こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、発表された報道や、公表された経済データなどをもとに、香港や中国本土の最新の情勢について迫っていきます。香港ドル・人民元などの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
突然ですが、今回、第47回は最終回になります。
約1年間にわたり激動の香港情勢をお伝えしてまいりまして、大変思い入れも深いシリーズとなりましたが、香港情勢もある意味で一区切りがつき、新たなフェーズに入ってきましたので、シリーズを閉じるのに、丁度よいころ合いかなと考えておりました。
最終回ですが「香港政治と香港ドル相場の1年を振り返る(含む人民元)」といたしまして、香港政治の移り変わりと、香港ドルと人民元の1年間の変化について、お伝えしたいと思います。
それでは本題に入っていきます。
目次
1.香港政治の移り変わり
振り返ってみますと、やはり、2020年6月末に施行された「香港国家安全維持法」が全てのターニングポイントになったと思います。自由で開放的な香港の風土は、一転して中国の権威主義的な統治体制へと変わっていきました。
大規模な民主派の反発もありましたが、香港政府が力で抑えつけ、鎮圧し、民主派の勢いには陰りが見られます。私たち民主主義国家の国民としては、中国・香港政府の対応に対して憤りを覚えた方も多かったのではないでしょうか。
ちょうど1年が経過しようとしていますが、たったの1年で香港に、中国と同様の監視体制が敷かれたことに驚いております。嫌悪感があるないと言うのは一旦横に置いておくのですが、このスピードこそが中国政治の最大の強みであるということが多くの外国人に知れ渡ったと思います。
今後、国際金融都市としての香港を維持することが難しくなるのかどうか、注目が集まっています。少なくとも初動では、金融エリートの人材流出、外国人の資金流出と言う形で問題が表面化していくはずです。
ただし金融自由化が済んでいる香港において、政治の自由がなくなったことに対して、どこまで国際的な金融取引が停滞するのかは、これまた壮大な社会実験であり、判断に難しいことでもあります。一時的には「中国投資の中継地点としての香港」「中国人の海外投資のための香港」の位置づけが強くなると思いますが、10年後、20年後の香港の姿は中国の成長度合いに依るのかも知れません。
香港を統制した中国共産党の次の焦点は台湾に定まっています。台湾を統一することこそ、現在の共産党の悲願だからです。今後は、中国化が進む香港に関する報道は減り、台湾防衛に関する報道が増えると思います。
日本は、中国と言う巨大で特殊な国のすぐ近くに位置していますから台湾有事は他人事ではありません。また中国は日本最大の貿易相手でもあり、経済的なパートナーでもあります。
私がみなさまにお伝えしたいことは1点だけです。中国から目をそらさず、真正面を向いて考える時が来ました。民主主義の私たちはみんなで考え、知恵を絞っていかないといけません。みんなでこの問題に対して、バイアスを振り払い、真剣に考えていきましょう。
2.香港ドル相場
為替相場についても国家安全維持法を区切りとして用いて、直近1年間の推移をみていきたいと思います。
香港ドル相場は、結論から言えば、国家安全維持法の影響をあまり受けていません。
対ドル相場は7.75-7.85のレンジの下限付近で、非常に安定した推移を続けています。また、その結果として、対円相場はドル円とほぼ同様の軌道を描いています。香港の景気そのものは落ち込んでいるのですが、これまでに積み上げてきた潤沢な外貨準備や、堅牢な米ドルとのペッグ制度に支えられて通貨の価値は極めて安定しています。
米国は香港に対する制裁の一環として、米ドルの融通を減らすことを検討したようですが、実施するには至りませんでした。ブーメラン効果とでも呼びますか、他国に厳しくすればするほどに、基軸通貨としての役割を期待されなくなっていくことを警戒してのことと思います。
とは言え、中国・香港側でもいつ米ドルの融通を制限されるか分かりませんから、バックアッププランはいくつか用意してあると推測します。将来的には香港ドルが人民元にペッグされていくことは、一つのストーリーとして頭の片隅に入れておくのが良いと思います。
また、香港に口座をお持ちの方は、どのように対応すべきか、投資家としてのリスク管理能力が試されているかも知れません。ある日、突然に資本移動の制限が設けれるということもあり得ますので、十分にお気をつけください。
3.人民元相場
最後に人民元を見て行きたいと思います。
この1年で、人民元は、対ドルで9.7%、対円で12.7%ほど上昇しました。2018年は米中対立の開始と共に、通貨人民元は弱含みましたが、ここ1年はだんだんと本来の力強さを取り戻し始めています。
人民元の強さの理由についてはこれまでも繰り返しお伝えしてきました。高い経済成長率、世界一の稼ぐ力、堅実な金融政策などなど、人民元が強い理由を挙げればキリがありません。
ただし、そんなことを最終回に伝えたいのではないです。
私が最終回でどうしてもお伝えしたいことは、中国はすごいとか、香港の民衆はかわいそうだとか、そう言うことではなくて、「日々触れる情報には本当に気をつけてほしい」と言うことです。もう中国はダメだとか、香港ドルは崩壊だとか、そう言う論調は無価値であり、むしろ見てしまうと投資に役立たないばかりか、反対にベットしてしまうことになってしまうのがよく分かった1年だったと思います。
日本人の知らない香港情勢では、とにかくフェアに、バイアスを掛けず、読者のみなさまに価値ある情報をお伝えすることを心掛けました。結果として、手前味噌ですが、みなさまの知らなかったことや、トレードに役立ったことも少なくなかったのではないかと考えております。
為替取引をする上で、世界をフェアに捉えることは、プラスにこそなれ、マイナスにはなりません。反対に世界を色眼鏡でみると、間違った投資行動に繋がってしまいます。
世界を知らないで通貨を売買することは、地図を持たずに目的地に向かうようなものです。世界のニュースは身近なニュースではありませんから、なかなか関心を持つのは難しいと思いますが、ぜひ世界にもみなさんの注目の少しでよいので、与えてあげてください
本シリーズにつきまして、これまで多くの方から応援のメッセージを頂きました。大変嬉しく思っております。本当にありがとうございます。
このシリーズの連載を通して、みなさまの香港、ならびに中華圏通貨に対する理解の一助になっていれば大変嬉しく思います。
今後は個人投資家のレベルアップコンテンツおよび、人民元・オーストラリアドルなどの相場情報について解説をさせて頂く予定です。
引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
戸田裕大
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<参考文献・ご留意事項>
各種為替データ
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代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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