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米半導体大手のエヌビディア(NVIDIA)は5月28日、2025年4月期(1Q)の決算を発表しました。売上高は前年同期比+69.2%の44,062百万ドル、営業利益は+28.0%の21,638百万ドル(営業利益率49.1%)、純利益が+26.2%の18,775百万ドル。相変わらずの好調な結果に、市場が好感して「買い」が優勢となり、米国株式市場の時間外取引で6%高となりました。また、エヌビディア(NVIDIA)以外の半導体関連企業にも買い注文が入り、「連れ高」となるような展開でした。
エヌビディア(NVIDIA)の2025年4月期(1Q:2月〜4月末)の決算内容はどのようなものだったのか。FY2020からFY25 1Qまでの「損益計算書(P/L)」「貸借対照表(B/S)」「キャッシュフロー計算書(C/F)」を使って、さらに詳しく財務分析をしてみましょう。
エヌビディア(NVIDIA)の損益計算書
エヌビディア(NVIDIA)はAIとデータセンター向けGPUの需要拡大を背景に飛躍的な成長を遂げる注目の米国株です。まずは2025年5月28日に公表されたFY25 1Q決算の損益計算書の内容から確認します。
(1)売上高の動向
FY25 1Q(4月期)売上高は44,062百万ドル(前年同期比+69.2%)となりました。FY 2024通期の売上高に対する進捗率は約33.8%です。一般的に1Q(第1四半期)は年間売上の20~25%程度にとどまるケースが多いのですが、エヌビディア(NVIDIA)の売上高はAI・データセンター向けGPU需要の強さを背景に、大きく上振れしました。データセンター事業が引き続き全体を牽引しつつ、ゲーミングやプロフェッショナル・ビジュアライゼーションも堅調に推移。FY 2025の通期目標に向けて力強いスタートを切っています。
通期ベースでは、売上高がFY2020の16,675百万ドルから、FY2024の130,497百万ドルへと約8倍に拡大しています。また、売上高成長率もFY2023が+125.9%、FY2024が+114.2%で2期連続で100%超を達成、 FY25 1Qはこうした好調ぶりを継続していると言えます。
(2)営業利益の動向
FY25 1Q の営業利益は21,638百万ドル(前年同期比+28.0%)と、AI・データセンター向け需要の堅調さを背景に、想定を上回る伸びを示しました。FY 2024通期の81,453百万ドルに対する進捗率は約26.6%で、通例20~25%にとどまる1Q(第1四半期)を上回り、非常に力強い滑り出しと言えます。新製品の立ち上げやインフラ投資に伴う前倒しコストも十分に吸収し、高い営業レバレッジを維持できている点が注目されます。
FY2020からFY2024の通期ベースでは、FY 2021が+121.6%、FY 2022は△44.5%と大きく下がりましたが、FY 2023は+491.2%と急拡大、FY 2024も+147.0%と成長を遂げています。営業利益率も27.2%→37.3%→20.7%→54.1%→62.4%と上昇し、高付加価値製品の比率が増加し、規模拡大によるコスト効率の改善が鮮明です。
(3)当期利益(純利益)の成長
FY25 1Qの純利益は18,775百万ドル(前年同期比+26.2%)に達しました、FY 2024通期の72,880百万ドルに対する進捗率は約25.8%です。営業利益の拡大に加えて、税務最適化や低い借入コストの恩恵もあり、増加した売上を確実に手元利益に反映できている点が際立ちます。年間計画に対する順調なスタートと言えるでしょう。
FY 2020からFY2024までの通期ベースの成長率は、FY2021が+125.1%、FY 2022が△55.2%となり、一旦は下がりましたが、FY 2023は+581.3%、FY 2024は+144.9%と伸びて、過去最高益を更新しています。
(4)EPSと投資家評価(PER/PBR)
1)EPS(一株あたり当期利益)
FY2020 0.17ドル → FY2021 0.38ドル → FY2022 0.17ドル → FY2023 1.19ドル → FY2024 2.94ドル
2期連続で上昇した後、FY2022に一旦反落したものの、FY2023からFY2024にかけては大幅上昇しています。
2)PER(株価収益率)
FY2020 75.35倍 → FY2021 59.37倍 → FY2022 116.91倍 → FY2023 51.14倍→ FY2024 43.9倍
FY 2022に一時的に急上昇した後、FY 2023以降は業績拡大で急速に低下しました。投資魅力が向上しています。
3)PBR(株価純資産倍率)
FY2020 19.07倍 → FY2021 21.51倍 → FY2022 22.72倍 → FY2023 34.99倍 → FY2024 39.8倍
高収益成長と高キャッシュ創出力を背景に、株主資本価値評価が年々高まっています。
エヌビディア(NVIDIA)の貸借対照表
続いて貸借対照表を分析します。
(5)資産の動向
FY25 1Q時点では、流動資産が89,935百万ドル(FY 2024末比+12.3%)にさらに積み増されました。これは売掛金や市場性有価証券の増加を反映しています。短期的な支払能力は十分に確保された水準です。固定資産も35,319百万ドル(同+12.2%)となり、特にデータセンター建設など「仕掛資産」への投資が順調に進行していることがうかがえます。これらは、AI需要を支えるための戦略的投資が継続している証左と言えるでしょう。
なお、FY 2020からFY 2024までの通期ベースでは、流動資産がFY2020の16,055百万ドルから80,126百万ドルと約5倍になりました。固定資産も12,736百万ドルから31,475百万ドルと約2.5倍に拡大しました。主にAI・データセンター投資や研究開発拠点の強化によるものです。
(6)負債の動向
FY25 1Q末の流動負債は26,542百万ドル(FY 2024通期比+47.1%)、固定負債は14,869百万ドル(同+4.5%)となりました。特に流動負債の大幅上振れは、四半期末の一時的な支払いタイミングの偏りや事業拡大にともなう通常の未払項目の増大が要因です。一方で固定負債は大きな変動は見られません。資金調達や長期借入金の状況は安定しています。今後は四半期ごとの未払債務の増減とキャッシュフローの動きをあわせて注視し、負債構造の健全性を見極めることが重要です。
FY2020からFY2024までの通期では、売上拡大にともない、流動負債、固定負債ともに増加しました。特に流動負債はFY2020 3,925百万ドル→FY2021 4,335百万ドル(+10.4%)→FY2022 6,563百万ドル(+51.4%)→FY2023 10,631百万ドル(+62.0%)→FY2024 18,047百万ドル(+69.7%)億ドルと急拡大しました。主にデータセンター関連の仕入債務が積み上がったことを反映しています。一方、固定負債は7,973百万ドル→13,240百万ドル(+66.1%)→12,518百万ドル(△5.5%)→12,119百万ドル(△3.2%)→14,227百万ドル(+17.4%)と、増減を繰り返しながら、上昇傾向を示しています。
(7)流動比率の動向
FY25 1Q末には338.8%に低下しましたが、それでも3倍以上の安全域を確保しており、高まった流動負債を十分に支える堅牢な短期資金余力が維持されています。
FY2020~FY2024の通期では、常に300%超の高水準を維持しており、特にFY2021には665.0%まで上昇しました。これは売上の急拡大に伴う流動資産(現金・市場性資産や売掛金など)の積み増しが、仕入債務や未払費用などの流動負債を大きく上回った結果です。
(8)自己資本比率の動向
FY25 1Q末には66.9%とやや低下したものの依然として高水準を維持しており、自己資本を基盤とした財務健全性が確保されています。これにより、新規投資や予期せぬ資金需要にも十分耐えうるバランスシートが構築されていると言えます。
FY2020~FY2024の通期では、自己資本比率が58.7%→60.2%→53.7%→65.4%→71.1%と大きく改善しました。借入金の増加を上回る利益剰余金の積み増しが進んだことが主因です。
エヌビディア(NVIDIA)のキャッシュフロー計算書
続いてキャッシュフロー計算書です。
(10)営業キャッシュ・フロー(営業CF)の急拡大
FY2020~FY2024の通期は、営業CFは5,822百万ドル→9,108百万ドル→5,641百万ドル→28,090百万ドル→64,089百万ドルと、収益の大幅拡大に沿って急増しました。これに続くFY25 1Qは27,414百万ドル(前年同期比+78.7%)を獲得しました。FY24通期の約42.8%に相当する水準です。これは主に高い営業利益率の維持に加え、売掛金回収の加速や在庫管理の効率化により、稼ぐ力が一段と強化されたことを示しています。
(11)投資キャッシュ・フロー(投資CF)の変化
FY2020年からFY2021年にかけて、NVIDIAの投資キャッシュ・フローは△19,675百万ドルから△9,830百万ドルへと縮小しました。その後のFY2022からFY2024でもおおむねマイナス圏で推移しています。サーバー設備や研究開発、供給・キャパシティ契約への前払金といった成長基盤投資が続いています。
そしてFY25 1Qは△5,216百万ドル(FY24通期の約25.6%)となりました。四半期単位でみると、前四半期ほどの大規模投資ではありませんが、依然としてハイパフォーマンス・コンピューティング向けの固定資産取得や、今後の製造キャパシティを確保するための長期前払金が主な資金使途となっており、AI需要の高まりに応えられるように、インフラ拡充のための投資を継続していることが読み取れます。
(12)財務キャッシュ・フロー(財務CF)の推移
FY2020からFY2024までの通期では、財務CFは3,804百万ドル→1,865百万ドル→△11,617百万ドル→△13,633百万ドル→△42,359百万ドルとなっています。特にFY2022以降の自社株買いと配当支払いの積み増しにより、大幅なマイナスが続いています。
FY25 1Qも△15,553百万ドル(FY 2024通期の約36.7%)の流出となりました。これは財務政策として、株主還元策をとったため、大量の自社株買いに加えて、配当支払いタイミングが四半期末に偏った結果、キャッシュが大きく動きました。これにより、FY25 1Q末の現金・現金同等物残高は15,234百万ドルに達して、潤沢な手元流動性が維持されることになりました。今後も四半期ごとに、営業CFの安定確保と、投資・財務CFのバランスを注視しましょう。
エヌビディア(NVIDIA) 2025年4月期(FY25 1Q)決算の総括
エヌビディア(NVIDIA) は FY25 1Q(4月期)においても、強力な成長トレンドを維持しました。売上高は前年同期比+69.2%の44,062百万ドルを記録し、FY2024通期の売上高に対する進捗率は約33.8%に達しました。営業利益は21,638百万ドル(+28.0%)、営業利益率は49.1%と高水準を維持し、四半期ベースで見ても、コスト効率の改善と高付加価値製品の比率上昇で収益力UPが鮮明になっています。最終利益も18,775百万ドル(+26.2%)と堅調で、純利益の通期進捗率は約25.8%。AI・データセンター投資が先行させながらも、同時に利益を確実に残していることが分かります。
財務面では、営業キャッシュ・フローが27,414百万ドルと強烈に積み上がり、投資キャッシュ・フローの△5,216百万ドルを大きく上回りました。これにより期末現預金残高は15,234百万ドルまで拡充して、流動比率は約339%、自己資本比率は約66.9%といずれも高い安全性を維持しています。今後の成長投資や株主還元余力も十分です。
市場評価面では、巨額の利益拡大を背景に、PERは引き続き高成長株らしい水準を示す一方で、PBRも成長期待を反映して堅調に推移すると考えられます。FY 2025年通期でも、「成長加速」「利益率維持」「財務健全性確保」の三位一体を維持できるかどうかが、重要なカギとなるでしょう。FY25 1Qの力強いスタートを踏まえ、今後も売上・利益・キャッシュフローのトリプル拡大が期待されます。
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株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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