こんにちは、戸田です。
香港シリーズ、第12回は「悩ましい香港ドル高、香港の景気悪化は鮮明に」でお届けいたします。
ご存知の通り、世界各国、「新型コロナウイルスの不況をどのように乗り越えるか?」が大きなテーマとなっております。それは香港も例外ではありません。
さらに香港には、新型コロナウイルスの影響に加えて、米国の金融・経済制裁も加わり、これが経済的、心理的に重くのしかかっています。
また米ドルにペッグしている香港ドル故に、独自の金融制裁に踏み切れない香港の弱みも垣間見えます。
本記事では、公表された経済データや現地の声をもとに、香港の最新の状況について迫っていきます。中国や香港とのビジネスや投資、人民元や香港ドルを売買する際の参考にして頂ければ幸いです。
それでは、本題に入っていきます。
目次
1.停滞する香港株
2.香港の景気悪化が鮮明に
3.悩ましい香港ドル高
4.ドル安人民元高は既定路線?
5.おわりに
1.停滞する香港株
さて、ここのところ香港株の低迷が続いています。添付のチャートは年初を100とした各国の株価指数の推移ですが、新型コロナウイルス発生からしばらく経ち、世界的に株価が回復傾向にある中で、香港のハンセン指数(茶色)の出遅れが目立ってきました。
アントグループ(世界最大の非上場企業)などの超巨大ユニコーン企業が、香港上場の手続きをすすめているという話題がある中で、この低迷はやや違和感があります。
そこで調べていくと、どうも純粋に、香港内の景気がかなり悪化しており、それが株価に反映されていることが浮き彫りになってきました。
2.香港の景気悪化が鮮明に
こちらは香港の昨年からの失業率をまとめたチャートです。2020年7月の失業率は6.1%、足元の失業率が高止まりしていることが見て取れると思います。
香港の商工会議所の発表によれば中小企業の42%、大企業の24%が新たな支援策が発表されない限り、6ヶ月以上の業務継続は困難であると表明しました。香港では4月以降、先進国各国と同様に、補助金の支給(香港ドルで1,380億ドル、日本円で約1.9兆円)を行っているのですが、それでも市場の需要に足りない状況のようです。
また香港商工会議所によれば、アンケート実施企業の、60%の中小企業、29%の大企業の売上が半減しているようです。大きな理由は二つで、取引先や協業先の財務状況の悪化、米国の金融(貿易)制裁などの外部要因だそうです。
弊社の香港社員に現地の雰囲気について確認したところ、小売店や小さなショップは特に被害が大きいようで、かなり多くの店舗用スペースに空きが確認できるようです。
失業率のデータを詳しくみても、宿泊施設・レストラン・芸術・エンターテイメントなどが軒並み悪く、現地の雰囲気と経済データ双方の整合性も取れます。
各国、新型コロナウイルスの影響を受け、苦戦しておりますが、なかでも香港の被害は米中金融戦争とも絡めて非常に大きいものになっています。
3. 悩ましい香港ドル高
このような状況にあるのですが、香港ドルは引き続きバンドの下限、つまり香港ドル高の水準が継続しています。
※青いラインはUSD3M LIBOR とHKD3M HIBOR の金利差
これは引き続き香港中銀が香港ドルの金利を、米ドルよりも0.20%ほど高めに設定していることが一因として挙げられます。その他、米ドルそのものが下落傾向にありますからその影響も大きく受けているのでしょう。
仮に香港が米ドルペッグを採用しておらず、独自の金融政策を行えるのであれば、景気が悪化している状況を踏まえ、金融緩和を実施し、為替は香港ドル安に誘導するのが望ましい状況と言えそうですが、残念ながら香港にはその選択肢はありません。新たな補助金(財政支援)を準備して、雇用主や従業員を支援する他に、道はありません。
景況感が良くない中で、香港ドルが買われ続ける現状は、香港にとっても望ましくない状況と言えるでしょう。
4. ドル安人民元高は既定路線?
さてアジア通貨と言えば高金利ですからキャリートレードが有効なわけですが、ここのところ香港ドルもさることながら、人民元の堅調さが目立ってきました。こちらも年初の対円の水準を100としてチャートにしたものですが、人民元が足元で大きく反発していることが確認できます。
このような状況について、米中対立が鮮明な中で違和感を感じる方も多いと思いますが、私は、ドル安、人民元高はある意味で必然だと考えています。
簡単に要点だけ述べると、米国は株高を醸成したいことと、貿易赤字を縮小したいことからドル安が良い、一方で中国は大規模な資本流出を避けることと、他国からの投資を呼び込みたいいことから、相場は安定、もしくは人民元高が望ましいとして、双方の利害は実は一致しており、為替レートの合意に至っている可能性もあるからです。
巷では「人民元の崩壊が始まった」などと、中国に対して扇情的な記事や主張も散見されますが、そう言った内容は大概にして論拠に乏しいものなので、そっと横においてしまい、ドル安、人民元高は米中双方にとって利が重なるところがあると、ざっくりとご認識頂ければと思います。
5.おわりに
さて11月3日の米大統領選を睨みながらの相場が続きます。全体的には米ドル安、株高の流れとなっておりますが、ドル円は105円台では為替介入も意識され、底堅い動きが継続しています。
ドル円の買い持ちよりも、人民元の対円での買い持ちがワークしそうな状況が継続しているので、まだまだ下がりそうな米ドルよりも、人民元を保有して相場と対峙してみるのも良いトレードアイデアではないかと思います。
さて、本日はここまでとなります。
引き続き注目度・影響度の高い、中国本土・香港の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っておりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
戸田裕大
【過去記事】
<参考文献・ご留意事項>
South China Morning Post
Investing.com:為替レート及び 各種株価データ
HKGCC:Strengthening Measures to Fight Covid-19 and Preventing Domino Effect of Business Closures Essential, Survey Finds
https://www.chamber.org.hk/en/media/press-releases_detail.aspx?ID=3664
Census and Statistics Department:Labour Force
https://www.censtatd.gov.hk/hkstat/sub/sp200.jsp?tableID=006&ID=0&productType=8
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。