米雇用統計前の市場分析:ADP急落とポンドのミニトラスショック【外為マーケットビュー】
動画配信期:公開日から2週間
外為市場に長年携わってきたコメンテータが、その日の相場見通しや今後のマーケット展望を解説します。
動画の内容まとめ
米ADP民間雇用統計の衝撃的な悪化
昨日発表された米ADP民間雇用統計は、今日の米雇用統計の前哨戦として注目されていましたが、衝撃的な結果となりました。3万3000人の減少となり、前回の2万9000人増加(3万7000人から下方修正済み)から大幅に悪化しました。この発表を受けて一時的にドル安局面となり、ドル円は144円台から一気に143.50円割れまで下落しましたが、その後戻すという不安定な動きを見せました。
米雇用市場の構造的悪化傾向
アメリカの雇用情勢は深刻な悪化傾向を示しています。1月の雇用統計以降、毎回前月分・前々月分が下方修正される状況が続いており、3月分は22万8000人から12万人まで約10万人の大幅下方修正、4月分も3万人下方修正され、2か月で合計13万人もの下方修正となっています。
今回の雇用統計予想は12万人増加ですが、過去分の修正動向と合わせて、実際の数値がさらに下振れする可能性に注目が集まっています。
米失業率上昇と賃金動向
米失業率は前回4.244%(四捨五入で4.2%)から4.3%に上昇する予想となっています。一方で、時間当たり賃金は前回3.9%、その前が3.8%と年率4%近い上昇を維持しており、この賃金上昇が個人消費を支える要因となっています。ただし、1-3月期の個人消費は大幅に落ち込んでおり、賃金上昇の持続性に疑問符が付いています。
米長期金利の複雑な動きと財政法案の影響
昨日は米ADP発表により一時的に米長期金利が低下しましたが、その後上昇に転じました。この背景には、トランプ大統領が推進する大型財政支出法案の採決が控えていることがあります。独立記念日までの成立を目指すこの法案は、議会予算局の試算によると10年間で450兆円程度の財政赤字増加をもたらすとされており、市場は財政悪化への懸念を強めています。
FRB利下げ観測の高まり
FEDウォッチによると、7月利下げの確率が従来の20%程度から25%程度まで上昇しています。パウエル議長も一昨日のECBフォーラムで、利下げについて毎回討議しており7月も議論対象になるとの発言をしており、従来よりわずかにハト派的なスタンスを示しました。
ポンドのミニトラスショック
また、昨日注目されたのは、ポンドの急落でした。ドル安環境下でポンドは1.3788まで上昇していましたが、午前9時頃に1.37付近から1.356まで急落しました。これに伴い、英10年債利回りが4.5%から4.68%まで上昇、英F100も8800ポイントから8740ポイントまで下落し、通貨安・債券安・株安のトリプル安となりました。
リーブス財務相交代観測の浮上
この急落の背景には、リーブス財務相の交代観測があります。スターマー首相が下院質疑でリーブス財務相を支持しなかったことから、財政規律を重視してきた同財務相の立場が危うくなっています。公約に掲げた社会保障改革の重要部分が撤回されたことで、財政計画に大きな狂いが生じる可能性が高まっています。
後任となる財務相は財政規律を大幅に緩める可能性があり、これは数年前のトラス首相時代のショックと同様の構図となっています。当時は財源の手当てなしに減税を打ち出したことでトリプル安を招きましたが、今回も財政規律の緩和懸念が同様の現象を引き起こしました。
今後の注目ポイントと市場への影響
スターマー首相はその後リーブス財務相の後退観測を打ち消しましたが、この問題はくすぶり続ける可能性があります。ユーロが1.18を超えて強い一方で、ポンドだけが急落したことで、ユーロ・ポンドの動向にも注目が集まります。
米雇用統計の展望とドル円の重要水準
今日の米雇用統計で弱い数字が出た場合、ドル円は142円付近のサポートが維持できるかが重要なポイントとなります。この水準を下抜けると141-140円台へのトライが予想される一方、米雇用統計がそれほど悪くなければ142-146円のレンジ継続が見込まれます。
地政学的リスクから財政問題へと市場の関心がシフトする中、日本でも選挙が始まることで財政問題への注目度が高まる可能性があり、これらの要因が為替市場に与える影響にも注意が必要です。
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株式会社ADVANCE代表取締役 米系のシティバンク、英系のスタンダード・チャータード銀行で、20年以上にわたり、為替ディーラーとして活躍。現在は投資情報配信を主業務とする株式会社ADVANCE代表取締役。ドル、ユーロなどメジャー通貨のみならず、アジア通貨をはじめとするエマージング通貨でのディーリングについても造詣が深い。また、海外のトレーダー、ファンド関係者との親交も深い。YouTubeなどで個人投資家に対して為替に関する情報を発信しており、人気を博している。
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