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原油供給ショックと連続する金融政策の重要イベント
米国とイスラエルが2月28日にイラン攻撃を開始してから約2週間が経過しました。この間に中東有事は「将来の不確実性」から「実体経済における供給ショック」へと進展しています。原油市場では、ホルムズ海峡が事実上封鎖されたことで、日量約2,000万バレルの原油輸送が停滞しています。WTI原油先物の価格は開戦前の72ドル台から100ドルを突破する急騰で、いよいよ120ドルが視野に入ってきました。クウェート、UAE、イラクの減産も重なって、原油供給が途絶するリスクが顕在化しています。
攻撃開始の1週間後、3月6日に発表された米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)がマイナス9.2万人と予想外の大幅減少となり、失業率は4.4%に上昇しました。物価上昇と景気後退が同時進行するスタグフレーションの懸念が、市場に広がっています。金融市場の動揺も顕著です。VIX指数(恐怖指数)は3月9日、先物で30.19を記録。同日、日経平均株価は一時52,000円を割り込み、ドル/円相場は円安圧力が働き、1ドル=157円〜158円台での取引が継続しています。
こうした状況で、3月11日の米CPI(消費者物価指数)発表から3月19日の日銀金融政策決定会合まで、主要な経済指標の発表と日米欧で金融政策の決定が連続するという極めて重要な局面を迎えます。特に3月19日は、米(FOMC)・日(日銀)・欧(ECB)の中銀による政策が半日の間に集中して決定される異例のスケジュール(スーパーセントラルバンク・ウィーク)で、今後の市場動向を方向づける大きな山場を迎えます。
特にFRB(米連邦準備制度理事会)にとっては大きな節目となりそうです。パウエル議長は2026年5月15日に任期が満了します。パウエル議長にとって、経済予測(SEP)を伴う会合は今回が最後になるでしょう。どのような見通しが示され、現状をどう総括するかに注視が集まっています。会合を目前に控え、投資家はどのように状況を整理しておくべきか、3つのポイントで解説します。
POINT1: FOMCにおける「物価抑制」と「雇用維持」の優先順位
1)政策金利据え置き
FOMC(米連邦公開市場委員会)は3月17日(火)〜18日(水)の2日間にわたって開催され、結果は日本時間3月19日(木)午前4:00に発表される予定です。現在の政策金利(FF金利:3.50〜3.75%)は据え置きとなる公算が大きく、市場では90%以上の高い確率で据え置きが見込まれています。
政策金利の変更が見送られるなか、市場の関心は「ドットチャート(金利予測分布図)」と「経済見通し(SEP)」の修正内容に向かっています。今回は3月・6月・9月・12月の年4回公表されるSEPを伴う会合であり、FRB(米連邦準備制度理事会)メンバー全員の金利見通しも示されます。
2)ドットチャートの変化
前回(12月)のドットチャートでは、2026年末のFF金利中央値は3.4%と、年内1回の利下げ(25bp)が多数派でした。ただ、一部の委員からは「年内利下げゼロ」という意見が出されています。
今回の会合は、イラン攻撃による原油価格急騰と米国内の雇用指標悪化という状況の中で開催されるため、この金利予測がどのように変化するかに注目が集まっています。利下げで景気を下支えするのか、据え置きでインフレを抑制するのか。どちらの判断が優先されるかが注目されます。
3)FOMCメンバーのスタンスと市場への影響

FOMCでは、7人のFRB理事(正副議長を含む)と12の地区連銀の総裁を合わせた最大19人の金融当局者の見通しが示されます。今回のスタンスで、市場はどのような影響を受けるのか、表にまとめてみました。
4)相次ぐ物価指標発表の内容に留意
3月11日(水)には2月のCPI(消費者物価指数)が発表されます。前回(1月)はコアCPIが前年比+2.5%とインフレの鈍化が確認されました。ただ、2月のCPI集計期間には直近の原油価格急騰が十分に反映されていないので注意が必要です。
また、FOMC最終日の朝には2月のPPI(生産者物価指数)が発表されます。PPIは企業の仕入れコストを反映し、エネルギー価格の変動をCPIよりも早く捉える傾向があります。FOMCメンバーはこの結果を確認したうえで、最終的な政策判断を下すことになります。
つまり、3月11日のCPIでインフレの落ち着きが示されたとしても、その後、PPIでエネルギーコストの上昇が確認されれば、ドットチャートの見通しが引き上げられる可能性があるので、相次いで発表される物価指標の確認が不可欠です。
POINT2:日銀会合の「輸入コスト増」への対応と円安構造
1)政策金利の据え置き予測
日銀金融政策決定会合は3月18日(水)〜19日(木)に開催されます。発表は19日昼前後、植田総裁の記者会見は15:30の予定です。現在の政策金利は0.75%です。
イラン攻撃前の2月中旬時点では、3月の早期利上げや年内複数回の追加利上げを見込む向きがありました。ただ、中東情勢の緊迫化により状況は変化しています。植田総裁は国会で「中東情勢と原油高が日本経済に重大な影響を及ぼす可能性」について、慎重な姿勢を示しています。また、東京都区部の2月消費者物価指数(CPI)が、前年比1.8%プラスと、目標の2.0%を下回ったことも、追加利上げをしにくい要因となっています。
2)「有事の円安」を招く構造的要因
これまで地政学リスクの高まりは「安全通貨」とされる円の買い要因となっていました。ただ、足元ではドル/円相場が157円〜158円台という高値圏で膠着しています。米雇用統計(NFP)が予想外のマイナスになるという「円高要因」がありながら、依然として高値圏で推移している事実は、市場における「通貨の歪み」を象徴しています。
背景にあるのは、約90%という日本の原油輸入の中東依存度の高さです。ホルムズ海峡の封鎖などで原油価格が急騰すれば、代金支払いのための実需に基づく「円売り・ドル買い」が加速します。輸入価格が上昇すると、国全体の「稼ぐ力」は低下します。今の日本は有事であっても、円高による輸入コスト低減という恩恵が得られにくい構造になっています。原油価格が高止まりする限り、この円安圧力は継続するでしょう。
3)春闘の結果が個人消費に与える影響
3月中旬に回答の山場を迎える春闘の結果も、日銀の判断材料として注目されます。日本労働組合総連合会(連合)による3月5日時点の集計をみると、賃上げ要求は平均5.94%と高水準です。企業側の回答内容が賃金と物価の好循環を裏付けるものであれば、将来的な利上げの判断材料となります。
ただし、原油高による輸入コスト増は実質所得の改善を相殺してしまうので、個人消費の回復を鈍化させる懸念があります。これにより、日銀の利上げシナリオ自体が修正を迫られるリスクがあります。
4)日銀会合のシナリオとドル/円の反応
日銀の金融政策決定会合で現状維持が決まった場合でも、植田総裁の記者会見では「次の利上げの条件」に関する発言が注目されます。考えられるシナリオ別に、ドル/円相場と日経225への影響を、表にまとめてみました。

さて、ここまではFOMCと日銀会合でのポイントを整理してきました。これらのイベントを直前に控えた今、相場のチャートは何を語っているのでしょうか。外為どっとコムの週足チャートを使ったテクニカル分析から、ドル/円相場、S&P500、日経225の「現在地」を確認してみましょう。
POINT3:主要アセットのテクニカル分析と市場の現在地
1)米ドル/円相場は上昇トレンドの継続と節目への接近
米ドル/円の週足チャートから、今の状況を読み取ります。
ドル/円相場(週足)の推移

短期(25週)、中期(75週)、長期(200週)の移動平均線は、すべて右肩上がりに配列されており、中長期の円安トレンドが継続しています。足元の価格は+1σラインを上抜けており、調整局面では短期移動平均線が中期的なサポートとして意識されます。
ボリンジャーバンドを見ると、直近の終値は+1σラインを上抜けています。統計的には上昇トレンドの加速を示唆しており、次の節目として+2σラインがターゲットとなります。一方で、反落の際には-1σライン付近までの押し目も想定されます。
テクニカル分析をすると、1ドル=160円台を試す可能性があります。しかし、過去の高値水準が密集するゾーンでもあるので、突破するには、FOMCや日銀会合での政策決定が重要な材料となります。情勢変化で、1ドル=154円台後半までの巻き戻しも想定されるため、ポジション量を調整して臨む必要があります。
2)S&P500は主要支持線を下抜け、調整局面が深刻化
外為どっとコムのCFDで、S&P500の週足チャートを見てみましょう。
S&P500(週足)の推移

これまでの上昇トレンドを支えてきた複数の節目を割り込む強い売り圧力が確認されます。
移動平均線では相次いで支持線を下抜けしています。直近の急落で短期的なトレンドの節目である25週移動平均線(ピンク線)を明確に下回りました。さらに、ボリンジャーバンドの統計的サポートであった−1σラインを一気に下抜けており、下落の勢いが極めて強いことを示しています。
現在の価格帯から下値のメドをたててみます。下方を確認すると−2σラインを一度下抜けした後に反発しているので、ここが次なる防衛ラインになりそうです。長期的な最終支持線である75週移動平均線(緑線)は、約6,600ポイント付近に位置していますが、足元の価格からはまだ距離があり、今は短期的な下方支持線が定まりにくい不安定な状態といえます。
MACDは依然としてプラス圏(ゼロラインより上)に位置しています。ただし、MACDラインがシグナルラインを上から下に突き抜ける「デッドクロス」が発生しました。これはテクニカル分析の判断としては「売りサイン」であり、トレンド変換の兆しを示唆しています。
S&P500は25週移動平均線やボリンジャーバンドの−1σといった主要なテクニカル指標を短期間で相次いで割り込みました。MACDの売りサインも点灯しています。現在は「底打ち」を確認できる材料が乏しく、一旦、−2σラインで踏みとどまれるかが焦点となります。ここを維持できない場合は、さらに一段下値を模索することが警戒されます。
3)日経225の急激な価格調整と25週移動平均線を巡る攻防
外為どっとコムのCFDで日経225の週足チャートを確認してみました。これまでの上昇トレンドが一転し、非常に強い売り圧力が確認されています。
日経225(週足)の推移

ボリンジャーバンドで分析すると、+2σライン付近に位置していた価格は急落、一気に+1σラインを割り込みました。また、チャートは現在、25週短期移動平均線(ピンク線)まで到達しており、一時的に同ラインを割り込むほどの激しい下落を見せています。この25週移動平均線がサポートとして機能し、終値ベースで維持できるかが、当面のトレンドを占う極めて重要な分岐点となります。MACDは依然としてプラス圏に位置していますが、シグナルラインとの差を示すヒストグラムは急速に縮小しており、モメンタムの急減速が観測されています。MACDラインがシグナルラインを上から下に突き抜ける「デッドクロス」が強く意識される水準まで接近しています。弱気シグナルの確定には、十分な警戒が必要です。
日経225急落の背景は、日本のエネルギー構造に起因する脆弱性があります。原油輸入の約90%を中東に依存しているため、中東有事の際の価格急騰は避けられません。そうなると輸入コストは劇的に押し上げられ、輸入企業の利益は悪化します。
有事の際に「円高によるコスト低減の恩恵が得られない」という特有の構造が、米国株以上の下落圧力になっている点に注意しましょう。目先は25週移動平均線での底堅さを確認できるかが重要です。
上述した通り、ドル/円相場は週足の+1σラインを維持して、1ドル=160円台を視野に入れる位置にあります。他方、S&P500は主要な支持線やボリンジャーバンドが相次いで割り込み、現時点では底打ちを確認できるテクニカルな根拠が不足しています。日経225も25週移動平均線付近まで急落しており、トレンド維持の極めて重要な分岐点に立たされています。
POINT4:投資戦略における「ボラティリティ管理」と「資産配分」
1)3月19日の「4大中銀同日決定」に注意
最も注意すべき点は、3月19日(木)に4つの主要中央銀行(米・日・欧・英)の政策決定が集中していることです。特に、日本時間午前4時に発表されるFOMCの結果から、次の日のお昼前後に発表される日銀の決定まで約8時間しかありません。米国の政策発表とパウエル議長の会見を受け、ドル/円相場が変動した状態で、日銀の判断が示されるわけで、連鎖的な価格変動に注意が必要です。
2)ポジション管理の実務的指針
具体的な対策としては、FXやCFDのポジションを、急な価格変動による強制ロスカットを回避できる水準になるように、通常の3分の1以下に縮小します。現在はドル/円相場が約158〜160円、日経225が約51,000〜54,000円というレンジで、主要なテクニカル分析の結果は、方向性を模索している状況です。つまり、どちらの方向に動いても、その変動に耐えうる余力を持っておくべきでしょう。
3月19日までの一連のイベントを無事通過し、市場の反応が落ち着くまでの間は、キャッシュ比率を引き上げておくためにも、大規模なエントリーは控えるべきです。
その際、「中東情勢 → 原油価格 → 長期金利 → 各国通貨・株式相場」という市場に大きな影響を及ぼす「連鎖」の構図に注視してください。中でも原油価格の動向は先行性の高い指標となります。
そして、移動平均線やボリンジャーバンドといったテクニカル指標の推移を、客観的に計測して、相場の方向性と正常化の兆候を見極めるようにしましょう。
中央銀行の新たな政策指針の確認
イラン攻撃という外部要因に対して米国のFOMCと日銀金融政策決定会合が、どのような優先順位で対処するのかが、今後の市場動向の鍵になります。3月18〜19日で示される主要中央銀行の公式見解は、2026年上半期の投資環境を決定づける重要な判断となるでしょう。
FRBにとって今回のFOMCは、パウエル議長の任期満了前の最後の会合であり、特別な節目となります。後任のFRB議長が誰になるのかという不確実な要素もあります。ドル/円相場では1ドル=160円台を視野に入れた動き、S&P500や日経225では重要支持線での攻防など、テクニカル分析においても分岐点となりそうな重要な意味を持っています。
各国の中央銀行が明確な指針を示すまでは、過度な売買は控え、リスク管理を最優先する姿勢が求められます。市場が極めて敏感な状態にあるなか、感情的な売買は避けて、テクニカル分析による根拠と金融政策の重要イベントの結果を冷静に見極めることが鍵となります。
岩田仙吉(いわたせんきち)氏株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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