
今回はふくおかフィナンシャルグループのチーフストラテジスト・佐々木融氏に、直近の為替市場の行方について詳しくお話を伺いました。2月8日の衆議院議員選挙を経て、ドル円相場はどう動いているのか?そして、この円安はいつまで続くのか?個人投資家の皆さまが押さえておくべきポイントを佐々木氏に解説していただきました。
【必見!】佐々木融氏の解説動画
選挙後の為替市場、今どうなっている?
2月8日の衆議院議員選挙を通過し、為替市場には一時的な変動が見られました。佐々木氏によると、選挙前には「高市トレード」への期待から円を売る動きが出ていたそうです。
「選挙に向けて、自民党が勝つのではないかという見方が広がり、あらかじめ円を売る動きが出ていました。実際に予想以上の勝利となったものの、マーケット的には利益確定の円買い戻しが入っている状況です」
さらに、選挙とは別にドル売りの動きも出てきており、これがドル円を押し下げる要因にもなっているとのこと。財務官をはじめとする政府高官の発言に対しては、介入警戒感と円の買い戻しで「ドル円の上値が重い」状態になっているそうです。
「構造的円安」とは何か?
個人投資家の皆さんが最も気になるのは、「この円安は一時的なものなのか、それとも構造的なものなのか」という点ではないでしょうか。
佐々木氏の答えは明確です。「構造的な円安の状態が続いている」とのこと。
さらに、今回の高市政権が本格的に積極財政に進んでいくと、この構造的な問題がさらに深刻化する可能性があると指摘されています。
●円安を引き起こす2つの構造的要因
佐々木氏によると、円が弱くなっている構造的要因は主に2つあります。
1. 実質金利がマイナスであること
実質金利とは、名目金利からインフレ率を引いたものです。これがマイナスということは、お金を預けていても実質的には目減りしているということ。これが円安の大きな要因になっています。
2. 対外直接投資による資本流出
日本企業が海外に投資することで、円が売られてドルなどの外貨が買われる動きが続いています。
高市政権で円安はさらに進む?注目すべきポイント
特に注目すべきは、高市政権の政策が「実質金利のマイナス」をさらに深める可能性があるという点です。
佐々木氏はこう説明します。
「すでにインフレ圧力が高い中で積極財政を行えば、インフレ率はさらに高止まりします。一方で、日本は今、金利上昇による利払い負担の増加という問題に直面しています。政府も日銀も、金利が上がると利払い負担が増えてしまうんです」
ここで重要なのは、金利上昇を受け入れるか、抑え込もうとするかという政策判断です。
もし利払い負担を嫌って金利上昇を抑え込もうとすれば、インフレ率は高いまま金利は低いまま、つまり実質金利はさらにマイナスに。結果として、円安がさらに進むことになります。
●利払い負担はどれくらい増えるのか?
佐々木氏によれば、長期金利が2.5%程度まで上昇してそのまま横ばいになるだけで、政府の利払い負担は現在の約2.5倍、約25兆円にまで膨らむとのこと。これは現在の消費税収とほぼ同じ規模です。
「この前提は過激なものではなく、むしろ控えめな想定です。利払い費の増加はもう避けられない状況なんです」
日銀も短期金利を上げると、当座預金に対して金利を支払わなければならず、利払い負担が増加します。これは過去の量的緩和政策やマイナス金利政策といった非伝統的な金融政策のツケだと佐々木氏は指摘します。
今は重要な分岐点!ドル円相場の行方を決める判断とは?
現在の円相場について、佐々木氏は「重要な分岐点にいる」と強調します。
「ここでの判断が今後の円相場に大きな影響を与えます。金利上昇を自然体で受け入れる判断をすれば、構造的な円安は少し収まるかもしれません。しかし、利払い負担を恐れて金利上昇を抑え込もうとすれば、円安はさらに加速することになります」
個人投資家の皆さんとしては、2026年度予算の議論に注目する必要がありそうです。そこで政府がどのような姿勢を見せるかが、今後のドル円相場を占う重要なヒントになります。
インフレ率の「見せかけの低下」に注意が必要
もう一つ注目すべきはインフレ率の動向です。
2026年は、ガソリンの暫定税率引き下げや電気・ガスへの補助金、高校授業料や給食費の無償化拡大など、さまざまな減税・補助金政策によってインフレ率が一時的に下がる見込みです。
しかし佐々木氏は警鐘を鳴らします。
「この下がったインフレ率は一時的なものです。減税や補助金は消費を刺激するため、むしろ先行きのインフレ率を上げる要因になります。数字上下がったインフレ率を見て『だから利上げしなくていい』となってしまうと、実質金利がさらにマイナスになり、円安が進みやすくなります」
表面的な数字に惑わされず、本質的なインフレ圧力を見極めることが大切ですね。
今の日本に必要なのは「金額」ではなく「アイデア」
減税政策について、佐々木氏は興味深い指摘をされています。
「財政政策が『いくら配るか』『いくら給付するか』という話ばかりになってきています。でも、今の日本に必要なのは金額の問題ではなく、アイデアの問題だと思うんです」
経済の目詰まりを解消するには、単純にお金を投入すればいいというものではないと佐々木氏は主張します。減税や給付金は一時的な応急処置にはなっても、根本的な解決にはならないということです。
●アベノミクス「三本目の矢」の重要性
佐々木氏は、アベノミクスの「三本の矢」を引き合いに出します。
一本目の金融緩和政策と二本目の財政出動が効いてきて、ようやく日本経済が動き始めた今こそ、三本目の矢である「構造改革」に本腰を入れるべきタイミングだと言います。
「ここでまた一本目と二本目にこだわっていると、同じことの繰り返しになってしまいます。構造改革にフォーカスしていく必要があります」
日本経済の変化と個人投資家が注意すべきこと
1年前と比べて、日本経済にはどのような変化があったのでしょうか?
佐々木氏によれば、インフレ率の高止まりによって預金が実質的に目減りしていることに多くの人が気づき始め、投資へのインセンティブが高まっているとのこと。株価の上昇も、この流れを後押ししています。
「最初は株価上昇をバブルではないかと心配する声もありましたが、大きく下がることなく上昇を続けています。投資意欲は高まっていますね」
ただし、だからこそ注意が必要だと佐々木氏は警告します。
「今の日本経済の現状をこのままにしておくと、大きな額の預金が海外に流出するリスクがあります。」
豪ドルとスイスフラン、まだ買える?
前回の動画で佐々木氏が推奨されていた豪ドルとスイスフランは、その後対円で史上最高値を更新しました。
ここまで堅調な推移が続くと「もう遅いのでは?」「調整局面が来るのでは?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。
しかし佐々木氏の見解はこうです。
「豪ドル円やスイスフラン円が上昇しているのは、円が弱いままという点が重要なんです。2025年も円はドルと並んで主要通貨の中で最弱通貨でした。2026年も年初から見ると、円とドルが両方とも弱い状況です」
つまり、ユーロ円や豪ドル円、スイスフラン円の上昇は、これらの通貨が特別強いというよりも、円が構造的に弱いことの表れだということです。
●円安に「限界」はあるのか?
佐々木氏はこのように指摘されています。
「通貨というのは、刷れば刷るほど価値を下げることができるので、どこまでが限界というのはないんです。もし私がハイパーインフレを起こそうと思ったら、簡単にできます。どんどんお金を配り続ければいいだけですから」
豪ドル円が100円になるか、120円になるか、200円になるかは、過去との比較でしかありません。重要なのは日本の政策がどう変化していくかという点です。
まとめ
今回は為替市場の現状と、構造的円安の正体について佐々木融氏に詳しく解説していただきました。
重要なのは、今の日本は重要な分岐点にいるということ。政策の方向性次第で、円相場の行方は大きく変わってきます。個人投資家の皆さんは、目先の値動きだけでなく、政策の動向や経済の構造的な変化にしっかりアンテナを張っておくことが大切です。
後編では、日米それぞれの金融政策や政治リスクについてさらに掘り下げていきます。
ふくおかフィナンシャルグループ チーフ・ストラテジスト佐々木 融 (ささき・とおる)氏
1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。
2010年にマネージングディレクター就任、2015年から2023年11月まで同行市場調査本部長。23年12月から現職。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。
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