こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、豪州のマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。また豪州と中国の関係、豪ドルと人民元の関係についても触れていきたいと考えています。豪ドルの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第2回目は「RBAの政策をもとに考える豪ドル取引戦略」です。
目次
1.現在の豪ドル相場の確認
2.RBAのスタンス
3.今後の注目材料
4.相場の見通し
1.現在の豪ドル相場の確認
まずは現在の豪ドル相場を確認していきましょう。
豪ドル/米ドル(AUD/USD)相場は6月後半~7月後半に掛け、じり安傾向が続きました。豪州は既に金融緩和縮小に舵を切ったのですが、後ほど詳しくご説明しますが、そこまで大きく政策を転換していないことから、米ドル買い圧力が上回っている状況です。
作成時点のAUD/USDレート:0.7355
また豪ドル円については、ドル円が6月後半~7月後半にかけほぼ同水準で推移したこともあって、AUD/USDの下落分だけ下押ししました。
作成時点のAUD/JPYレート:81.16
2.RBAのスタンス
本日はRBA、すなわち豪州中央銀行の金融政策スタンスについて詳しくみていきたいと思います。
直近では7月6日に金融政策決定会合が行われ、段階的な金融緩和策や支援策の縮小が決まりました。7月6日(直近)と、6月1日(前々回)に分けて内容を比べてみます。
① 2021年6月1日に発表されたRBA金融政策
・銀行間の翌日物貸出レート0.10%(短期政策金利)
・ 両替決済のための預金に付与される金利0%(短期政策金利)
・ 2024年4月満期の国債利回りが0.10%になるよう調整(目先3年までの金利低下を促す、通称「イールド・カーブ・コントロール」)
・ 少なくとも2021年11月中旬まで国債を週に50億豪ドル買い入れ(量的緩和の継続)
・ 中小企業向けの期間を絞った低利調達を2021年6月末まで支援
② 現行(2021年7月6日に発表された)のRBA金融政策
・ 少なくとも2021年11月中旬まで国債を週に40億豪ドル買い入れ(量的緩和の継続)
・ 中小企業向けの期間を絞った低利調達支援の終了
・ その他は不変
私は、直接的に為替レートと関係する短期の政策金利を動かさない限り為替相場への大きな影響はないと考えます。もちろん量的緩和の縮小も為替レートに影響を及ぼすのですが、アクセルを緩めるテーパリングと、ブレーキを踏む利上げは明確に区分けした方が良いと考えます。
③ 直近の報告書より戸田が抜粋
RBAは世界の景気回復について全体的にポジティブに捉えていますが、変異型のコロナウイルスなど不確定要素もあることに留意しています。
一方で、国内の景気回復については非常に強気で、回復期から、景気拡大期へとシフトしたと述べています。労働環境もパンデミック前の水準まで戻ってきたと述べており、例えば失業率のデータでそれは示されていますので、そろそろ利上げを意識していく段階に入ってきたと思います。
一方で、FED(米国)の金融政策については、想定以上にハト派であったとして、RBAとしてサプライズであったと記載しています。通貨覇権国である米国が緩和的な政策を続ける、それならば豪州もまだまだ緩和的に行っても問題ない、そのような思惑が見え隠れする報告書でした。
3.今後の注目材料
今後の注目材料ですが、3点お伝えしたいと思います。
一点目が豪州と米国のCPI、すなわち消費者物価です。米国は月に1回、豪州は3ヵ月に一回発表しています。豪州は今月28日水曜日に発表を予定していますので、要注目となります。RBAのターゲットレンジが2~3%ですので、ここを大きく上抜けてくるようですと早期の利上げに警戒が必要になってきます。早期の利上げは、すなわち豪ドル高要因となります。
二点目が今週水曜日のFOMCです。RBAも「ハト派な姿勢」と評するように、物価上昇圧力が掛かっている割に、FEDは利上げに慎重な姿勢を貫いています。テーパリングの発表は今週水曜日か来月のジャクソン・ホール(8月26日~28日)あたりで行われると思いますが、市場参加者の大半は、そこまではある程度は織り込み済みでしょう。従って「FEDの姿勢」こそが注目点です。ハトではなくなるのか?どうかということです。
三点目が来月3日のRBA金融政策決定会合です。米国次第で出方を柔軟に変えてくる気もしますが、RBAは国内の景気は拡大に転じていると言う認識ですから、じきに利上げに転じるはずです。焦点はいつ利上げを行うのか?金融緩和を少なくとも11月までは続けると言っていますから、それ以降になると思うのですが、「RBAの姿勢」に要注目です。
4.相場の見通し
AUD/USDについては、引き続き下方向を見ています。細かく資金の流出入を追えているわけではないですが、米ドルと同じ金利水準の現状では豪ドルの分が悪いと考えています。
大きなチャートポイントは1AUD=0.7000USDです。一気にここまで下落するとは思いませんが、ここを目指してじり安の展開になっていくことをメインシナリオに据えています
0.72台の後半より下には段階的にサポートが控えています。サポートをこなしながら、米国と豪州の金融政策に注目が集まる展開を想定します。
AUD/JPYについては、ドル円次第ではあるのですが、ドル円が110.60をクリアに上抜けることが出来れば、しばらくは安定して推移すると思います。
ただし、豪ドルに金利がない現状では買い持ちによるスワップポイントの付与もありませんから、買いで攻めるインセンティブは働きません。
むしろAUD/USDが下落する方向にあると仮定し、売りから入って行く方がワークする可能性を意識しておきたいところです。ここはドル円を見ながら判断していくと良いと思います。
本日はここまでとなります。
引き続き、みなさんのお役に立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
戸田裕大
<参考文献・ご留意事項>
Reserve Bank of Australia:Minutes of the Monetary Policy Meeting of the Reserve Bank Board
https://www.rba.gov.au/monetary-policy/rba-board-minutes/2021/2021-07-06.html
Today's Monetary Policy Decision
https://www.rba.gov.au/speeches/2021/sp-gov-2021-07-06.html
Inflation Target
https://www.rba.gov.au/inflation/inflation-target.html
Minutes of the Monetary Policy Meeting of the Reserve Bank Board
https://www.rba.gov.au/monetary-policy/rba-board-minutes/2021/2021-06-01.html
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【インタビュー記事】
戸田裕大氏レポート
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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