執筆:外為どっとコム総合研究所 中村 勉
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目次
豪雇用統計は『質』に注目!米FOMCの結果が豪ドルにも大きく影響を与える?
今週の振り返り
今週、豪ドル/円は91.07円前後、NZドル/円は85.71円前後で週初を迎えました。前週から今週にかけて豪州、NZと交易関係の強い中国がゼロコロナ政策の緩和を立て続けに発表しました。これにより、中国の景気が今後立ち直るとの期待が高まっています。そのため、今週発表された中国の経済指標が市場予想を下回る結果となっても、「過去より未来」との見方から、豪ドル/円、NZドル/円にネガティブな影響を与えることはありませんでした。12月6日には豪準備銀行(RBA)理事会が開催され、RBAは大方の予想通り、0.25%の利上げを実施し、政策金利を3.10%としました。10月にRBAが利上げ幅を0.50%から0.25%に縮小してから3会合連続で0.25%の利上げとなりました。市場の一部では「RBAが更に利上げ幅を縮める(0.15%利上げにすると政策金利が3.00%になるのでキリが良いのも一因)」との予想をする参加者がいたこと、RBAが次回以降の利上げについてこれまで通り「データ次第」との姿勢を貫いたこと(一部ではRBAのハト派化予想があがっていた)などから、金利発表後に豪ドルは買われました。ただし、次週には市場が注目している米連邦公開市場委員会(FOMC)が控えており、米国の金融政策の方向性を見極めたいとの思惑が高まっていました。そのため豪、NZにとってポジティブな材料があっても、豪ドル/円、NZドル/円が大きく上値を伸ばすには至りませんでした。
注目のRBA理事会!利上げ幅は変更なし?
豪州では12月15日(木)に豪11月雇用統計が発表されます。前月に発表された10月分では、雇用者数が3.22万人増と予想(1.5万人増)を上回り、失業率は3.4%となり1978年に月次統計が開始されて以来の最低水準の失業率を記録しました。RBAは豪労働市場が「依然として非常に逼迫している」との見解を示しています。11月分の市場予想は以下の表①の通りです。
【表① 豪州の雇用統計の市場予想と前月の結果】
前述の通りRBAは豪州の労働市場はかなり逼迫しているとみており、雇用者数の大幅な伸びはあまり期待していません。労働参加率に関しても、今年の6月に記録した66.7%が過去最高ですので、大幅な増加は見込まれないのではないでしょうか。では、今回の豪雇用統計での注目すべき点は何でしょうか?それは、雇用の『質』の部分となります。10月は雇用者数が大幅に増加した以外に、正規雇用者数が増加し、非常勤雇用者数が減少しています。もちろん正規、非常勤共に増加していることが理想ですが、総合の雇用者数増の背景に正規雇用者数が増えているという事であれば雇用の『質』が上がっていると受け取れます。また、不完全雇用率※1 は5月以降6%前後で安定しています。前月の不完全雇用率5.9%はコロナ前の2020年2月が8.5%ですので、現時点でかなり良い状況ではあります。それでもさらに低下することになれば、豪ドルにとってポジティブな材料となりそうです。
来週の中国で注目は…?
来週は15日(木)に中国の11月小売売上高と11月鉱工業生産の発表が予定されています。前述の通り、中国では非常に厳しい感染拡大対策の一部緩和が行われています。そのため、緩和前の経済指標の結果が為替相場に大きな影響を与えることはほぼないと見ています。そして緩和のおかげで中国経済が回復に向かうとの思惑が、来週も豪ドル、NZドルを支える要因となりそうです。
というのが、基本的な考え方です。今回の緩和による負の影響も考えてみました。ご存じの通り、中国は新型コロナのパンデミック以降、「ゼロコロナ政策」を掲げて、1人でも感染者が出たら都市ごと封鎖(最近は区画ごとなどになっていた)、感染者は国の運営する隔離施設送りなどといった、徹底的なコロナ排除を行っていました。そのため、市民のコロナへの免疫力はかなり低いです(マスクを外せない日本人以上に弱いと思います)。今回、ゼロコロナ政策の一部緩和をしたことで、新型コロナに感染する人が続出し、経済に大混乱をもたらす可能性があると考えられます。時期としてはこれから春節(旧正月)にかけて感染のピークを迎えるとの予測が出ています。中国の感染者数の増加や当局の対応(緩和策をひっくり返すことは考えにくいが…)には引き続き注意をしておきましょう。
市場が大注目するビッグイベント!
来週は米国で注目のイベントがあります。13日(火)の米11月消費者物価指数(CPI)と14日(水)の米連邦公開市場委員会(FOMC)です。CPIでは米国のインフレ動向を確認、その結果を受けて翌日のFOMCで米国の金融政策の行方を確認することとなります。市場が米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げ幅を0.50%に縮小するとの思惑を強めたことで、米長期金利が低下し米ドルの上値が抑えられるといった状況が約2週間続きました。市場の予想通り0.50%利上げとなれば、市場の次の目線は「どこまで?」と「いつまで?(金利の最終的なゴールと、利上げサイクルの終了時期)」に移ります。米国の利上げサイクルが終わったわけではありません。「噂で買って事実で売る」との相場格言通り、FOMC後には行き過ぎた米債買いの売り戻し(売られることで、金利は上昇)が持ち込まれると予想しています。米金利の上昇は米ドル買い要因となりますので、米ドルは買われるのではないでしょうか。この場合主役が米ドルであるため、クロス円である豪ドル/円やNZドル/円はどう動くのか予想するのが難しいのですが、この約2週間の対米ドルの動きを見ると、米ドル/円の下落が顕著でした。米ドル買い戻しの際も米ドル/円が強く反応し、その結果豪ドル/円、NZドル/円も連れて上昇するとみています。いずれにせよ年内最後のビッグイベントです。どちらの方向にも大きく動く可能性がありますので注意して臨みましょう。
豪ドル/円のテクニカル分析
豪ドル/円は、200日移動平均線(200MA)を明確に下抜けたあと、今週は同線にタッチすることも出来ませんでした。来週も200MAが目先の上値目途となりそうです。その上の水準では、11月10日以降、日足一目雲上限(94.822円前後)がレジスタンスとして機能しています。一方で下値は10月13日安値の90.852円前後や、週足雲上限90.393円前後、心理的な節目となる90.00円が目途として見られそうです。
【豪ドル/円 日足チャート・一目均衡表、200日移動平均線】
予想レンジ:AUD/JPY:90.00-95.00、NZD/JPY:85.00-88.00
12/5 週のイベント:
12/13 (火) 08:30 豪 12月ウエストパック消費者信頼感指数
12/13 (火) 09:30 豪 11月NAB企業景況感指数
12/14 (水) 06:45 NZ 7-9月期四半期経常収支
12/15 (木) 06:45 NZ 7-9月期四半期国内総生産(GDP)
12/15 (木) 09:30 豪 11月雇用統計
12/15 (木) 11:00 中国 11月小売売上高
12/15 (木) 11:00 中国 11月鉱工業生産
一言コメント:
サッカーW杯、日本代表は決勝トーナメント1回戦で敗退となりました。日本の敗退により、W杯自体に興味がなくなった人も多いのではないでしょうか?私も、放送時間が日本時間の夜中や明け方なので、結果のチェックのみとなっています。今後は12月9日、10日に準々決勝。13日、14日に準決勝、17日に3位決定戦、18日に決勝という流れとなっています。14日は28時キックオフ!なんと注目の米FOMCと同時刻です。誰かFOMCと準決勝の同時中継とかするのでしょうか?(笑)
中村 勉(なかむら・つとむ)
米国の大学で学び、帰国後に上田ハーロー(株)へ入社。 8年間カバーディーラーに従事し、顧客サービス開発にも携わる。 2021年10月から(株)外為どっとコム総合研究所へ入社。 優れた英語力とカバーディーラー時代の経験を活かし、レポート、X(Twitter)を通してFX個人投資家向けの情報発信を担当している。
経済番組専門放送局ストックボイスTV『東京マーケットワイド』、ニッポン放送『飯田浩司のOK! Cozy up!』などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。
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