の激しい2026年を乗り越えるための鍵になるはずです。
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ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジスト佐々木 融 (ささき・とおる)氏
1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。
2010年にマネージングディレクター就任、2015年から2023年11月まで同行市場調査本部長。23年12月から現職。著書に「インフレ・円安・バラマキ・国富流出」「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」など。
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