執筆:外為どっとコム総合研究所 中村 勉
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今週の振り返り
今週の豪ドル/円は98.21円前後で週初を迎えました。30日にはパウエルFRB議長が利下げを急がない姿勢を示し、10月2日には石破新首相が追加利上げに否定的な意見を示しました。これらの発言が日米金利差は期待したほどのペースでは縮まらないとの見方につながり、米ドル/円が急上昇。豪ドル/円はこの動きにつれることになりました。1日に発表された豪8月小売売上高が予想以上の結果となったことで、豪準備銀行(RBA)がすぐに利下げに転じることはなさそうだとの見方が広がったことも豪ドルの支援材料となりました。一方で、イスラエルが対立するレバノンの武装派組織ヒズボラの最高指導者を殺害したことで、ヒズボラを支援するイランがイスラエルに対して報復攻撃をするなど、中東情勢の緊迫化がリスクセンチメントに敏感な豪ドルの上値を抑える要因となりました。ニュージーランド(NZ)ドル/円は90.15円前後で週初を迎えました。豪ドル/円同様に、米ドル/円の上昇につれる場面も見られましたが、NZ準備銀行(RBNZ)は来週の会合で追加利下げに踏み切るとみられていることから上値も重く、90.00円~92.00円のレンジ内での動きが中心となりました(執筆時)。
政府の家計支援策がRBAの邪魔をする
RBAは9月24日の金融政策会合で政策金利をこれまで通りの4.35%で据え置きました。ただ、その後の記者会見でブロックRBA総裁が「今回は利上げを全く検討しなかった」と発言。8月より前は利上げを検討したうえでの据え置きでしたので、RBAがやや軟化したと市場は受け止めました。その後発表された豪州の主要な経済指標をみると、8月消費者物価指数(CPI)は市場予想通りに前月の+3.5%から+2.7%へ伸びが鈍化(ともに前月比)、8月小売売上高は市場予想(前月比+0.4%)を大きく上回る+0.7%でした。個人消費が堅調なのは利下げの要因にはなりませんが、インフレの伸びが大きく鈍化していることは利下げを検討する要因となりそうです。しかし、短期金利市場をみると、RBAの年内利下げの織り込み度はむしろ低下しています。これは、7月から実施されている政府の景気支援策に電気やガスなどの光熱費支援があり、光熱費の低下がインフレ鈍化のように見えていると市場が理解しているからです。また、小売売上高の大幅な増加についても、8月が比較的温暖だったこと(豪州は南半球のため8月は冬)、および政府による減税策が消費の増加につながったことが要因です。つまり、豪政府による家計支援策がインフレ鈍化の妨げになっているのです。国際通貨基金(IMF)も豪政府の景気支援策は「より幅広い経済にさらなる刺激を与える可能性がある」と懸念を示しています。豪政府の支援策が続く間は、豪州のインフレの減速スピードはゆっくりなものとなり、RBAの利下げ開始時期がさらに遅れることになりそうです。米国(FRB)やユーロ圏(ECB)などの主要国中銀が利下げに転じる中で、利下げを検討すらしていないRBAの姿勢はタカ派的に受け止められるため、豪ドルは比較的底堅い動きが続きそうです。
RBNZの利下げ幅は?
来週は9日(水)にRBNZが金融政策会合を開催します。RBNZは前回(8月)の会合で25bp(0.25%ポイント)の利下げを実施。RBNZは2021年10月に利上げを開始し、23年5月までに5.50%まで政策金利を上昇させました。その後は1年以上金利を据え置いてきましたが、ついに利下げに転じました。その後、発表されたNZの経済指標をみると、4-6月期小売売上高は予想以上に悪化していました。また、4-6月期国内総生産(GDP)は予想ほどではありませんが、前期比、前年比ともにマイナス成長に転じています。これらの経済指標の結果はRBNZが利下げに転じる前のものですが、ブルームバーグのエコノミスト予想では50bp利下げ予想が優勢となっています。また、金利先物市場でも50bp利下げを70%強織り込んでいます。確かに、NZ経済は急速に悪化しているようですが、それはRBNZもある程度は予想しています。8月の声明の中でRBNZはGDPが4-6月期と7-9月期にそれぞれ前期比-0.5%、-0.2%に悪化することを予想しています。そのうえで年内の金利予想を4.9%にしていました。NZ4-6月期GDPは前期比-0.2%でしたので、RBNZの予想ほどは悪化していません。したがって、RBNZの利下げ幅が市場の大勢の予想に反して25bpにとどまる可能性は十分あるとみています。
豪ドル/円のテクニカル分析
豪ドル/円は200日移動平均線付近での動きとなっています。8月初旬の安値と9月中旬の安値でダブルボトムが完成し、9月初旬の高値を上抜けたことでネックラインを抜けたとも受け止めることが出来ます。4日にネックラインだった99.86円前後を下抜けずに引けた場合には一段の上昇が見込めそうです。目先の上値目途は101.30円前後です。この水準は10月3日の高値のほか、7月高値と8月安値を結んだフィボナッチリトレースメントの半値戻しの水準でもあります(8月5日の長い下ヒゲは考慮しない)。その上の水準では同フィボナッチ61.8%戻しの103.25円前後が目途となりそうです。一方で下値ですが、執筆時には日足一目均衡表の雲上限や同転換線がサポートとして機能しています。また、前述したネックラインも同水準にあるので、4日の終値次第では引き続きサポートとして意識されそうです。その下の水準では週足一目均衡表雲上限(98.09円前後)がサポートとなりそうです。
【豪ドル/円 日足・一目均衡表、200日移動平均線】
予想レンジ:AUD/JPY:98.00-103.00、NZD/JPY:87.00-92.00
10/7週のイベント:
10/08 (火) 08:30 豪 10月ウエストパック消費者信頼感指数
10/08 (火) 09:30 豪 9月NAB企業景況感指数
10/08 (火) 09:30 豪準備銀行(RBA)、金融政策会合議事要旨公表
10/09 (水) 10:00 NZ ニュージーランド準備銀行(RBNZ)政策金利
一言コメント:
最近、1日の時間が足りないです。
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中村 勉(なかむら・つとむ)
米国の大学で学び、帰国後に上田ハーロー(株)へ入社。 8年間カバーディーラーに従事し、顧客サービス開発にも携わる。 2021年10月から(株)外為どっとコム総合研究所へ入社。 優れた英語力とカバーディーラー時代の経験を活かし、レポート、X(Twitter)を通してFX個人投資家向けの情報発信を担当している。
経済番組専門放送局ストックボイスTV『東京マーケットワイド』、ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。
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