こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、豪州のマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。また豪州と中国の関係、豪ドルと人民元の関係についても触れていきたいと考えています。豪ドルの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第3回目は「豪州のCovid-19感染状況と米金融政策を意識した取引戦略」です。
目次
1.現在の豪ドル相場の確認
2.RBA(Reserve Bank of Australia:豪州中央銀行)のスタンス
3.今後の注目材料
4.相場の見通し
1.現在の豪ドル相場の確認
まずは現在の豪ドル相場を確認していきましょう。
<豪ドル/米ドル(AUD/USD)チャート、日足>
作成時点のAUD/USDレート:0.7159
AUD/USD相場は7月後半~8月後半に掛けても、じり安傾向が続きました。これで月足ベースでは6月から3か月連続で下落することがほぼ確定的になっています。
後ほど詳細を解説しますが、AUD下落の要因としては、8月3日のRBA金融政策決定会合でテーパリングの進展が見られなかったこと、シドニーに代表されるニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州のロックダウンが9月末まで延長になったことが主因と考えられます。
<豪ドル/日本円(AUD/JPY)チャート、日足>
作成時点のAUD/JPYレート:78.67
豪ドル/円については、ドル/円が7月後半~8月後半に掛けてほぼ同水準で推移したこともあって、AUD/USDの下落分だけ下押した格好です。
2.RBA(Reserve Bank of Australia:豪州中央銀行)のスタンス
ファンダメンタルズ分析の王道とも呼べる金融政策の確認、豪ドル・レポートではRBAの金融政策スタンスをしっかりとウォッチしていきます。
直近では8月3日に金融政策決定会合が行われました。前回7月6日と、比較すると以下のようになります。
① 2021年7月6日に発表のRBA金融政策
● 銀行間の翌日物貸出レート0.10%(短期政策金利)
●両替決済のための預金に付与される金利0%(短期政策金利)
●2024年4月満期の国債利回りが0.10%になるよう調整(目先3年までの金利低下を促す、通称「イールド・カーブ・コントロール」)
●少なくとも2021年11月中旬まで国債を週に40億豪ドル買い入れ(量的緩和の継続)
② 現行(2021年8月3日に発表された)のRBA金融政策
●7月から不変
結論からお伝えしますと、引き続き緩和的な金融政策が維持されました。
米国の経済回復が堅調で年内にもテーパリング開始が見込まれる中で、豪州はテーパリングのペースを遅らせてしまったことで、豪ドルの先安観はより際立つ形になっています。
前号でも述べましたが直接的に為替レートと関係する短期の政策金利を引き上げない限り豪ドル相場への大きな影響はないと考えています。ブレーキを踏む利上げが意識される段階から一歩遠のいてしまった印象で、しばらく豪ドルが軟調に推移しそうです。
③ 直近の報告書より戸田が抜粋
RBAは世界の景気回復についてCovid-19による不確定要素が強いとしながらも、中国など主要な貿易相手国の景気回復が堅調に推移していることから、割と楽観的な姿勢を示しています。
一方で、国内の景気回復についてはパンデミック以前の水準に戻ってきているものの、拡大しているCovid-19の悪影響が最大の懸念要因であるとして、2021年後半の景気回復は不透明であるとしています。
国内の金融環境については極めて緩和的であるとしています。特に豪州債を引き合いにだし、利回りの低下が他の先進国の国債対比でも著しく低下していることを指摘しています。
<豪州2年債>
作成時点の豪州2年債利回り:0.025%
この緩和的な金融環境を間接金融(銀行から事業者への融資)にも波及するよう新しい法律を施行したようですが、その効果が出始めていると記載がありました。
まとめると豪ドルは売られているものの、現在のCovid-19の拡大を除いて特段の懸念材料はないと見ることが出来ます。
3.今後の注目材料
今後の注目材料ですが、4点お伝えしたいと思います。
1点目が今週27日(木)から開催されるジャクソン・ホール会議です。無風で通過する可能性もありますが、パウエルFRB議長の講演を金曜日に控えており、市場の関心は高いです。RBAが国内のCovid-19感染拡大もあり、保守的な運用を維持する中で、FED(米国)はどのような金融政策を執り行うのか、要注目です。
2点目は9月1日(水)に公表予定の豪州第2四半期のGDPです。他の先進国の第2四半期GDPは軒並み出そろっており、対比でどうかと言うのが見られます。
3点目が9月7日(火)のRBA金融政策決定会合です。これは月一のビッグ・イベントですので、AUDを取引する方は必ず抑えておきましょう。
4点目は何度も本文中に記載しましたが、豪州のCovid-19の感染状況です。感染拡大が続くとさらに保守的な金融政策を採らざるを得ません。また豪州のモリソン首相はワクチン接種率70%~80%を目安にウィズ・コロナ態勢に意向したい考えを示しています。感染拡大状況と合わせてワクチン接種率にも注目しておいた方が良さそうです。尚、必要回数のワクチン接種が完了した割合は現状25%程度に留まっています。
4.相場の見通し
AUD/USDについては、引き続き下方向を見ています。今月~来月にかけて大きなチャートポイントである0.70を目指してじり安の展開になっていくことをメインシナリオに据えます
先月も述べていますが、米ドルと同じ金利水準の現状では豪ドルの分が悪いと考えています。さらにNSW州のロックダウンも延長になってしまい、テーパリングの速度が鈍化しましたので、そのコントラストは鮮明です。
反転材料として気に掛けておきたいのが、Covid-19の感染拡大状況の好転と、ワクチン接種率の改善です。私はこの2点には気をつけてAUDを売っていくと思います。
AUD/JPYについては、ドル/円次第ではあるのですが、ドル/円が110.60~111.00あたりをクリアに上抜けることが出来れば、しばらくは安定して推移すると思います。
ただし、豪ドルに金利がない現状では買い持ちによるスワップポイントの付与もありませんから、買いで攻めるインセンティブは引き続き働きません。
ドル/円が引き続きレンジで推移する場合には、売りから入って行くのが素直だと思います。
本日はここまでとなります。
引き続き、みなさんのお役に立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
戸田裕大
<参考文献・ご留意事項>
Reserve Bank of Australia:Minutes of the Monetary Policy Meeting of the Reserve Bank Board
https://www.rba.gov.au/monetary-policy/rba-board-minutes/2021/2021-08-03.html
各種チャート:Investing.comより筆者が加工して添付
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【インタビュー記事】
戸田裕大氏レポート
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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