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米中間選挙でどうなるのか?ドル/円相場とS&P500の3シナリオ 2026年10月31日

 

執筆:テクニカルアナリスト・岩田仙吉氏

選挙は投票日が近づくにつれ、「どちらが勝つのか」に目が向きがちです。相場を動かすのは選挙の結果よりも、事前の期待と結果のずれです。期待が先に価格に織り込まれていたら、勝敗が予想通りでも反応は小さく、時には逆に動くこともあります。

米中間選挙の投票まで残り1週間となった10月28日(昼)のドル/円相場は1ドル=157〜158円台、S&P500は7700台前半です。ドル/円相場は円安に傾きやすい材料と、週足に残る下降の兆しがぶつかって157〜158円台でもみ合っています。また、S&P500は週足チャートが上昇の形状を保ったまま、高値圏で足踏みしています。

今回の中間選挙はどのような影響を相場にもたらすのでしょうか。選挙結果ごとに想定される3つのシナリオから、どのような道筋で相場に影響が及ぶのか分析してみます。

長期的な主役は財政政策と米長期金利

11月3日(火)の米中間選挙で投開票されるのは、下院の全435議席と、上院100議席のうちの35議席です。現在、共和党は上下院の両方で多数派を占めています。上院は共和党53議席に対して、民主党及び民主党と会派を組む無所属合わせて47議席です。民主党系が過半数を取るためには、現状の47議席から4議席の純増が必要です。

相場への影響は、議会の勢力図が塗り変わり、財政の行方が変わるかどうかによります。追加減税や大型歳出法案が通りやすくなると、「国債発行の増加」→「長期金利の上昇圧力」→「日米金利差拡大」→「ドル買い・円売りになりやすい」という順で、ドル/円相場には「円安・ドル高」の圧力がかかる可能性があります。

逆に法案が通しにくくなれば、「財政拡大への期待後退」→「金利低下」→「日米金利差縮小」→「円高・ドル安の要因」になることもあります。また、株式市場にとっては、金利に加えて、企業への規制が強まるかどうかも気になる点です。

ただし、選挙翌日から政策が変わるわけではありません。通常改選の議員の任期は2027年1月3日まであります。新しい議会が動き出すのはその後です。民主党が上下院の両方で過半数を獲得しても、大統領には法案の拒否権があります。また、上院で民主党が過半数を獲得したとしても、議事妨害(フィリバスター)を回避するためには60票が必要になります。今回の選挙で民主党が60議席を獲得するには、かなりハードルが高い状況です。

選挙結果の直後に相場が動くのは、実際にこうした政策が行われることよりも「これから変わるかもしれない」という期待感からです。その期待は選挙結果によってどのようなものになるのでしょうか。

短期的に相場を動かす3つのシナリオ

選挙結果から想定できるシナリオは3つです。

(1)共和党が上下院で過半数を維持

財政拡張への期待から米長期金利に上昇圧力がかかりやすく、日米の金利差が意識されて、円安・ドル高の要因になります。

(2)民主党が下院で過半数を獲得、共和党が上院で過半数を維持

上院と下院で多数派が分かれる「ねじれ議会」となり、新たな財政刺激策は通過しにくくなります。長期金利には低下圧力がかかり、円高・ドル安の要因になる可能性があります。ただ、この結果はすでに現在の相場に織り込まれており、反応は限られるかもしれません。

(3)民主党が上下院で過半数を獲得

財政拡張への期待は後退して、金利に低下圧力がかかる一方で、米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)の人事を承認する上院のチェックが強まる可能性があります。一方で、ウォーシュ議長のもとでFRBという組織の独立性や金融政策に対する信認が改善するとの見方もあります。金利が下がっても、ドルは売られず、むしろ買われる場面もあり得るので、円安と円高が交錯します。

ドル/円相場は7月に163円台まで上昇しました。その後、6円ほどの調整が続きました。円安に傾きやすい金利差の材料と、週足チャートで下降の兆しが綱引きしている状態です。

ドル/円相場は共和党が上下院で過半数を維持するなら158円台前半を試し、ねじれ議会や民主党による上下院制覇なら、156円台前半への押しを意識します。結果が出るまでは、157〜158円台のもみ合いになるでしょう。

ドル/円相場のテクニカル分析

これら3シナリオに対して、現在のドル/円相場はどのようなチャート形状になっているのでしょうか。週足から見てみます。

週足は下降の兆し

ドル/円相場のチャート(週足)

週足チャートは下降の兆しが残る一方で、売りの勢いは一服しています。根拠は3つです。

(1)移動平均線で上から中期・短期・長期の並びです。「上昇のほころび」にあたり、短期が中期を割り込んで勢いが落ちた兆しです。押し目で戻ることもありますが、高値圏からの調整が並びに表れています。

(2)ボリンジャーバンドで、中心線と−1σラインのあいだにいます。この内側にいる限り、特別なシグナルとは言えません。

(3)MACDでシグナル線の下、ゼロラインより下にあり、下落の勢いは残っています。ただ、シグナル線との差は縮んでおり、下げの勢いは弱まっています。158円台前半は、短期と中期の移動平均線が重なる上値の目安です。下降トレンドに転じたとまでは言い切れませんが、戻りは重い形状です。

日足の戻りは158円台前半が重く、157〜158円台のもみ合いが続きやすい

ドル/円相場のチャート(日足)

日足も、並びは同じ「上昇のほころび」です。いったん3本の移動平均線をすべて割り込みましたが、戻しています。チャート取得時点(10月28日)の価格は、短期と長期の移動平均線の上を回復しています。中期移動平均線は158円台前半にあり、ここが最初の壁です。

目を引くのは、ボリンジャーバンドの幅が、過去1年でも最も狭い部類にあることです。値動きが小さくなっており、次に動き出す前の静けさと言えますが、上下どちらに広がるかは決まっていません。MACDはゼロラインの下で、シグナル線の上にあります。持ち直しの芽は出ていますが、差は縮み始めており、勢いはやや鈍っています。

158円台前半を終値で上回って定着すれば、共和党が上下院の過半数を維持するシナリオの初期反応を、チャートが追認する形状になります。156円台前半を割り込んで定着すれば、週足の下降の兆しが強まり、ねじれ議会のシナリオや、民主党が上下院の過半数を獲得するというシナリオで意識される円高方向への押しと重なります。

規制の懸念と財政の安心感が綱引きして、高値圏のもみ合いへ

ドル/円相場の分かれ道を確かめたところで、今度は株式市場に目を移します。「民主党が勝てば株価は下がる」と決めつけると、見誤るかもしれません。規制の懸念がある一方で、民主党の勝ち方次第では、株高のシナリオもあるからです。

民主党が議席を増やした場合、データセンターなどAI(人工知能)関連の規制や監視圧力が強まり、関連株の重しになるとの見方があります。一方で、データセンター建設を大幅に抑える連邦法の成立には慎重な見方もあります。今回の選挙では、AI投資に伴うデータセンターの電力消費や地域の負担が論点になっており、議会だけでなく州・地方の判断も注目されています。

ウォール街が注目するのは、民主党が上院でどこまで議席数を伸ばすかです。ここでは、選挙結果による3つのシナリオとは別に、上院の議席数などから3つのシナリオを想定します。

(1)上院で民主党系が51〜53議席を獲得する「狭い勝利」

党内派閥の路線差や大統領の拒否権もあり、大きな政策転換は進みにくく、金融の規制強化になりにくい点は安心材料になり得ます。

(2)54議席以上の大勝

予算編成を通じて民主党の意向が反映されやすくなり、法人増税やAI・金融規制の強化が先取りされて、S&P500には逆風になりやすいと見られます。ただ、54議席では、議論を打ち切る60票にも、大統領拒否権を覆すのに必要な出席議員の3分の2(全員が出席すれば67票)にも届かず、制度的に主導権を握ったわけではありません。また、下院だけ民主党が勝ち、上院は共和党という「ねじれ議会」なら、規制緩和路線が続くとの期待が強まり、要職人事をトランプ政権が進めやすいという点で、FRBの独立性の話にもつながります。

(3)「中間選挙後は株高になりやすい」というアノマリー(経験則)

1970年以降の14回の中間選挙後、約6カ月間のS&P500の配当込み平均リターンは約14%でした。中間選挙のない年の同時期の約6%を上回っています。ただし、これは過去の平均値であり、今回の値上がりを保証するものではありません。今回は足元の株高を支えているAI投資が争点になっています。

S&P500チャートのテクニカル分析

S&P500は「規制懸念が強まる結果なら高値圏から押し」、「不安が和らぐ結果なら高値を試す」と私は考えています。選挙結果が出るまでは高値圏のもみ合いでしょう。週足と日足のチャート形状が、この考えと矛盾しないかを確かめます。

週足は上昇構造を維持

S&P500のチャート(週足)

週足は、中・長期上昇の形状が保たれています。移動平均線は上から短期・中期・長期の並びで、「強気の完成形」にあたります。3本とも上向きで傾きもそろい、取得時点の価格は3本すべての上です。ボリンジャーバンドでは+1σラインのすぐ下にいて、幅が狭く、値動きは小さくなっています。MACDはゼロラインの上ですが、シグナル線の下に入り、上げの勢いが落ちた調整色の形です。すぐに下落を意味するものではありません。上は10月初めに付けた7800台前半が目安です。調整色はあっても、形そのものは崩れていません。

日足は短期線まで戻して高値圏のもみ合いが続きやすい

S&P500のチャート(日足)

日足は10月下旬にいったん短期・中期の移動平均線を割り込み、ボリンジャーバンドの−1σラインも下回りましたが、その後は戻しています。チャート取得時点(10月28日)の価格は中期移動平均線の上を回復し、短期移動平均線にほぼ並ぶところまで来ました。並びは「強気の完成形」に近い形状ですが、短期は横ばいから、わずかに下向きで、3本の傾きまではそろっていません。ボリンジャーバンドは中心付近で、幅はやや狭めです。MACDはゼロラインの上ですが、シグナル線の下で、価格が先に戻り、MACDの勢いはまだ追いついていません。

下は日足チャートの中期移動平均線にあたる7600台半ばが目安です。ここを終値で割り込んで定着すれば、調整が深まり、民主党の大勝で規制への懸念が強まるシナリオと重なります。逆に、短期移動平均線を保てるなら、「民主党が勝っても株高」というシナリオも意識されます。週足・日足ともバンドが狭く、選挙結果をきっかけに値動きが広がる可能性はありますが、方向は結果次第です。

イラン情勢と予算・債務上限が金利に影響を及ぼす

さて、ここまでは中間選挙の結果と相場の動きを分析してきました。しかし、相場は選挙だけで動くわけではありません。

中でもイラン情勢は、外交協議が続く一方で、海上輸送の混乱など供給への不安が残っています。戦争終結の合意には至っておらず、原油価格が、長期金利と為替相場を揺らす材料になり得ます。

予算と債務上限も、選挙とは別の問題ながら、影響を及ぼします。暫定予算は12月11日までの資金を確保しており、10月末にすぐ政府閉鎖となる状況ではありません。ただ、その後に予算協議という課題は残ります。

また、民間シンクタンクの試算によると、2027年の春から夏ごろ、債務上限に達する見通しです。資金繰りの期限は、その数カ月後とされています。選挙直後に決まる話ではありませんが、長期金利の不透明感を増す材料として残ります。

結果が見えるまでポジションを小さく、反応を確かめてから

選挙の開票結果は、日本時間11月4日(水)の午前から順次伝わります。ただ、接戦の選挙区では、郵便票や仮投票の確認に時間がかかるため、上下院の多数派が判明するのは、同日中とは限りません。

米中間選挙前には、FOMC(米連邦公開市場委員会)の結果が10月29日午前3時に公表されます。その後、米GDPと個人消費支出(PCE)が同日の21時30分、日銀の金融政策決定会合も29〜30日に開催されます。

中間選挙後には米雇用統計が11月6日(金)22時30分に発表されます。本記事のテクニカルチャートは10月28日昼に取得したものなので、あくまで目安と考えてください。重要イベントや指標の結果から、相場の価格帯がずれていたら、ドル/円相場の158円台前半と156円台前半、S&P500の7600台半ばと7800台前半という分かれ道を、その時点の移動平均線に置き換えて確かめてください。

ポジションサイズは、損失許容範囲から逆算して決めます。たとえば、ドル/円相場が158円台前半を上抜けるなら、156円台前半の割り込みを撤退点にします。158円台前半から156円台前半まで、2円ほどの値幅です。この値幅で損失が許容額に収まるサイズまでポジションを減らしてください。

S&P500なら、撤退点は日足の中期移動平均線にあたる7600台半ばで、現在地からの下げ幅は約1%です。

選挙後の初動に飛びつかないのは、事前に期待が価格に織り込まれているからです。傘を持って家を出た日に、雨が降っても慌てないのと同じです。予想通りの結果なら反応は小さく、予想外のときほど大きく振れます。

初動が落ち着いてから、ドル/円相場は日足の終値が158円台前半の中期移動平均線を上回るか、それとも156円台前半を割り込むか。S&P500は日足の終値が短期移動平均線を保てるかどうか。この値動きを確かめてからでも遅くはありません。

 
岩田仙吉氏
岩田仙吉(いわたせんきち)氏
株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。