こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、豪州のマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。また豪州と中国の関係、豪ドルと人民元の関係についても触れていきたいと考えています。豪ドルの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第1回目は「FOMCを経て強まる豪ドル売りはどこまで続くのか!?」です。
目次
1.現在の豪ドル相場の確認
2.豪州貿易の特徴
3.相場の見通し
1.現在の豪ドル相場の確認
まずは現在の豪ドル相場を確認していきましょう。
豪ドル/米ドル(AUD/USD)相場は先週水曜日までは底堅く推移してきましたが、FOMC(Federal Open Market Committee:連邦公開市場委員会)を経て、米早期利上げ観測が高まり、豪ドル売り、米ドル買いが先行しています。
作成時点のAUD/USDレート:0.7478
それから豪ドル円ですが、同じく先週水曜日までは非常に堅調に推移していましたが、こちらもFOMCを経て崩れてきています。
作成時点のAUD/JPYレート:82.13
豪ドルは例えばメキシコペソやトルコリラ、南アランドなどの新興国通貨と比べれば、下げ幅は小さいです。資源輸出国の豪州にとって、原材料価格の高騰や、中国の需要増加などが、豪州経済にプラスに働いていることも一因です。
2.豪州貿易の特徴
本日は豪ドル記事の初回と言うこともあり、少し豪州経済の特徴について触れていきたいと思います。まずは外国為替と結びつきの深い「貿易」についてお伝えします。
豪州の貿易品TOP3は以下の通りです。
輸出:(1)鉄鉱石(19.5%) (2)石炭(13.0%) (3)天然ガス(9.9%)
輸入:(1)個人旅行サービス(11.0%) (2)精製油(5.9%) (3)乗用車(5.0%)
豪州は資源が豊富で、鉄鉱石や石炭、天然ガスを輸出しています。また裕福なオーストラリア人は海外旅行に出かけたり、精製された油や、乗用車を国外から輸入しています。
下図はRBA(Reserve Bank of Australia:豪州中銀)が豪州の輸出割合(%)を表にしたものです。
1900~1950年代までは英国への輸出が多かった豪州ですが、1960~1980年代には主な輸出先は日本へと変化しました。この時期は日本の高度成長期で日本に対して製造過程で必要な資源を多く輸出していたものと考えられます。
その後1990年代~は東アジア地域への輸出が増加し、そして2010年代からは中国への輸出割合が増加しています。日本企業が海外進出を加速させたのも1990年代、行先は東アジア(東南アジア)や中国ですから、豪州は今に至るまで、日本のサプライチェーンなどグローバルなサプライチェーンの川上として世界経済に貢献してきたのだと思います。
最近は「豪州の景気動向が中国の景気動向に左右される」と指摘する専門家も多いですが、その背景には述べてきたような、豪州輸出先の変化があります。
以下は豪州の代表的な輸出取引についてRBA(Reserve Bank of Australia:豪州中銀)が図示したものです。
豪州から中国に原材料を輸出し、それを中国が加工して、米国に輸出しています。最近は豪州と中国との関係悪化が報じられていますが、中国にとっても豪州はなくてはならない貿易パートナーであることが分かります。
最後に輸入についても簡単にみていきます。
近年は英国や米国との取引が減少している一方で、欧州や中国、東アジア各国との取引が増加していることが見てとれます。豪州にとって、英国や米国は価値観を共にする大事な仲間ですが、一方で、経済的な結びつきは年々弱くなっていることも見てとれます。
こういった背景もあって、米中対立が激化する中で、豪州としても頭を悩ませていると言うのが、実態ではないでしょうか。
3.相場の見通し
現在の金融市場のテーマはテーパリングなど「金融緩和の縮小」だと思います。先週はFOMCを経て、米国の早期利上げ観測が高まったことで、米ドル買い豪ドル売りの流れが強まりましたが、今後は、仮に豪州の早期利上げ観測が高まれば、豪ドルが買い戻される展開にもなり得ると考えています。
物価上昇圧力が掛かっているのは米国であり、豪州にはあまり物価上昇圧力が掛かっていません。資源価格の高騰を背景に豪州の輸出は好調ですが、直近の為替レートが豪ドル高で推移していたことも、インフレ圧力を弱める要因になっています。
RBAの報告書でも指摘がありますが、資源価格の高騰そのものは豪州経済にポジティブに寄与しており、総じて景気は回復傾向にあります。ただし、資源輸入国ではない豪州にとって、資源価格の高騰は必ずしも物価上昇に寄与していません。ですから金利を早期に引き上げる必要はなく、雇用が十分に戻り、賃金上昇圧力が掛かるまで、十分に金融緩和を続けることが出来ます。
為替に直接的に影響が大きいのは、景気ではなく、短期金利です。なぜならば短期金利にはスワップポイントに直接的に働きかける力があるからです。
豪州の現在の翌日物金利(政策金利)は0.1%、米国は0.00%~0.25%(0.125%前後)と同水準です。しかし市場参加者が米国の早期利上げを織り込み始めていることから、現在は米ドルが強含みやすい状況と言えるでしょう。ゆえにしばらくは豪ドルが対米ドルで弱含む展開が続くことを想定しています。
豪ドル円相場は、一旦は大きく下落していますが、今後も急激に下落していくかどうかは不透明です。円相場次第にはなりますが、円売り材料も多いことから、一方的に豪ドル円が下落していく相場は想定していません。
目先は売られやすいと思いますが、ガッツリ下がった後は、買いから攻めていきたい通貨ペアです。したがって、しばらくは様子見でいきたいと思います。
本日はここまでとなります。
引き続き、みなさんのレベルアップに役立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
戸田裕大
<参考文献・ご留意事項>
Reserve Bank of Australia:Trends in Australia's Balance of Payments
https://www.rba.gov.au/education/resources/explainers/trends-in-australias-balance-of-payments.html
Reserve Bank of Australia:Minutes of the Monetary Policy Meeting of the Reserve Bank Board
https://www.rba.gov.au/monetary-policy/rba-board-minutes/2021/2021-06-01.html
外務省:オーストラリア連邦(Commonwealth of Australia)基礎データ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/australia/data.html
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【インタビュー記事】
戸田裕大氏レポート
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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