執筆:外為どっとコム総合研究所 中村 勉
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今週の振り返り
今週の豪ドル/円は99.67円前後、ニュージーランド(NZ)ドル/円は90.48円前後で週初を迎えました。18日(月)に日銀の植田総裁が講演を行うため、「12月の日銀金融政策決定会合で追加利上げを示唆する可能性がある」と前週末にこれまで売られていた円を買い戻す動きが見られました。ただ、植田総裁は講演内で緩和度合いの調整のタイミングについて「先行きの経済・物価・金融情勢次第」とこれまで通りの発言に止め、利上げに関するヒントを出しませんでした。そのため、週を通して円は売られやすい地合いが続きました。19日にはウクライナが米国製のミサイルでロシア領内を攻撃したことで、ウクライナ情勢を巡る懸念が台頭し、一時、豪ドル/円は99.49円前後、NZドル/円は90.13円前後まで弱含む場面が見られましたが、前述の通り円売りは一時的でした。ただ、20日にもウクライナが英国製巡航ミサイルでロシアを攻撃したと伝わったこと、ロシア大陸間弾道ミサイル(ICBM)と思われる兵器でウクライナを攻撃したことなどからウクライナ情勢を巡る警戒感が高まっています。さらに週末、そして来週半ばから始まる感謝祭休暇を前に、次第にリスクを取る動きが後退しました(執筆時)。
NZは大幅利下げ?
来週はNZ準備銀行(RBNZ)が金融政策会合を開催します。RBNZはコロナ禍以降のインフレ高騰期に5.50%まで政策金利を引き上げ、ついに今年の8月に25bp(0.25%ポイント)の利下げを実施。その次の会合(10月9日)では50bpの利下げを行っています。
その前回会合以降に発表されたNZの経済指標を見ると、7-9月期消費者物価指数(CPI)は前年比+2.2%と4-6月期の3.3%からインフレの伸びは大幅に減速。7-9月期雇用統計は雇用者が前期比-0.5%と予想(-0.4%)以上に悪化するなど、利下げの影響をあまり感じさせるものではありません。もちろん、中央銀行が金融政策を変更した際に、すぐに実体経済にその影響が出ることは少なく、時間の経過とともに影響が出てくるというのが一般的です。ただ、これらの弱い経済指標の結果、そして主要な経済指標は四半期ごとにしか発表されないNZの特性も考慮して、市場は今回のRBNZ会合では2会合連続となる50bp利下げを予想しています。市場予想通り50bpの利下げが実施されれば、既に市場が織り込んでいることから初動ではNZドルは買い戻されることになるでしょう。ただ、同時に公表される声明次第では再びNZドル売り圧力が強くなることも考えられます。今月上旬に実施された米大統領選でトランプ氏が勝利し次期大統領として指名される見通しです。トランプ氏の掲げる関税政策の影響は、中国や欧州にとってマイナスのイメージとなっていますが、実はNZにとってもマイナスになります。一つは中国がNZの主要貿易相手国であることです。米国の関税賦課により中国経済の回復が遅れることになれば、中国と交易関係の強いNZにはマイナス要因となります。さらに、NZにとって米国は主要貿易相手国の一つであることも懸念材料です。NZから米国に輸出される品目は、主に牛肉やバターやチーズなどの乳製品、羊肉や鹿肉、ワインなど多岐にわたります。牛肉に関しては、ハンバーガーのパテを作る際にNZ産の赤身牛肉と米国産の肉を混ぜて作ることが多いようなので、関税賦課はNZではなく米国の消費者にブーメランのように戻って直撃することになりそうです。一方で、ワインや乳製品など、米国産などで賄える品目については米国の消費者が余程NZ産製品のファンではない限り、代替商品に移ることになるので、NZ経済にとっても悪材料となります。トランプ次期米大統領の実際に打ち出す政策がどのようなものになるかは定かではありませんが、現時点でイメージできるのはNZにとってネガティブなものになりますので、特に対米ドルではNZドルは弱含みやすそうです。
ウクライナ情勢の悪化は豪ドルにはポジティブ?
来週は豪州では豪10月CPIが発表されます。市場は9月の前年比+2.1%から+2.5%へとインフレが加速すると予想しています。豪州では政府がエネルギー料金に対する支援策や、減税により経済を下支えしています。ただ、そのおかげでインフレの勢いがなかなか鈍化しないことも事実です。市場は豪準備銀行(RBA)の利下げ開始は来年の5月辺りだと予想しています。仮に豪10月CPIが市場予想を下回り、CPIトリム平均も前年比+3.0%を割り込むことになれば、市場の織り込む利下げ開始時期が若干前倒しになるかもしれません。ただし、19日に公表された11月のRBA議事要旨では「インフレの急減速は利下げの根拠になる可能性があるが、それが持続可能であると確信するには四半期インフレ指標を複数回確認する必要がある」と示されていました。そのため、利下げ開始時期が一気に早まることはなさそうです。
豪ドルは対米ドルでは今週同様に底堅い動きとなりそうです。豪ドルは資源国通貨で何かしらのリスクが台頭して株価が下落すると、それに追随しやすいとのイメージがあります。現時点で抱えている一番大きなリスクはウクライナ・ロシア情勢です。ただ、ウクライナ・ロシア情勢が悪化した場合、原油をはじめとした資源価格が上昇しますので、資源価格の上昇が豪ドルの下値を支えることになります。また、豪州は南半球に位置しているため、ウクライナ・ロシアからは地理的にも遠い主要国という立ち位置もあります。そのため、ウクライナ・ロシア情勢が悪化した場合、初動ではリスクオフの動きで豪ドルも売られますが、次第に買い戻される展開になりやすいことは留意しておきましょう。また、来週は28日に米感謝祭が控えているため、週後半にかけて米国市場の参加者が減少することから、為替市場も徐々に動意が薄くなることが予想されます。そういったときは無理にポジションを立てる必要はないのではないでしょうか。
豪ドル/円のテクニカル分析
豪ドル/円は日足一目均衡表の転換線や、基準線、200日移動平均線付近での動きが続いています。現状では方向感を模索している状態です。目先の上値目途は今週高値の101.56円前後になりそうです。その上の水準では11/7高値の102.40円前後が意識されそうです。一方で下値は、11/15~19に3営業日連続で99円台半ばで下げ止まっているため、目先の下値目途となりそうです。その下の日足雲上限が意識されそうです。
【豪ドル/円 日足・一目均衡表、200日移動平均線】
予想レンジ:AUD/JPY:99.00-102.00、NZD/JPY:88.50-92.00
11/25週のイベント:
11/25 (月) 06:45 NZ 7-9月期四半期小売売上高
11/25 (月) 06:45 NZ 10月貿易収支
11/27 (水) 09:30 豪 10月消費者物価指数(CPI)
11/27 (水) 10:00 NZ ニュージーランド準備銀行(RBNZ)政策金利
11/28 (木) 09:00 NZ 11月ANZ企業信頼感
11/28 (木) 09:30 豪 7-9月期四半期民間設備投資
一言コメント:
来週28日は感謝祭で米国は祝日となります。米国では感謝祭は家族で祝うイベントのため、レストランなど休みのところが多いです。ただ、中華料理などは祝日に関係なく開いているところが多かったので米国の大学へ留学していた際は助かったという思い出があります。
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中村 勉(なかむら・つとむ)
米国の大学で学び、帰国後に上田ハーロー(株)へ入社。 8年間カバーディーラーに従事し、顧客サービス開発にも携わる。 2021年10月から(株)外為どっとコム総合研究所へ入社。 優れた英語力とカバーディーラー時代の経験を活かし、レポート、X(Twitter)を通してFX個人投資家向けの情報発信を担当している。
経済番組専門放送局ストックボイスTV『東京マーケットワイド』、ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。
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