
●サマリー
- ・5月の雇用者数は+17.2万人と堅調に増加。過去分も上方修正され、労働需要の底堅さが確認された
- ・失業率は横ばい、賃金の伸びも鈍化しており、労働市場は「過熱なき安定」の状態
- ・原油高と雇用安定による消費増が重なれば、インフレ懸念が強まる。FRBの利上げ観測も無視できず
米5月雇用統計の結果:雇用者数+17.2万人、労働市場は安定
5月の雇用統計は、雇用者数が+17.2万人と堅調に増加し、強い労働需要が窺える内容となった。3月および4月分も相応に上方修正されており、単月の振れを除いた3か月平均でみると+18.8万人と、せいぜい数万人程度の伸びであった年初ごろと比べると明らかに高水準である。労働需要は5月にかけて改善したという見方が強くなった。
一方で、労働市場に過熱感があるとする見方にはまだ距離がある。失業率が4月から横ばいにとどまっており、労働需給のひっ迫感が薄いことが背景にある。そのため、賃金の伸びも高まっておらず、賃金インフレと、それに伴うサービスインフレの懸念は依然として小さい。
堅調な雇用増と失業率の横ばいが共存していることは、労働供給が拡大したことを意味する。ここ数か月の堅調な雇用増は所得の増加をもたらし、株高による資産効果に依存しない、底堅い個人消費につながることが期待できる。ただし、現状において底堅い個人消費は、先行きのインフレに結びつきやすい点に注意が必要である。個人消費の底堅さが増せば、企業にとっては足もとの原油高によるコスト増を価格転嫁しやすい環境となるため、先行きのインフレ懸念が強まることが示唆される。
米5月雇用統計の詳細:労働需給はひっ迫せず、雇用拡大が続く

5月の非農業部門全体の雇用者数は前月差+17.2万人と堅調に増加した。また、3月および4月分がそれぞれ上方修正された(3月:+18.5万人→+21.4万人、4月:+11.5万人→+17.9万人)。その結果、単月の変動を均した3か月平均でも+18.8万人の伸びとなり、2024年3月以来の高水準となった。
業種別では、政府部門(4月:+0.2万人→5月:+5.2万人)が大幅に伸びを高めた。民間部門では生産部門(+1.4万人→+2.8万人)のプラス幅が拡大し、サービス部門(+16.3万人→+9.2万人)はペースが鈍化しつつも底堅く増加した。サービス部門の内訳では、レジャー(+3.0万人→+7.0万人)が拡大し全体を押し上げた。ただし、メモリアル・デーが例年より早かったという特殊要因の寄与が大きく、6月以降の反動減には注意が必要だ。

失業率は5月に4.3%と4月から横ばいとなり、需給悪化の懸念は引き続き和らいだ。堅調な労働需要にもかかわらず失業率が横ばいとなった背景には、労働供給の改善がある。外国人労働者数の前年比マイナス幅は低下が続いており(3月:▲0.9%→4月:▲0.5%→5月:▲0.3%)、労働需給はひっ迫しておらず安定感を高めている。
賃金・インフレの注目データ

5月の民間部門の時給は前年比+3.4%と、4月(+3.6%)から伸びが低下した。製造業(+4.4%→+4.0%)、サービス業(+3.4%→+3.3%)ともに鈍化しており、数か月単位のトレンドでみてもサービス業の賃金上昇率はコロナ禍前の水準で安定しつつある。賃金由来のインフレ再燃の兆しは現時点では窺えない。
FRBの金融政策はどうなる?利上げ観測が浮上、利下げは年末以降か
金融政策の観点からは、労働市場の安定さが増したことで、雇用悪化を理由とする利下げの可能性は低下し、当面は政策金利が据え置かれる可能性がさらに高まったといえる。再び利下げが視野に入るのは、コアインフレ率などインフレの基調を示す指標が明確に低下に向かうことが条件であり、その確認は年末近くにずれ込む可能性が高まっている。
さらに、原油高の長期化によって、健全な労働市場と底堅い個人消費が結びつき、インフレ期待が上昇するリスクも高まっている。先行きの利上げ観測も無視できない結果と解釈できる。
●伊藤忠総研・髙橋尚太郎氏のレポートはこちら👇
伊藤忠総研・上席主任研究員髙橋尚太郎(たかはし・しょうたろう)
2003年東京大学工学部計数工学科卒業。2005年東京大学大学院情報理工学系研究科修了。同年日本銀行に入行し、国際経済調査や金融市場調査等に従事、英国London School of Economics and Political Science(LSE)経済学修士課程修了。有限責任監査法人トーマツなどを経て、2019年伊藤忠商事入社、同年伊藤忠総研へ出向。
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