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「ドミノ的なデフォルト連鎖のリスク」検証:新興国のデフォルトリスク (第一生命経済研究所 西濵 徹)

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新型コロナウイルス感染拡大 「第2派」への警戒

昨年末に中国で発見された新型コロナウイルスは、パンデミック(世界的大流行)となったことで世界的にヒトやモノの移動を制限する動きが広がりをみせるなど、世界経済へ大きな 悪影響 が生じている。
なお、当初の感染拡大の中心地であった中国では、感染収束に伴い経済活動の正常化に向けた動きが進んでいるほか、その後に感染拡大が広がった欧米も勢いに陰りが出るなかで経済活動の正常化を模索する動きがみられる。ただし、足下では新興国に感染拡大の動きがシフトしている。 医療インフラが脆弱、かつ今後は季節が冬に移行する南半球での感染拡大は事態収束を難しくする可能性があり、結果的に感染拡大の「第2波」に繋がるリスクが意識される状況が続いている 。
国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)を中心に全世界的な金融緩和を通じて動揺を抑え込む姿勢を強めた結果、足下では一時の動揺が一巡するなど落ち着きを取り戻している 。さらに、中国や欧米などでの経済活動の正常化に向けた動きを背景に、世界経済の回復を期待する向きも重なり、一部の資産市場では活況を取り戻す動きもみられる。ただし、 上述のように新型コロナウイルスの「第2波」 に対する警戒感は、とりわけ感染拡大の中心地となっている新興国への資金流入の足かせになるとともに、新興国通貨の上値を抑える一因となっている。

ドミノ的なデフォルト連鎖の可能性

ここ数年、多くの新興国では世界的な低金利環境も追い風に米ドルなど主要通貨による資金調達が活発化してきたが、新興国通貨安は債務負担の増大を招くことが懸念される。さらに、資金流出に伴い多くの新興国では外貨準備が減少しており、対外債務の支払いが滞る事態に発展する可能性も考えられる。
他方、新型肺炎感染拡大に伴う景気減速に対抗すべく、多くの国で財政出動及び金融緩和による景気刺激の動きが広がっているが、財政赤字体質で公的債務残高が高水準な国では急速な財政悪化に繋がる
また、足下では国際原油市況に底入れの動きがみられるものの、均衡財政水準の高い産油国にとっては財政状況の改善にはほど遠い状況が続いており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱性は残されたままの状況にある。また、一部には中銀による事実上の財政ファイナンスなど「非常時」を理由にした動きもみられるが、資金流出圧力の加速に繋がるリスクもあるなど、今後は正常化への道筋を示す必要性に迫られるであろう。
他方、当面の新興国にとっては資金流出圧力がくすぶることが予想されるなか、それに伴って デフォルト(債務不履行)に陥る国が出るか否かに注目が集まっている。すでにIMF(国際通貨基金)には 、加盟国の半分を上回る100ヶ国以上が支援要請を行っており、支援要請に満額回答出来る見通しは低い
すでに事実上のデフォルト状態にあるアルゼンチンのほか、国際金融市場における存在感が比較的小さい 国によるデフォルトに伴う直接的な影響は限定的とみられる。しかし、上述のように主要通貨建での資金調達を活発化させてきた新興国によるデフォルトは、他の新興国におけるデフォルトの連想を招いて資金流出の動きを惹起させ、ドミノ的なデフォルトの連鎖を引き起こすリスクがある。足下では中国のほか、欧米などによる経済活動の正常化が進みつつあり 、世界経済の底入れが確認されればそうしたリスク は 後退すると期待される。一方、過去の国際金融市場の動揺は世界経済の減速局面において引き起こされてきたことに鑑みれば、「第2波」の懸念に加えて事態収束に手間取る状況が続けば経済的な体力の乏しい新興国に資金流出圧力が掛かり、結果的にデフォルトに陥るリスクが高まることに注意が必要と言えよう

【国別デフォルトリスクの評価とショートコメント】

評価軸:
5: デフォルトが確実 赤信号
4 :デフォルトに注意 黄色信号
3 :条件が整うとデフォルトの可能性が高まる 今後の行方を注視
2 :テールリスク程度には頭の片隅の置いておきたい
1 :どんな場面になっても、デフォルトはまず考えられない

トルコ・リラ ⇒「3:条件が整うとデフォルトの可能性が高まる 今後の行方を注視」

資金流出に伴う外貨準備の減少が続いており、向こう数ヶ月で「枯渇」が懸念される状況。
トルコ中銀は主要国中銀に対して通貨スワップの協議を行っているが、その行方次第で状況は厳しくなる。

メキシコ・ペソ⇒「2:テールリスク程度には頭の片隅に置いておきたい」

現状、外貨準備高はIMFが定める「適正水準」を維持しており耐性は充分。しかし、原油市況の動向に加え、米国経済の行方次第ではペソ安による負の面(物価上昇)が表面化する可能性に注意。

南アフリカ・ランド⇒「3:条件が整うとデフォルトの可能性が高まる 今後の行方を注視」

主要新興国のなかではトルコに次いで外貨準備の過小感が常に懸念される状況は変わらず。仮にトルコがデフォルトに陥る事態となれば、連鎖的に資金流出圧力が強まる事態に直面するリスクは高い。

ロシア・ルーブル⇒「2:テールリスク程度には頭の片隅に置いておきたい」

外貨準備高はIMFが定める「適正水準」を大きく上回るなど耐性は充分にある。また、原油相場の均衡財政水準も中東産油国等と比較して低く、原油安による財政的な影響も小さい。他方、欧米による経済制裁の影響のほか、米国との関係悪化など経済面以外の影響を考慮する必要性はある。

株式会社第一生命経済研究所 経済調査部・主席エコノミスト
西濵 徹(にしはま・とおる)氏
2001年3月 一橋大学経済学部卒。2001年4月 国際協力銀行(JBIC)入行。同行では、ODA部門(現、国際協力機構(JICA))の予算折衝や資金管理、アジア(東アジア・東南アジア・南アジア・中央アジア)向け円借款の案件形成・審査・監理、アジア・東欧・アフリカ地域のソブリンリスク審査業務を担当。2008年1月 第一生命経済研究所入社。2011年4月主任エコノミストを経て2015年4月より現職。2017年10月より参議院第一特別調査室客員調査員(国際経済・外交、政府開発援助等)(兼務)。 担当は、アジア、オセアニア、中東、アフリカ、ロシア、中南米諸国など、新興国・資源国のマクロ経済及び政治情勢分析。