
■インフレは改善した?毎日の買い物が教える本当のこと
2026年2月にトルコ統計局が発表した年間インフレ率は31.53%でした。シムシェキ財務大臣はこの数字を受けて、「サービスインフレの低下に注目している。ディスインフレ継続のためにすべての政策手段を連携して活用している」と述べました。Hürriyetをはじめとする主要紙は「50ヶ月ぶりの低水準」と政府の姿勢を前向きに紹介しており、ニュースのトーンは比較的落ち着いています。一部経済番組のコメンテーターたちも「ようやく正常化への道筋が見えてきた」と口をそろえており、テレビの画面越しには明るい雰囲気さえ漂います。
しかし、近所のスーパーで毎日買い物をしている身からすると、実感はまるで違います。トルコ統計局のデータによると、食料・非アルコール飲料は前月比6.89%、輸送費は2.58%、住宅・光熱費は2.40%それぞれ上昇しており、毎月のレシートは着実に膨らみ続けています。数字の改善と日常の肌感覚の間には、依然として大きな溝があるというのが市民の感覚です。
■「金を買う」― 市民の選択
こうした状況のなか、注目すべき調査結果が出ました。トルコ中央銀行が発表した家計期待調査によると、「投資先として何を選ぶか」という質問に対し、「金を買う」と答えた人の割合が2.7ポイント上昇して55.5%に達しました。2位は「不動産・土地を買う」で30.0%でしたが、こちらは1.2ポイント低下しています。
この結果はトルコ社会の空気感をよく表しています。同調査では、市民が12ヶ月後のインフレ率を48.81%と予測しており、政府の公式目標と市民の実感の間に依然として大きなギャップがあることが示されています。また、価格上昇が最も懸念される品目として「食料」と「燃料・エネルギー」が繰り返し挙げられました。
近所の貴金属店を覗くと、平日の昼間にもかかわらず客足が絶えません。四分の一金貨を1枚ずつ買い足している年配の女性やスマートフォンで金価格を確認しながら店員と話し込む若者の姿。銀行口座ではなく、手のひらに乗る金貨に将来を預ける光景は、今のトルコではごく普通の風景です。トルコ語に「yastık altı altın(枕の下の金)」という言葉があるように、現物を手元に置く文化は、この国では何世代にもわたって脈々と生き続けているのです。
■ドルは「使う分だけトルコリラに替える」
金と並ぶインフレ対策が、ドルをはじめとした外貨保有です。中央銀行の調査では、12ヶ月後のドル/トルコリラのレートを51.56トルコリラと予測する回答が多く、前月比で0.71トルコリラの低下とはいえ、市民の多くが依然としてトルコリラ安を見込んでいることがわかっています。
「給料が入ったらすぐドルに換える。トルコリラで持っていても来月には目減りしている」というのが、多くの市民の正直な本音です。SNS上でも「今日のドルのレートは?」「金はまだ買い時か?」という書き込みが毎日のように飛び交っており、日々の経済サバイバルの緊張感がにじみ出ています。街の両替商には今日も客が列をなしており、外貨への需要が衰える気配はありません。
■生活コストは今も上昇中
トルコ中央銀行のカラハン総裁は2026年のインフレ率を15〜21%の範囲に収めると予測しており、2027年末には6〜12%まで低下するとの見通しを示しています。しかしMilliyet紙の経済コラムでは、「中央銀行が利下げを見送る可能性とエネルギー価格の上昇がグラム金を押し上げる構造は当面続く」という専門家の見方が紹介されており、楽観的な見通しに対して市場の警戒は根強く残っています。
そしてその懸念は数字にも表れています。中東の地政学的緊張を受けて原油価格が急騰しており、エネルギーの純輸入国であるトルコにとっては、輸入物価の上昇というかたちでインフレへの新たな上昇圧力となっています。ガソリンスタンドで給油するたびにため息をつく市民の姿は、今のトルコで珍しくありません。公共交通機関の運賃も静かに値上がりを続けており、家計のやりくりに頭を悩ませている人は少なくありません。
「数字は改善している。でも生活が楽になる気配がない」というのが今のトルコで多くの人が口にする言葉です。政府の楽観的な見通しと市民の現実感覚のあいだで、人々は今日もトルコリラをドルに換え、金貨を枕の下に忍ばせる。トルコのインフレとの戦いは、まだしばらく続きそうです。
トルコ在住。トルコの大学および国営機関での勤務経験を持つ。翻訳・通訳や机上調査(リサーチ)にも従事しながら、 現地メディアの情報や生活者目線をもとにトルコの政治・社会情勢を伝えている。
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