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【海外特派員】トルコ狂騒曲~ウクライナ危機におけるトルコの状況

f:id:navimedia:20220309105522j:plain  2月24日未明、ロシアがウクライナに対する軍事侵攻を開始しました。これを受けて、トルコのエルドアン大統領は同日、「ロシアによるウクライナ侵攻は到底受け入れられるものではない」という声明を発表しました。トルコにとってウクライナは黒海を挟んだ対岸の国であるため、ロシアの軍事侵攻への関心が高く、テレビ局や新聞社がそれぞれ特派員を派遣しています。テレビではニュース専門局を中心に連日連夜ウクライナの動向を放送しており、ニュース全体の8~9割を占めています。トルコ政府はウクライナ、ロシア両国と良好な関係を築いていますが、一方でNATOの一員でもあることから、今回のウクライナ危機で難しい対応を迫られています。

トルコ政府の立場  

 トルコ政府は、「ロシアによるウクライナ侵攻は到底受け入れられない」としながらも、「我が国は両国ともに友好な関係を築いており、どちらかの国(との関係)を諦めたり、どちらかの国に肩入れをすることはない」と中立的な立場を匂わせています。しかしながら、2月28日になって、チャウシュオール外務大臣は今回のロシアによる軍事作戦が「戦争」であるとの認識を示し、ウクライナとロシアの軍艦に対して1936年に発効したモントルー条約を適用すると発表しました。この条約では、戦時においては、エーゲ海から黒海に至るまでに通過するダーダネルス海峡とボスポラス海峡の2か所の海峡で軍艦の通行を禁止する権限をトルコに与えていますが、黒海沿岸国の船舶が母港に戻ることは認められており、外相はこの条約は原則に則って適用されると発言しています。  

 「両国ともに有効な関係を築いている」という政府の発言のとおり、ロシアによる侵攻の始まった24日の午前中に、エルドアン大統領はロシアのプーチン大統領と電話で会談を行っています。その後、本日(3月6日)にも2回目の電話会談を行い、停戦への仲介を申し出たようです。一方、ウクライナに対しては、ロシアによる侵攻前の2月3日、トルコとウクライナの外交関係樹立30周年を記念してエルドアン大統領夫妻がウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談しました(夫妻はこの後新型コロナウイルスに感染しています)。その後も侵攻直前に1回、侵攻後2回、ゼレンスキー大統領と電話会談を行い、停戦に向けた仲介を行っているとみられています。

 ところで、トルコ政府は欧米や日本が科しているロシアに対する制裁には参加しないと明言しています。理由は、以下に説明するとおり、ロシアとの貿易関係への依存が挙げられますが、NATOの一員でありながら制裁に参加しなければ、トルコは難しい立場に立たされることになります。

 トルコがロシア、ウクライナ両国との関係を維持しようと躍起になっている一番の理由は、両国との貿易がトルコにとって不可欠だからです。輸入面では、かつては食料自給率100%を誇っていたトルコでは、補助金政策により、トルコにとって欠かせない食料である小麦(パンの原料)やヒマワリの種(ヒマワリ油の原料)を農家が生産しなくなり、主食のパンに必要な小麦はロシアから、ヒマワリ油はウクライナからの輸入に頼っています。  

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ヒマワリ油

 

 他にも、国内で必要な天然ガスの3分の2をロシアから輸入しており、天然ガスの供給が滞ったらトルコ経済は立ち行かなくなります。輸出の面では、トルコはロシアに新鮮な野菜や果物を輸出したり、大勢の観光客を受け入れており、ロシアはトルコの外貨獲得に貢献してきました。ウクライナに対しては、バイラクタルTB2 (Bayraktar TB2) という無人戦闘航空機をこれまでに15機輸出しています。バイラクタルTB2は、今回ロシアに対する実戦に役立っているとみられています。  

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バイラクタルTB2 (Baykar Teknoloji社HPより)

 

 もうひとつの理由は、昨年秋からの金利緩和政策より大幅なインフレを招いた経済政策の失敗を、ロシアとウクライナの仲介を成功させて外交で挽回しようとしているとみられることです。トルコ政府は、ロシアとウクライナの双方に対して交渉を持ちかけられる数少ない国だと自負しており、仲介の会場を提供するだけではなく、停戦の調印までこぎつければ全世界に対して存在感をアピールすることができます。トルコでは来年6月までに総選挙と大統領選挙が実施されますが、二桁のインフレは今年の年末まで続くとみられていることから国民の怒りが溜まっており、他の政策で一発逆転しない限り、与党の公正発展党と民族主義者行動党の連合が総選挙で苦戦を強いられるとみられています。

トルコへの影響

トルコ国民のウクライナからの脱出

 トルコ政府は、ロシアによる軍事作戦のおそれがあるとして、ウクライナ在住のトルコ人に同国から脱出するように警告していましたが、軍事作戦が始まった2月24日現在、ウクライナ国内には留学生、ビジネスマン、旅行客などがまだ2万人程滞在していました。ターキッシュエアラインズは同日、ウクライナと隣国モルドバへの全便を欠航すると発表したため、飛行機による国外脱出は不可能となりました。ウクライナ国内では、政府がチャーターしたバスでルーマニアなどの近隣諸国まで脱出させてからブルガリア経由で国境を超えてトルコに入国させました。自力で近隣諸国に脱出した人たちには、ターキッシュエアラインズがトルコ国内まで割引価格で座席を提供しました。3月6日現在、半数以上の11,000人のトルコ人がウクライナから脱出したということです。短期間にこれだけ大勢のトルコ人が脱出できたのは、最悪の事態に備えてトルコ政府が事前にバスの手配など相当の準備をしたからであり、近隣諸国の国境付近ではテントを設置して、飲み物や軽食が配られました。

燃料価格の急騰

 燃料価格は世界的に上昇していますが、トルコでは原油価格が上昇するとすぐに小売価格に反映されるため、今月に入って3日連続して値上げされました。イスタンブールでは1リットルのガソリンが1日の時点で16.55TLでしたが、4日には18.65TLと2.1TL(17円)値上がりし、軽油は16.08TLから19.76TLと3.68TL(30円)値上がりし、わずか3日間で大幅に上昇しました。政府は、ヨーロッパ諸国と比較すると、トルコはガソリンが3番目に安い国である、と苦しい言い訳に徹しています。

便乗値上げとパニック買い

 トルコ向けのヒマワリ油を積んだ貨物船15隻ほどがクリミア半島の東側にあるアゾフ海で足止めされており、このままでは国内の在庫が1~1.5か月ほどで尽きてしまうというニュースが数日前に出たことを受けて、翌日ある全国チェーンのスーパーでセール品のヒマワリ油のパニック買いが生じました。トルコではトルコ料理に欠かせないオリーブオイルが生産されていますが、昨今のインフレで手が届かない値段となってしまったため、ヒマワリ油の需要が高まっています。品不足のニュースが出てから、早速便乗値上げが始まり、値段が上がっているようです。本日(6日)、政府機関により「ヒマワリ油の在庫は十分にあるのでパニック買いに走らないように」という声明が発表されましたが、現在のところどこまで効果があるのかは不明です。

www.gaitame.com

 

PickUp編集部 トルコ特派員