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トランプ氏が劣勢挽回の可能性? ユーロは正念場でドル下げ渋るか 経済アナリスト 田嶋智太郎 米大統領選2020

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トランプ氏が劣勢挽回の可能性? ユーロは正念場でドル下げ渋るか

 「人の噂も75日」。もはや米大統領選当日まで75日足らずとなった今、これまで現職のトランプ大統領を「支持しない」理由として取り沙汰されてきた新型コロナウイルスや黒人暴行死抗議デモへの対処の不手際などといった失態が、徐々に人々の記憶から薄らいでいく可能性もないではない。
 むしろ、ここにきてトランプ氏が矢継ぎ早に繰り出している“あからさまな選挙目当ての策略”が、同氏への支持を復活させるかも知れない。また、投開票日直前まで米株高の状態が継続したり、その日が近づくほどに新型コロナ感染のピークアウトが明らかなものになったりする可能性もあり、いまのところ「やや優勢」とされるバイデン前副大統領にとっても最後まで油断は禁物ということになろう。
 実際、ここにきてバイデン、トランプ両氏の支持率の差は縮小傾向にある。世論調査でバイデン氏に10ポイント超のリードを許していたトランプ氏がジワジワと追い上げ、最近は7ポイント程度にまで縮まっていると伝わる。このほど民主党の副大統領候補に黒人女性として(アジア系としても)初めてカマラ・ハリス上院議員が正式指名され、「非白人」票の取り込みが期待されてはいるが、そのことが必ずしも“決定打”になるというわけでもなさそうである。

選挙を左右する経済対策

 例によって、選挙戦の行方は混とんとしてきたわけであるが、その勝敗を分かつ最も重要な要素が「経済」であることに変わりはない。むろん、それは新型コロナの封じ込めとも大いに関わるところである。既知のとおり、いまだ米国の有権者は「経済政策」についてはバイデン氏よりもトランプ氏に信頼を置いている模様。劣勢挽回を目論むトランプ氏は、少なくとも投開票日直前まで最大の鍵の一つである米株高の維持に死力を尽くすことだろう
 一方のバイデン氏は政策方針のなかに法人税の税率引き上げと資産取引税の導入を掲げる。かねて、こうした政策方針は金融市場から嫌われがちであったが、最近は少々風向きが変わり始めてもいる。まず、税制の見直しについては、あくまでも「コロナ禍を克服して景気回復が着実に軌道に乗っていれば」という前提条件の下でのみ実施が検討されると見られる。また、仮にバイデン氏が大統領の座と議会両院を押さえることに成功すれば、新型コロナの封じ込めを着実に進め、なおかつ対中関税措置も緩和することで回復期待を一層高めることに成功するといった見方もある。

 現在、与野党間のせめぎ合いが続いている追加経済対策を巡る協議も、近い将来において両党が歩み寄り、双方の主張を汲んだ“折衷策”が成立する運びとなろう。それは、大統領選を間近に控えた今、其々が断固として譲らない姿勢を露わにすることは双方の選挙戦略にとって得策ではないと考えられるからである。
 実際、経済対策への期待の高まりから8月半ばにかけて大きく上昇した米債利回りも、協議が平行線を辿り続けるごとにジワジワと低下傾向を辿り、そのことが先行き不安を惹起させる結果へとつながっているのが現状(執筆時)である。もちろん、期待が完全に消し飛んでしまったわけではなく、むしろ米株相場は追加対策の成立を先んじて織り込んだ状態にあることも事実である。

FOMC議事録とユーロ/ドル相場

 先に公表された7月開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録の内容は市場において「米当局は新たな緩和策には前向きでない」と捉えられた。結果、公表後にドルが一気に買い戻される格好となったわけだが、正味のところFOMC議事録の内容がさほどタカ派的だったわけではない
 その頃、時を同じくしてユーロ/ドルが1.20ドル近辺まで上値を伸ばす場面があり、そろそろドルを一旦買い戻したいと考えていた向きにとっては、FOMC議事録の内容が「その格好の口実になった」というだけのことである。考えてみれば、米大統領選挙戦がいよいよ佳境に入ろうとしている段にあって、米当局が米経済の先行き不安を煽るような材料をわざわざ提供するはずもない。
 元々、米金融政策当局はイールド・カーブ・コントロール(YCC)の導入に否定的であったし、かねて議論されている「フォワードガイダンス」の明確化については、次回9月(15-16日)の会合で新たな指針が提示される公算が大きいと見られている。少なくとも、それまでは依然としてドル/円が105-107円のレンジ内でのもみ合いを続ける可能性が高いと見ていいだろう

 なかには「足下でドルに対する信認が音を立てて崩れ始めており、準備通貨としての立場が衰退しかねない状況に陥っていることがドル安の最大要因」などとしかめ面をして評する向きもあるが、果たして本当にそうなのであろうか。
 コロナ禍で、何もかもが一時的に異常な状態に陥っている現状にあって、目下は過去の経験則や相場観などが役に立ちにくい。まして、足下のカネ余り状況はかつてない。結果、身も蓋もない話ではあるのだが、目下の相場は「単に儲かる方へとなびきやすくなっている」というだけのことのように思われてならない
 8月半ば頃の市場では、米大手銀の調査をもとに「ドルよりもユーロに投資妙味があると考える投資家が過去最大になった」と伝わっていた。7月半ば以降のユーロ/ドルのシャープに切り立ったチャート形状を見れば誰もが“投資妙味”を覚えるのは当然と言え、単に「買うから上がる、上がるから買う」の繰り返しを無理やり理由付けするかの如く「7月の欧州復興基金創設案の成立が大きい」などと解釈されていただけのようにも思える。

 むろん、なおもユーロ/ドルには上値余地があると見ることもできなくはない。ポイントは、一つに1.20ドル処をクリアに上抜ける動きが見られるかどうかという点と、次に一目均衡表の月足「雲」をクリアに上抜けることができるかどうかという点である。

ユーロドル 月足(一目均衡表)

月足「雲」は2011年の秋以降ずっと上値抵抗として機能し続けてきたわけであるから、同水準を上抜ければ一大事である。そこから、かなり強い上昇基調があらためてスタートする可能性もあろう。
 ただし、8月第3週のユーロ/ドルの週足ロウソクが長めの上ヒゲを伴って久方ぶりの陰線を描いたことは見逃せない。週足が陰線となるのは、6月半ば以来のことである。同じ週の週末に発表された独・仏ならびにユーロ圏の製造業・サービス部門PMIの大半が事前予想を大きく下回っていた点にも留意しておきたい。ユーロにとって、ここはまさに正念場である。

ユーロドル 週足(一目均衡表)

 

yoshizaki.jpg田嶋智太郎氏
経済アナリスト 慶應義塾大学を卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券を経て、経済アナリストに転身。現場体験と綿密な取材活動をもとに、金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産掲載まで幅広い範囲を分析・研究。 WEBサイトで経済・経営のコラム執筆を担当し、株式・外為・商品などの投資ストラテジストとしても高い評価を得ている。 また、「上昇する米国経済に乗って儲ける法」など書籍も手掛けるほか、日経CNBCレギュラーコメンテーターも務める。