【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ユーロ/円
・ユーロ/円の基調と予想レンジ
・ユーロ/円 7月の推移
・7月の各市場
・7月のユーロ/円ポジション動向
・8月のユーロ圏注目イベント
・ユーロ/円 8月の見通し
ユーロ/円
ユーロ/円の基調と予想レンジ
ユーロ/円 7月の推移
7月のユーロ/円相場は135.546~142.429円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約4.2%の大幅下落となった(ユーロ安・円高)。欧州の景気後退(リセッション)への懸念がくすぶる中でユーロ売りが先行。ロシアから欧州への天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」の定期点検明けの再稼働を巡る不透明感も欧州景気への不安を高めた。
中旬は、136~137円台でひとまず下げ渋ると欧州中銀(ECB)の利上げ期待で142円前後へと持ち直したが、ECBの利上げ決定後は再び140円台を割り込んで軟化した。
下旬にかけては、ユーロ圏の7月PMIが悪化したことでリセッション懸念が増大。天然ガス価格の高騰もリセッション懸念に追い打ちをかけ、月末に向けてユーロの上値は一段と重くなった。28日にはドル/円の急落につれて136円台前半へと下落。29日には2カ月ぶりに135.55円前後まで続落した。
出所:外為どっとコム「外貨ネクストネオ」
4日
独5月貿易収支は予想(16億ユーロの黒字)に反して10億ユーロの赤字となった。ドイツの貿易赤字は1991年以来。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰で輸入額が増加したことが影響した。ユーロ圏5月生産者物価指数は前年比+36.3%となり、予想(+36.6%)をわずかに下回ったものの、歴史的な水準で高止まりした。
12日
独7月ZEW景況感調査の期待指数は-53.8と予想(-40.5)を下回り、2011年12月以来の低水準を記録。ロシア産天然ガスの供給停止を巡る懸念が強まる中、独経済のリセッションへの警戒感が広がった。
13日
米6月消費者物価指数(CPI)の上昇加速でドル買いが強まると、ユーロ/ドルが一時1ユーロ=1ドルのパリティ(等価)を割り込んで下落。ただ、ユーロ/円はドル/円の上昇に支えられて下げ渋った。その後、ユーロ/ドルが押し目買いで反発するとユーロ/円も強含んだ。
14日
ドル/円が24年ぶりの水準まで上伸した動きにつれてユーロ/円も上昇したが、イタリアのドラギ首相が辞任の意向を発表したことで上げ幅を縮小した。ドラギ内閣で連立与党の一角を担う「五つ星運動」が物価対策などの法案に不支持を表明したことから政権運営が困難になった。
19日
当局者の発言として、ECBは7月21日の理事会で50bpの利上げを検討すると伝わった。市場は25bp利上げの見方でほぼ固まっていたため、この発言を受けてユーロが上昇した。ロシアから欧州へのガスパイプライン「ノルドストリーム1」について、ロシアが供給量を減らすものの21日に再開すると伝わったこともユーロを支援した。
21日
ECBは11年ぶりの利上げを決め、政策金利のひとつである預金ファシリティ金利を-0.50%から0.00%に引き上げた。これを受けて一時ユーロ高に振れたが、ラガルドECB総裁が利上げを加速する方針を示しつつも「最終的な金利水準は変えない」として1.00%を大きく超えて政策金利を引き上げる考えがないことを示唆するとユーロは失速した。
22日
独7月製造業PMI・速報値は49.2(予想50.7)、同サービス業PMI・速報値は49.2(予想51.4)となり、いずれも好不況の分かれ目となる50.0を下回った。その後に発表されたユーロ圏7月製造業PMI・速報値は49.6(予想51.0)、同サービス業PMI・速報値は50.6(予想52.0)となった。これより前に発表された仏7月PMIも低下しており、ユーロ圏のリセッションは避けられないとの見方が強まった。
26日
欧州の天然ガス先物価格が4カ月ぶりの高値へと上昇。ロシアが前週末に欧州向けガスの供給をさらに削減する方針を明らかにしたことでユーロ圏のエネルギー不安が高まった。なお、欧州連合(EU)はこの日のエネルギー相会合で、ロシアの供給遮断に備えて冬場のガス使用量を15%削減する方針で合意した。
28日
独7月CPI・速報値は前年比+7.5%と、前月の+7.6%から小幅に伸びが鈍化したものの、市場予想(+7.4%)は上回った。EU基準の7月CPIは前年比+8.5%と、予想(+8.1%)に反して前月の+8.2%から加速した。エネルギーと食品の大幅な値上がりがCPIを押し上げた。
7月の各市場
7月のユーロ/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
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8月のユーロ圏注目イベント
ユーロ/円 8月の見通し
7月のユーロは、欧州中銀(ECB)が11年ぶりに利上げに舵を切ったにもかかわらず円やドルなどの主要通貨に対して下落した。欧州市場では供給不安を背景に天然ガス価格が一段と上昇しており、景気後退(リセッション)入りが避けられないとの見方が広がっている。欧州の天然ガス価格は指標であるオランダTTF先物が7月末に一時、1メガ・ワット時あたり200ユーロを突破。1年前の約4倍という驚異のペースで上昇しており、暖房需要が高まる秋以降に向けてさらに上昇するとの観測も根強い。「欧州エネルギー危機」を巡る懸念がECBの利上げによるユーロ高を抑え込んでいると言えるだろう。
ロシアとウクライナの戦争に収束の兆しが見えない中、ユーロは8月も上値の重い相場展開が続きそうだ。7月後半に見られたユーロの持ち直しは、短期筋の買い戻しが主導した一時的な動きと見られ、景気先行き不安を踏まえればユーロ相場が本格的な反発局面に入ったとは考えにくい。
ユーロ/ドルは再び1ユーロ=1ドルのパリティ(等価)を割り込む可能性があると見ており、そうなればユーロ/円にも下落圧力がかかるだろう。
(予想レンジ:130.800~138.500円)
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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