為替トレーダーとして1988年に渡英し、スイス銀行・バークレイズ銀行・メリルリンチで外国為替の第一線でご活躍された松崎美子氏。現在はロンドン在住の個人投資家として、欧州通貨の最前線情報を発信し続けています。アメリカ・イスラエルとイランの対立が長期化する中、欧州の物価動向から金融政策やユーロ円の行方まで、現地での実感を交えながら解説していただきました。
【必見!】松崎美子氏の解説動画
ロンドンではインフレが加速中

松崎氏が最近ロンドンに戻った際、わずか2週間でガソリン価格がリッター約290円から390円(円換算)へと100円も跳ね上がっていました。キュウリ1本も220円から250円に上昇しており、「時間が経つほどグイグイいく」とおっしゃっています。
アイルランドでは低所得者向けに政府補助が出た一方、イギリスはブレグジット(2016年)とウクライナ危機(2022年)での学習効果から、緊縮財政中の政府は一切のサポートを出しません。国民はそれを織り込み済みで、公共交通機関の活用など自衛策を粛々と実践しています。ガソリン代は物流コストに直結するため、あらゆる品目への波及は避けられない状況です。
ウクライナ危機の「学習効果」でエネルギー調達を多様化済み
2022年のロシア・ウクライナ戦争でロシア依存の脆さを痛感したヨーロッパは、ノルウェーやアメリカなどへ調達先を分散しました。今回の中東危機では「供給は確保できているが、価格は上がっている」という状況です。石油はアメリカからの供給が増えた一方、ガスはカタール依存が残っています。
見落とされがちなのが肥料です。世界の肥料の約50%がホルムズ海峡を通過しており、中東の緊張が長期化すれば食料生産コストへの波及は避けられないと松崎氏は指摘しています。
ユーロが売られなかった理由――「ドル自体を誰も買いたくない」
2022年のウクライナ危機ではユーロが1ドル=1ユーロのパリティを割り込むほど急落しましたが、今回は開戦直後こそ若干の下落があったものの、すぐに全回復しました。松崎氏はその理由をこのように語っています。
「中東問題がなければ、誰もドルを買いたくない。停戦観測が出るたびにドルが売られ始めている」
加えてハンガリーの政権交代をきっかけに、ユーロが第2の基軸通貨へ向けた動きを強めているとして、「ユーロは一応持っておいた方がいい」とおっしゃっています。ポンドとの大きな違いは、ユーロがこの文脈において構造的な買い材料を複数持っている点にあります。
ユーロ円が史上最高値更新。円の構造問題と海外勢の「諦め」
ユーロ円は高市政権発足以降だけで10円超の上昇となり、1999年のユーロ発足後の史上最高値を更新中です。この背景には円安だけでなく、海外投資家の日銀・円に対する関心低下があります。
リフレ派の理事就任以降、「結局やっていることは変わらない」と判断した海外勢は撤退しています。4月利上げ見送りの報道にもほとんど反応せず、「介入があれば一緒に乗らせてほしい」程度の関与にとどまっています。
「以前は悪い言い方をすれば日銀をいじめようという意欲のある海外投資家がいたんですけど、今は完全に蚊帳の外。もっと楽しいことが世界で起きているので」
植田総裁については「政府からの圧力でやりたくてもやれない部分がある、気の毒な面もある」と指摘されています。ユーロドルが1.20〜1.22ドルへ上昇し、ドル安・円安が掛け算されると、ユーロ円の190円台も射程圏内に入るとの見通しです。
ハンガリー政権交代はユーロにとって「いいことずくめ」

4月12日に行われたハンガリー総選挙でオルバン政権が敗北し、16年ぶりの政権交代が実現しました。松崎氏はこれを「いいことずくめ」と評価しつつも、課題の大きさを指摘されています。新首相就任(5月6〜7日予定)後にオルバン系の大統領・最高裁長官らを実際に更迭できるかが最初の関門となります。EU停止中の助成金再開には構造改革が前提条件であり、ユーロ加盟の最短ルートは2031〜32年、通常は10年単位の収斂作業が必要です。
トルコのEU加盟交渉が停止した経緯との違いとして「キリスト教国という文化的・宗教的共通点がある」点を挙げており、ハンガリーの加盟が実現すればユーロ買いの材料はさらに強化されます。
ECBの金融政策――利上げより「恵みの雨を待つ」姿勢

ECBはすでに中立金利に達しており、FRB・BOEと異なり追加利下げ余地がない特殊な立場にあります。現時点で利上げが可能な国はスペインのみで、ドイツ・フランス・イタリアは「利上げしないでほしい」が本音だと松崎氏は見ています。
「金融政策を一度変えると方向転換できない。今、イギリスが一番欲しいのは利下げという恵みの雨。それを待っている状況です」
イランとの緊張が仮に5月末に収束しても、インフレへの影響は約4ヶ月のタイムラグがあり、9月頃にCPIが4%超となる可能性があります。
ヨーロッパの政治イベント
松崎氏が特に注視する政治イベントは以下の通りです。
・2026年9月:旧東ドイツ3州の州議会選挙(AFD極右が第一党になる可能性)
・2027年4〜5月:フランス大統領選(ルペン氏有罪判決の有無が鍵)
・2027年12月まで:イタリア総選挙(野党5つ星運動らの共闘でメローニ政権が窮地の可能性)
・2029年:ドイツ総選挙・欧州議会選挙・ECB総裁人事が重なる「大転換点」
特に2029年はフォンデアライエン委員長を含む欧州主要幹部が総入れ替えとなる見通しで、「財政統合・予算統合への一気呵成が期待できる」と松崎氏はおっしゃっています。トランプ政権も終わっているタイミングで「ヨーロッパがバラ色になる」シナリオも現実味を帯びてきます。
日本の財政懸念は「一服」だが再燃リスクあり
ガソリン補助金を継続する日本について、松崎氏は「イギリスが390円払っているのに日本が160円というのは長くは続かない」と警告されています。日本の公的債務残高対GDP比は約247%でイギリス(120〜130%)の約2倍です。補助金廃止のタイミングで海外勢の財政懸念が再燃し、介入しても効かない水準の円安になりかねません。長期金利は再び上昇基調にあり、「足元の財政懸念は一服しているが、確実にどこかで再燃する」と分析しています。
まとめ:「ヨーロッパの時代」に向けて今から学ぶべき理由
イラン情勢・ドル離れ・ハンガリー政権交代、これらが重なり合う中で、ユーロは構造的な上昇ドライバーを複数持っています。一方で2026年のドイツ州議会、2027年のフランス大統領選・イタリア総選挙など政治リスクも多く、一本調子ではありません。
「冗談抜きでヨーロッパの時代になるんじゃないかと思っている。ユーロのボリュームがどんどん上がってきている。」
ユーロやポンドの具体的な見通しとトレードイメージについては、外為どっとコム会員様限定で松崎氏が詳しく解説しています。近日中にマイページに公開予定です。欧州通貨でFXトレードをされている方、またはこれから始めようとお考えの方はぜひチェックしてみてください。
●関連記事
元外銀ディーラー
松崎 美子(まつざき・よしこ)氏
1988年に渡英、ロンドンを拠点にスイス銀行・バークレイズ銀行・メリルリンチ証券で外国為替トレーダーとセールスを担当。現在は個人投資家として為替と株式指数を取引。ブログやセミナーを通して、”ロンドン直送”の情報を発信中。
株式会社外為どっとコム総合研究所 シニア為替アナリスト神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
本サイトに掲載する情報には充分に注意を払っていますが、その内容について保証するものではありません。また本サービスは、投資判断の参考となる情報の提供を目的としたものであって、投資勧誘を目的として提供するものではありません。投資方針や時期選択等の最終決定はご自身で判断されますようお願いいたします。なお、本サービスの閲覧によって生じたいかなる損害につきましても、株式会社外為どっとコムは一切の責任を負いかねますことをご了承ください。

