執筆:外為どっとコム総合研究所 中村 勉
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目次
相場の雰囲気が一転 FOMC次第ではRBAは更に弱気に?
先週の振り返り
前週末に米シリコンバレー銀行(SVB)が破綻したことを受けて、米国金融システムへの不安からリスク回避の姿勢が強まりました。その結果、豪ドル/円やNZドル/円を含めたクロス円は、それぞれ前週末から大きく下方向へギャップダウン。豪ドル/円は88.28円前後、NZドル/円は82.12円前後で週初を迎えました。その後は、FRBの素早い対応もあり、米金融システムへの過度の警戒感が和らぎリスク回避の巻き戻しが入り、豪ドル/円は90.20円前後、NZドル/円は84.05円前後まで上昇する場面も見られました。しかし、15日にはスイス大手金融機関の経営不安が材料視され、再びリスク回避姿勢が強まり、豪ドル/円は87.36円前後まで急落。NZドル/円は16日に発表されたNZ2022年第4四半期国内総生産(GDP)が前期比でマイナス成長となったことも影響して、81.14円前後まで下落しました。週を通して、世界的なリスクマインドが大きく振幅したことが資源国通貨である豪ドルとNZドル相場に大きく影響を与えました。(執筆時)
良好な豪雇用統計はRBAの政策判断に影響を与える?
16日に豪2月雇用統計が発表されました。結果は以下の通りです。
豪州の雇用者数は12月、1月と2カ月連続で減少していました。この期間に減少した雇用者数は合計で2.75万人です。2月に6.46万人増加しましたので、豪州の雇用者数は1382.62万人で過去最高を更新しました。※表1参照
【表1 豪州の雇用者数推移】
また、失業率は3.5%と過去最低水準での推移、労働参加率は66.6%と過去最高水準での推移となっています。雇用の内容を見ても、正規雇用者数が大きく数値を伸ばしています。こういった結果を見る限りでは、豪州の労働市場のひっ迫は全く解消していません。ただし、豪準備銀行(RBA)が警戒しているのは、「賃金物価スパイラル」が起こってしまうことです。(労働市場のひっ迫が賃金の上昇を促し、賃金の上昇が物価上昇(インフレ)を下支えする。その結果、物価の上昇が収まらないために賃金上昇圧力が増すといった連鎖)仮に、労働市場がひっ迫状態であっても、インフレ率がRBAの目標である2~3%の範囲内で(もしくは、それに向かって下落しているので)あれば、労働市場のひっ迫だけを理由にRBAが引き締め的な金融政策を採り続ける必要はないと見ています。RBAが再びタカ派的な姿勢に転じる可能性があるとすれば、3月29日に発表される豪2月月次CPIで豪州のインフレが再加速していることを確認した場合になりそうです。
市場環境が一転
先週末、SVBの破綻が公になってから市場の雰囲気が一転しました。これまでは、「米連邦準備制度理事会(FRB)が根強いインフレに対応するために強気な金融引き締めを続ける」といったものが市場の見立てとなっていました。しかし、今週に入ってからは「急激な金融引き締めが米金融システムに大きく影響を与えており、これ以上の金融引き締めは米金融システムが持たないかもしれない」といった見方が強まっています。これは、「FRBがインフレ抑制を第一の目標とし、インフレファイターとしてのスタンスを取り続けた場合、SVBよりも大きな金融機関の破綻を招く可能性がある。」との懸念が高まっているためです。そのため、市場は先週までと今週とでFRBの金融政策の方向性が変わったと見ています。
では豪州(RBA)に対してはどうでしょうか?RBAは3月7日の理事会で前回(2月)の会合の声明に追加した「今後数カ月にわたって金利を引き上げる必要がある」といった文言を「金融政策の更なる引き締めが必要」とタカ派度を弱めました。この時点では豪州のインフレは米国ほど鈍化の兆しを見せていません。それでもRBAは「月次CPIでインフレ鈍化の兆しが見れた」と姿勢を変えています。市場は「RBAが急激な利上げが豪経済に与える影響を相当意識している」と受け止めています。そのRBAの姿勢を考えると、「インフレファイターの姿勢を打ち出していたFRBですら姿勢軟化の可能性が出てきているので、すでにタカ派度を弱めていたRBAはハト派に転じるのでは?」との思惑が台頭してくると考えられます。
今回浮上したのは景気不安ではなく、「リーマンショックを想起させる、世界的な金融ショックが起こるかもしれない」といった不安です。今後、「世界経済は急激な金融引き締めにも耐えられる」といった類の強気な見通しが浮上しない限り、基本的にはリスクオンには傾ききれないといった流れが続きそうです。
豪ドル/円のテクニカル分析
豪ドル/円は3月9日に雲を下抜けて以降、90円台では上値が重い状態が続いています。今後も雲下限がレジスタンスとして意識されそうです。上抜けた場合は雲の上限が次の目途として意識されるのではないでしょうか。一方で下値は、先週安値の87.36円前後と昨年12月20日安値の87.01円前後が目途として意識されやすい水準となりそうです。87円を下抜けてしまうと心理的節目となる85.00円を目指す動きとなりそうです。
また、週足を見ると17日の終値が雲下限(88.79円前後)を下抜けた場合、①基準線を転換線が下抜け、②遅行線がローソク足の下、③ローソク足が雲下限の下、と三役逆転が発生し売りシグナルが点灯します。基本的には長い時間軸でのシグナル発生は短い時間軸のものより強いトレンドとなると考えられています。17日の終値に要注意です。
【豪ドル/円 日足・一目均衡表】
予想レンジ:AUD/JPY:86.50-91.00、NZD/JPY:80.00-84.50
3/20 週のイベント:
03/21 (火) 06:45 NZ 2月貿易収支
03/21 (火) 09:30 豪準備銀行(RBA)、金融政策会合議事要旨公表
一言コメント:
侍ジャパン、WBC(ワールドベースボールクラシック)の準決勝進出おめでとうございます!チームは昨日のイタリア戦勝利後、チャーター機でマイアミに向かったようですね。準決勝、決勝はそれぞれ日本時間21日、22日の午前8時プレイボールです。決勝に勝ち上がった場合、日本中で急な体調不良で午前休を取る方が増えそうです(笑)。試合展開によっては、私と小俣研究員がやっている外為総研のYouTube番組「ドル円 昼ライブ」の時間と被りそうです。
中村 勉(なかむら・つとむ)
米国の大学で学び、帰国後に上田ハーロー(株)へ入社。 8年間カバーディーラーに従事し、顧客サービス開発にも携わる。 2021年10月から(株)外為どっとコム総合研究所へ入社。 優れた英語力とカバーディーラー時代の経験を活かし、レポート、X(Twitter)を通してFX個人投資家向けの情報発信を担当している。
経済番組専門放送局ストックボイスTV『東京マーケットワイド』、ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。
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