執筆:外為どっとコム総合研究所 小野 直人
執筆日時 2025年6月6日 12時10分
ドル円、関税・政策・指標に左右され荒波の展開-21日線上抜けで146円台を期待
米ドル/円は強弱材料で激しく変動
トランプ米大統領が鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税を6月4日から25%から50%へ引き上げると表明したことで、市場は週明けからリスク回避の円買いが先行し、米ドル/円は142.380円まで下落しました。
その後、植田日銀総裁が「内外の経済・物価情勢や金融市場の動向を丁寧に確認し、予断を持たずに判断」「利下げ余地を作るために無理に利上げする考えはない」と発言。このコメントの後半部分が市場の一部で「利上げの後ずれ」と受け止められたことから、米ドル/円は144.385円まで反発。
しかし、米国のADP雇用指標やISM非製造業景況指数の弱さが明らかになると、米国景気減速懸念が意識され、再び米ドル/円は142.600円レベルまで下落しました。
ところが、米中首脳が「可及的速やかに新たな交渉ラウンドを開始することで合意」との報道が伝わると、貿易摩擦の激化回避への期待が高まり、米ドル/円は143.973円まで上昇するなど、荒い値動きが続くラリーの状態になりました。
(各レート水準は執筆時点のもの)
※相場動向については、外為どっとコム総研のTEAMハロンズが配信している番組でも解説しています。
米ドル/円、米インフレ圧力が下支え?
来週は、17-18日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)を前に、米消費者物価指数(CPI)や同卸売物価指数(PPI)などの重要指標が発表されます。FRBが依然としてデータに依存した金融政策の姿勢を維持する中で、投資家は労働市場の軟化から9月の利下げ開始が意識され始めています。米インフレ指標を受けて、利下げ前倒し期待を高めるのか、それとも10月以降の利下げ観測に投資家の視線が向くのか注目されます。米国のインフレについては、企業の仕入れ価格が上昇しているため、川下側の消費者段階での物価の上昇が懸念されます。消費者物価指数のコア前年比は2.8%から2.9%へ加速すると見られています。インフレ再燃からFRBの9月利下げ期待が後退して、米ドルに対して上向きの力がかかりやすくなる可能性があります。
また、トランプ政権の関税戦略が金融市場に大きな影響を与えており、7月8日に迫る上乗せ関税の猶予期限の行方次第では、市場心理が大きく揺れる可能性もあります。さらに、6月14日のトランプ大統領の誕生日や翌日から始まるG7首脳会合を前に、関税協議を巡る動きが活発化することが予想され、市場の変動要因になりそうです。
こうした状況を考慮すると、米ドル/円の上値は限定される展開が続くかもしれません。市場の動向を見極めながら、リスク管理をしっかり行うことが重要ですね。
21日線上抜けが重要ポイント(テクニカル分析)
米ドル/円は日足一目均衡表の雲下限で頭を抑えられているものの、年初来安値の139.883円(4月22日)を起点とする支持線が機能しており、底堅さが窺えます。加えて、今後、一目の雲下限が切り上がるにつれ、雲の厚みが薄くなることで、上値抵抗力が弱まる可能性があります。現在、144.58円レベルで推移する21日移動平均線を突破できれば、年初来高値の158.866円(1月10日)からの下降レジスタンスラインが推移する146.50円レベルまでの上昇が期待できるかもしれません。目先は21日線を突破できるかどうかが重要なポイントになりそうです。ただし、支持線を割り込む場合には、141.50円付近までの下落リスクも想定されるため、押し目買いと損切りラインの設定は慎重に検討する必要があると考えています。
【米ドル/円チャート 日足】
出所:外為どっとコム「TradingViewチャート」
予想レンジ:USD/JPY:141.500-146.500
6/9 週のイベント:
一言コメント
トランプ米大統領と実業家のイーロン・マスク氏が5日、SNSで互いに批判し合っています。昨年の大統領選挙戦の時に、関係は長続きしないと言われていたものの、こうあっさりと蜜月関係が終わるのも、なんだかな~。
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