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米・イスラエルのイラン攻撃で市場に大激震
米国とイスラエルが2026年2月28日、対イラン合同軍事作戦を開始したことで、中東情勢は一気に緊迫しました。開戦時の空爆でイラン最高指導者のハメネイ氏は死亡、米国とイスラエルによる大規模な攻撃に対して、イラン側も報復攻撃(True Promise IV)で応戦、戦火はペルシャ湾全域から周辺諸国を巻き込む大規模な紛争へと拡大し、深刻な事態となっています。世界経済に今、大きな影響を与えているのが、イランによる事実上の「ホルムズ海峡の封鎖」です。約2,000万バレル/日の原油を供給する大動脈が遮断され、保険会社が通航を拒否したため、150隻以上のタンカーが停滞しています。供給途絶のリスクが現実のものとなり、いまだに停戦の糸口は見えていません。
開戦後1週間で、紛争による恐怖から「市場温度」は一変しました。米10年債利回りは原油高によるインフレ懸念から、金利が上昇しています。有事では債券が買われ金利は低下するのが通常の動きですが、今回は逆転しています。このため、景気後退とインフレが同時進行する「スタグフレーション」への警戒感が急速に高まっています。
ここで攻撃直後から起きている市場の動きを整理してみます。
1)有事勃発 →2)ホルムズ海峡封鎖 →3)原油急騰 →4)インフレ再燃懸念 →5)利下げ観測後退 →6)リスク資産売り+安全資産逃避
このように因果関係は極めて明快です。
1991年の湾岸戦争や2022年のウクライナ侵攻と比較すると、今回のイラン攻撃は「供給の物理的遮断」という点で性質が異なります。市場への波及速度が格段に速く、この連鎖が市場を激しく揺さぶっています。
安全資産「金(ゴールド)」への資金逃避が示す警戒水準
安全資産と言われる「金(ゴールド)」の価格は、開戦後、3月2日には一時5,400ドル台まで急騰しました。しかし、ドル高・米金利上昇が逆風となり、今は利益確定売りに押されています。
金(スポット)価格の推移(週足ベース)
ただし、5,000ドルの大台は依然として維持しており、下値では実需の買いが入る展開です。
外為どっとコムのCFDで週足チャートを確認してみると、25週・75週・200週MAのすべてが上向きとなる「パーフェクトオーダー」を維持しており、長期上昇トレンドの基調は崩れていません。直近のローソク足は5,000ドル台前半に位置しており、25週ボリンジャーバンドの+1σ〜+2σ圏で推移しています。
注目すべきは、米実質金利がプラス圏内にあるにもかかわらず、金(ゴールド)の価格が高止まりしている点です。各国中央銀行(特に中国・インド)の買い入れ、ドル基軸通貨体制への不信感、そして地政学プレミアムが三層構造で下支えしています。
アナリストの見通しでは、ゴールドマンサックスが2026年末目標で5,400ドルの価格を設定、JPモルガンは年末6,300ドルを予想しています。米独立系先物ブローカーの「RJO Futures」のシニアストラテジストは、「足元のドル高・金利高による下落は一時的であり、地政学リスクによる安全逃避が再び金価格を押し上げる」と見ています。5,000ドルを割り込まない限り、上昇トレンドの中の「調整」局面と見るのが妥当でしょう。
原油(WTI)の供給不安が招く「コストプッシュ」の衝撃
イラン攻撃で起きた中東有事で、WTI原油価格は市場の「熱源」となっています。外為どっとコムのCFDのチャートで、直近の週間上昇率を確認すると、先物取引開始以来の記録を塗り替える、歴史的な騰勢となっていました。また、北海ブレントや中東指標のムルバン原油も軒並み節目となる大台に迫るなど、原油市場全体で「買い」が殺到しています。
原油(WTI)価格の推移(週足ベース)
攻撃前の水準と比較すると、わずか1週間で記録的な急騰です。日次ベースの推移を見ても、5営業日連続で高値を切り上げる「階段上げ」の様相を呈しています。
テクニカル分析の観点からすると、これは明確な「異常値」です。
1)移動平均線は週足ベースで25週・75週・200週という主要移動平均線をすべて一気に上方突破しました。2)ボリンジャーバンドでは、統計学的な過熱圏とされる「+3σ(シグマ)」のラインを大幅に逸脱する水準まで突き抜けています。3)MACDでは、ゼロラインを下から急角度で上放れて、ヒストグラムが急拡大しており、上昇トレンドの勢いが極めて強いことを示しています。
通常の需給分析が機能しない
OPEC+(石油輸出国機構プラス※1)で追加増産が決定されましたが、ホルムズ海峡封鎖による莫大な供給損失に対しては、わずかな埋め合わせに留まるとの見方が大勢を占めています。主要金融機関も多額のリスクプレミアムを認識しており、封鎖が数週間続けば、さらなる価格高騰は避けられないという警告が相次いでいます。
※1OPEC+:従来のOPECであるイラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラ、リビア、アルジェリア、ナイジェリア、アラブ首長国連邦、ガボン、赤道ギニア、コンゴという加盟12カ国にアゼルバイジャン、バーレーン、ブラジル、ブルネイ、カザフスタン、マレーシア、メキシコ、オマーン、ロシア、スーダン、南スーダンの11カ国を加えたもの
この原油急騰は、コストプッシュ型インフレを通じてFRB(連邦制度準備理事会)の利下げ判断を困難にし、景気後退と物価高が共存する「スタグフレーション」への懸念を増幅させています。米国内のガソリン価格上昇も顕著で、政治的な緊張感も高まっています。
ボリンジャーバンドの+3σを逸脱した現在の相場は、歴史的な過熱状態です。日足ベースで反転のサイン(長い上ヒゲや包み足など)が確認されるまでは、安易な逆張りは避けて、過熱感解消のタイミングを慎重に見極めるべき局面です。
ドル/円(USD/JPY)は「原油高のドル買い」vs「有事の円買い」の戦いに
ドル/円相場は数週間ぶりの高値圏で膠着した動きを見せています。イラン攻撃前の水準と比較すると、円安・ドル高方向で推移しています。
ドル/円相場の推移(週足ベース)

注目すべきは、先日発表された米雇用統計の内容です。非農業部門雇用者数(NFP)は予想外のマイナスで、雇用市場の停滞を示唆する結果となりました。通常であれば、大幅なドル安・円高要因となるはずですが、ドル/円相場は高値圏で推移しています。ここに現在の市場における「通貨の歪み」が顕著に表れています。
テクニカルでみると、1)移動平均線は短期(25週)移動平均線の上方で推移しており、中期(75週)移動平均線が強力なサポートとして機能しています。長期(200週)線は下方に位置し、中長期的な円安トレンドが継続しています。2)ボリンジャーバンドはバンドのプラス側のライン(+1σ付近)に到達しており、上方向への圧力が意識される水準にあります。3)MACDはプラス圏で推移しており、上昇の勢いが衰えていないことを示唆しています。
原油高騰がもたらす構造的な円安圧力
現在のドル/円相場は「有事の円買い」を打ち消すほどの円安圧力が働いています。その背景にあるのは、エネルギーの輸入に伴う「実需」の動きです。日本の原油輸入の中東依存度は極めて高いので、中東情勢緊迫化による原油価格の急騰は、いずれ日本の輸入コストを押し上げることになります。
輸出製品の価格と相対的に比較して、輸入する原油などの原料価格が大きく上昇すると、結果的に国全体として外へ出ていくお金が急増します。膨大なエネルギー代金を支払うためには、大量の「円」を売って「ドル」を調達する必要があります。「実需」の「円売り・ドル買い」が加速することで、たとえ有事であっても円高になりにくい、あるいは円安が進みやすい構造を作り出しています。
為替相場「三つどもえ」の綱引き
「実需のドル買い」「伝統的な有事の円買い」「米利下げ期待」の3つの力が均衡していましたが、今は輸入コスト増を背景とした円安圧力がやや優勢な状況です。直近で「雇用指標の悪化」という強力なドル安材料がありながら、高値圏を維持している事実は、円の構造的な弱さを象徴しています。直近の高値ラインを明確に上抜けた場合は、一段の円安加速が警戒されます。一方で、停戦の兆しにより原油価格が急落すれば、輸入コストの負担が軽減するとともに、円高方向への急激な巻き戻しが起こる可能性があります。その点は十分に注意しましょう。
金利と地政学のダブルパンチがS&P500を見舞う
米国株(S&P500)は、年初来の高値圏から急速に水準を切り下げる展開となっています。週足チャートではじわじわとした押し目に見えますが、日足ベースでは短期間に主要な節目を割り込む「急落」の動きを見せており、市場のパニック的な売り圧力が強まっています。
S&P500の推移(週足ベース)
これをテクニカル分析をすると、以下のポイントが注目されます。
1)移動平均線では、チャートが短期(25週)移動平均線を明確に割り込んでおり、下落に弾みがついています。一方で、中期(75週)および長期(200週)移動平均線は依然として下方に位置しています。今後これらが中長期的な最終支持線(サポート)として機能するかが焦点となります。2)ボリンジャーバンドではバンドのマイナス側のライン(-2σ付近)に到達しており、バンドウォークを伴って、さらに下値を模索するのか警戒が必要です。
米国株市場に吹く「3つ」の逆風
現在の米国株市場は逃げ場のない「逆風」が3つ吹いています。まず、イラン攻撃をきっかけとする中東紛争の激化という先行きが不透明な地政学リスクです。続いて、原油高に伴う物価上昇と、それによる利下げ期待の急速な後退というインフレ再燃の懸念です。最後は、雇用指標悪化という実体経済の冷え込みによる景気減速懸念が、株価の下押し圧力になっていることです。
株式市場内の資金は、防衛関連やエネルギーセクターへ避難する一方で、旅行、航空、テクノロジーセクターの株式が投げ売られる「有事のセクターローテーション」が加速しています。機関投資家によるヘッジ需要も記録的な水準に達しており、恐怖指数(VIX)が高止まりしやすい不安定な構造です。
長期トレンドの節目はまだ維持していますが、日足レベルでは急落しているため、投資家の心理が冷え込んでいます。相場反転の条件は、「イラン情勢の沈静化」でしょう。これが確認されて、原油高によるインフレ懸念がやわらぐまでは、テクニカル的な反発が起きても、一時的なものに留まるリスクが高く、調整が数カ月に及ぶ「長期停滞」に発展する可能性もありますので、慎重な見極めが必要です。
波及終着点の日経平均が自律反発するメドは?
日本市場では、中東情勢の緊迫化で米国市場以上に深刻な影響を受けています。直近で小幅反発を見せたものの、この1週間で過去数年でも稀な大幅下落を記録しました。チャート上では、それまでの堅調な上昇トレンドを、一気に突き崩すような長い陰線が出現しており、週足ベースで見ても明らかに「急落」しています。
日経平均株価(日経225)の推移(週足ベース)
テクニカル分析からは以下のポイントが注目されます。
1)移動平均線では、勢いよく短期(25週)移動平均線の水準まで下落しました。このラインがこれまでの「支持線」となるか、それとも下抜けするか警戒が必要です。2)ボリンジャーバンドはプラス2σラインの水準から、プラス1σラインを下抜けて短期移動平均線の水準まで下落しました。市場の売り圧力が過熱していることを示唆しています。さらに下方のライン(-1σ)付近が、次なる心理的な下値メドとして意識されています。
原油高騰による構造的な円安圧力
日本は原油輸入の中東依存度が極めて高いので、ホルムズ海峡封鎖の影響は他国と比べて大きくなります。輸出価格に対して輸入価格が相対的に大きく上昇すると、国全体として外へ出ていくお金が急増します。膨大なエネルギー代金を支払うために実需の「円売り・ドル買い」が加速して、企業収益を直接的に圧迫し、「有事であっても円安が進行し、輸入コストの上昇に歯止めがかからない」という、日本特有の苦しい構造が生まれています。
週足ベースで明確なトレンドの崩れ(大陰線の出現)が見られる以上、底打ちの兆候は依然として確認できず、安易な押し目買いには、極めて高いリスクを伴います。現在の相場はテクニカルな自律反発すら期待しにくい「パニック売り」の局面と考えられるので、反転するための絶対条件は「イラン情勢の沈静化」です。事態が沈静化し、エネルギー価格の落ち着きとともに輸入コスト負担(実需の円売り圧力)が軽減されるまでは、キャッシュポジションを高めた慎重なスタンスを、投資家は維持すべきです。
有事と向き合う投資戦略
今回の米国・イスラエルによるイラン攻撃は、過去の地政学リスクよりも大きなものになりそうです。原油価格の歴史的な高騰によるインフレ再燃懸念と、米雇用指標の急激な悪化が同時に進行しており、FRBの政策判断は極めて困難なものになっています。
今回の市場混乱を整理すると、
ホルムズ海峡封鎖 → 原油価格の異常な急騰 → インフレ再燃懸念 → 利下げ期待の後退(高金利の長期化観測) → 米長期金利の上昇 → 米国株(S&P500)の急落 → 日本株(日経平均)への波及 → 安全資産(金など)への資金逃避 → 実需のドル買いによるドル/円相場の膠着
という連鎖が見て取れます。
今後、エネルギー供給の要所であるホルムズ海峡の封鎖がどの程度継続するか、これが相場動向を左右する最大の変数となるでしょう。
今、私は3つのシナリオを考えています。

次の重要なイベントは、3月18日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)です。原油高と雇用悪化が同時に発生する状況で、パウエルFRB議長が「インフレ抑制」と「景気下支え」のどちらに軸足を置くかで、市場の方向性が決まります。
ボラティリティ(価格変動幅)が極限まで高まっている現状では、ポジションサイズを通常よりも大幅に抑えて、キャッシュ比率(現金の割合)を高めることが有効です。特にボリンジャーバンドが異常値を示している原油や、週足ベースで明確な崩れを見せている日経平均先物においては、レバレッジを極力落とすことを優先してください。
相場反転の絶対条件は、「イラン情勢の沈静化」です。不透明な局面を乗り越えた先にチャンスがあります。少なくとも、FOMCによる政策の方向性が見えるまでは、「守りの姿勢」を崩さないようにしましょう。
岩田仙吉(いわたせんきち)氏株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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