【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ドル/円
・ドル/円の基調と予想レンジ
・ドル/円 2月の推移
・2月の各市場
・2月のドル/円ポジション動向
・3月の日・米注目イベント
・ドル/円 3月の見通し
ドル/円
ドル/円の基調と予想レンジ
ドル/円 2月の推移
2月のドル/円相場は148.562~155.880円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約3.0%下落(ドル安・円高)した。日銀の利上げ観測が円買い材料となり、米国の景気減速懸念がドル売り材料となったため、一時148円台までドル安・円高に振れた。5日の本邦12月賃金統計で実質賃金が2カ月連続のプラスとなったことなどから円買い先行で下落。12日には米1月消費者物価指数(CPI)の上振れを受けて154円台へと持ち直したものの、14日の米1月小売売上高の大幅減少を受けてドルは反落した。19日に高田日銀審議委員が「一段のギアシフトを進める局面」として利上げに前向きな発言を行ったのに続き、20日には植田日銀総裁が、石破首相の会談で長期金利の上昇が話題に上らなかったことを明らかにすると150円台を割り込んで円が続伸した。21日には米2月サービス業PMI・速報値の低下を受けてドルが下落。25日には米2月消費者信頼感指数の悪化に加えベッセント米財務長官の発言が長期金利の低下誘導と受け止められたことで昨年10月11日以来の安値となる148.56円前後までドル安・円高が進行した。なおトランプ米大統領は10日、鉄鋼・アルミニウムに25%の関税を賦課すると発表。13日には「相互関税」を発動する方針を示し、27日には一旦は再延期を表明していたカナダとメキシコに対する関税を予定通りに3月4日に発動すると発表した。こうした関税政策を巡る不透明感が米景気の先行き不安を強めた面もある。
始値 | 高値 | 安値 | 終値 |
154.808 | 155.880 | 148.562 | 150.571 |
出所:外為どっとコム「外貨ネクストネオ」
3日
米1月ISM製造業景況指数は50.9と市場予想や前月(50.0、49.2)を上回った。好不況の分岐点となる50.0を上回るのは22年10月以来2年3カ月ぶり。雇用指数が7カ月ぶりに50.0を上回るなど、ほぼ全ての構成指数が50.0を上回った。また、トランプ米大統領は翌日に予定していたカナダとメキシコに対する関税の発動を1カ月延期すると発表した。
5日
日本12月毎月勤労統計で現金給与総額は前年比+4.8%と市場予想(+3.7%)を大幅に上回った。これによって、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年比+0.6%と2カ月連続でプラスとなった。その後、赤沢経済再生相が衆院予算委員会で「足もとはインフレの状態という認識、植田総裁と齟齬ない」と語ったことも円買いとされた。米1月ISM非製造業景況指数が52.8と市場予想や前月(ともに54.0)を下回ったことはドル売り材料になった。
7日
米1月雇用統計は非農業部門雇用者数が14.3万人増と市場予想(17.5万人増)を下回った。しかし、前2カ月分が合計で10.0万人上方修正された。1月失業率は4.0%と前月(4.1%)から横ばいの市場予想を下回った。平均時給は前月比+0.5%、前年比+4.1%で、いずれも予想以上の伸びだった(予想前月比+0.3%、前年比+3.8%)。
11日
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、上院議会証言で「政策スタンスは景気抑制の度合いが以前より顕著に弱まっており、経済は強さを維持している。よって政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」と利下げを急がない姿勢をあらためて強調した。
12日
米1月CPIは前年比+3.0%と予想(+2.9%)を上回った。前月比は+0.5%と2023年8月以来の高い伸びとなった。また、エネルギーと食品を除いたコアCPIは前年比+3.3%と予想(+3.1%)に反して前回(+3.2%)から加速した。
14日
米1月小売売上高は前月比-0.9%と市場予想(-0.2%)を大幅に下回った。変動の大きい自動車を除いた売上高は前月比-0.4%と市場予想(+0.3%)に反して減少。なお、国内総生産(GDP)の算出に用いられるコア売上高は前月比-0.8%と予想外の落ち込みとなった(予想+0.3%、前月+0.8%)。
20日
日銀の植田総裁は石破首相と会談し、経済・金融の動向について意見交換したことを明らかにした。会談で長期金利の上昇が話題に上ったかを問われ「きょうはそういう話はしていない」と述べた。政府・日銀が金利上昇を容認したとの見方から、本邦長期金利が上昇に転じた。
21日
米2月サービス業PMI・速報値は49.7と市場予想(53.0)に反して前月(52.9)から低下。活動の拡大・縮小の分岐点である50.0を2年1カ月ぶりに下回った。
25日
米2月消費者信頼感指数は98.3と市場予想(102.5)を下回り、前月(105.3)から低下。中でも、6カ月先の見通しを示す期待指数は72.9と昨年6月以来の水準に悪化した。また、ベッセント米財務長官は「民間セクターはリセッション(景気後退)に陥っている」との見方を示し、トランプ氏の政策が実行されれば米10年債利回りは時間とともに「自然に低下するはずだ」と述べた。
28日
米2月個人消費支出(PCE)は前月比-0.2%と市場予想(+0.2%)に反して減少。同PCE物価指数(デフレーター)は前年比+2.5%と予想通りに前月(+2.6%)からやや鈍化した。食品とエネルギーを除いたコアPCEデフレーターも予想通りに前年比+2.6%と前月(+2.9%)から減速した。
2月の各市場
2月のドル/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
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3月の日・米注目イベント
ドル/円 3月の見通し
ドル/円相場は年始から2カ月連続で下落。これまで、2022年に上昇基調が鮮明化してから3年余り、3カ月連続で下落したのは22年11月~23年1月と24年7月~9月の2回しかない。今回も調整局面は長引くことなく、早ければ3月にも上昇に転じると見ておきたい。年初来のドル安は、米国のトランプ大統領が推し進める関税や減税を見込んだ米債売り・ドル買いのいわゆる「トランプトレード」に巻き戻しが入っていることが最大の理由であろう。ドルインデックスは、トランプ氏が米大統領選で勝利して以降の上げ幅の半値押し(106.80前後)付近で下げ渋っており、調整完了が近いことを予見させている。そうした予想に反してドルの下落が再開するとすれば、2月21日に発表された米2月サービス業PMIの悪化をきっかけに浮上した米国の景気減速懸念がさらに強まった場合であろう。ただし、1月小売売上高も含めた米サービス業セクターの指標軟化には、悪天候などの特殊要因があったと考えられる。実際、2月28日の米1月個人消費支出(PCE)は予想外に減少したが、同時に発表された個人所得は予想以上に増加していた。悪天候などの抑制要因が払しょくされれば、消費活動は再び活発化する公算が大きいことを物語っている。3月7日の米2月雇用統計や17日の米2月小売売上高が「そこそこ」の結果となれば、足元で広がる米景気減速懸念は後退することになるだろう。また、18-19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は政策金利を4.25%-4.50%に据え置く可能性が高い。同時に発表する金利見通し(ドットチャート)に注目が集まるが、昨今の当局者の発言は、ほとんどが金利を高水準に維持すべきとの内容だ。昨年12月時点で2025年中の利下げが2回(合計50bp)になるとの見通しを示していたが、今回の更新で1回に引き下げられる可能性もある。シカゴ・マーカンタイル取引所の国際通貨先物市場(IMM)で円ロング(買い持ち)が過去最大級に積み上がっている点も、これ以上のドル安・円高余地が小さいことを示していよう。金利負担が重いドル売り・円買いのポジションを一斉に巻き戻す動きが入れば思った以上にドル高・円安が進むことも考えられる。
(予想レンジ:147.000~154.500円)
お知らせ:FX初心者向けに12時からライブ解説を配信
外為どっとコム総合研究所の調査部に所属する外国為替市場の研究員が、FX初心者向けに平日毎日12時ごろからライブ配信を行っています。前日の振り返り、今日の相場ポイントなどをわかりやすく解説しています。YouTubeの「外為どっとコム公式FX初心者ch」でご覧いただけます。

神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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