こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、オーストラリアのマクロ経済政策などをもとに、豪ドルの現状や相場見通しについてお伝えしていきます。豪ドルの通貨売買のご参考にして頂ければ幸いです。
第17回目は「豪ドルは押し目買いの好機到来!?」です。
結論として豪ドルは押し目買い方針で臨みたいと考えています。オーストラリアの経済がすこぶる良いこと、RBAはやや金融引締めに前のめりになってきて、結果として豪ドル金利が上昇していること、それにも関わらず豪ドルは売られ、サポート水準まで下落していることからそのように考えました。
順を追ってご説明いたします。
目次
1.豪ドル相場の定点観測
2.豪ドル上昇の機運は整いつつある
3.RBA金融政策から見える豪ドルの上昇余地
4.豪ドルは緩やかな反発を想定
1.豪ドル相場の定点観測
まずは現在の豪ドル相場について、かんたんに状況を確認していきましょう。
豪ドル関連情報の一覧表
AUD/USDはこの2週間で140pips下落しました。RBAが利上げに転じたことで買われる局面も見られたのですが、最後は米ドル買いの勢いに呑まれてしまった格好です。節目の0.70割れ、直近の安値更新が意識される展開となっています。
AUD/USDチャート、日足
AUD/JPYはこの2週間ほぼ横ばい推移でした。ようは米ドルの価格だけ上下しただけで、豪ドルと円の価格にはあまり変化がなかったということになります。
AUD/JPYチャート、日足
直近2週間でコモディティ価格が若干上昇している点は豪ドルにとってプラスと見てよいでしょう。ウクライナ戦争も長期化していますので、地政学的にも豪ドルの優位性が意識される可能性があります。
IMM通貨ポジションの豪ドルショートは若干の減少となりました。現在の相場のメインテーマではないということでポジションを落とす動きに繋がっているのかも知れません。
2.豪ドル上昇の機運は整いつつある
オーストラリアとアメリカを取り巻く状況について簡単に確認していきましょう。
オーストラリアとアメリカの物価と金利比較表
添付の表は特に金融政策に影響を与える「消費者物価」と、その変化を受けた「政策金利」や「債券利回り」を載せています。
1つ目のポイントは足元でオーストラリアの消費者物価が上昇していることです。オーストラリアの消費者物価は四半期に1度の発表と頻度は少ないのですが、2022年の第1四半期は+5.1%と高いインフレ圧力を示しました。
これを受けてRBAは利上げへと踏み切り、5月3日に0.25%の利上げを実施し、政策金利を0.35%まで引き上げています。
2つ目のポイントは2年国債~10年国債まで全ての年限でオーストラリア国債の利回りがアメリカ国債の利回りよりも高くなったことです。これはここ2週間での動きで、前回報告時は、2年国債など比較的に短い年限ではアメリカ国債の利回りの方が高かったです。
これはオーストラリアの利上げペースもアメリカに負けじと早くなる可能性を示唆しています。
引き続き中国のロックダウンなどでオーストラリアと関係の深い人民元が大きく売られていたり、また米株式市場が軟調に推移していることも豪ドルにとってネガティブな要因と考えますが、豪ドル単体としては強くなる機運が整い始めていると見ることも出来るのではないでしょうか。
3.RBA金融政策から見える豪ドルの上昇余地
さて前回5月3日公表のRBA金融政策を振り返っておきましょう。
2022年5月3日に公表されたRBA金融政策
● 銀行間の翌日物貸出レート0.35%(政策金利)
● 決済用の一時預かり0.25%
金融政策決定会合のポイント
● 金融正常化を開始する適切なタイミングだ
● 2023年前半の失業率は3.5%前後を想定しており、これは過去50年で最低水準である
● 足元はさらなる消費者物価の上昇が見込まれ、2022年通年の消費者物価は6%前後を想定するが、段階的な利上げと、サプライサイドの目詰まりが解消されることで、2024年頃には消費者物価は3%前後に戻ってくるだろう。
● RBAは量的緩和実行のために買い取った国債の売却(QT)を考えていない
お伝えしたい点は2点です。
1点目がアメリカの金融政策と比べるとそこまで引締めに躍起になっているわけではないですが、一方で経済の力強さを感じさせる報告です。経済が良いと言うことで、豪ドルが大きく売られる展開は想定しづらいと思います。
2点目ですが、インフレの見通しがやや低い(言葉を選ばずに言えば甘い)と感じます。サプライチェーンの目詰まりが解消されるなど不確実な事象を頼りにしていることから、例えば中国でコロナが蔓延し続けたり、ウクライナ戦争が中長期化したりする場合にはさらに引締め的にならざるを得ない気がします。
これらの情報と豪ドルの現在地を確認すると、豪ドルには上昇の余地が残されている気がします。
4.豪ドルは緩やかな反発を想定
さてここからは相場の見通しに入っていきます。また2週間後にレポートを寄稿させて頂く予定で、その時の相場としてはこれくらいにいるのではないか?という目線を以下に記しています。オペレーションは臨機応変に行うべきものですから、あくまでご参考までにお願いします。
現時点では豪ドルが緩やかに反発していくと想定しています。
ポイントは0.70レベルで支えられるかどうかでしょう。0.70割れのタイミングでは一旦は買いからエントリーしていきたいと思います。
0.70は1つ大きな目安になっていると思いますので、0.69、0.68と下がっていくまでは買いから攻めていきたいと思います。
上は0.72~0.73レベルを一旦の利食いレベルとして想定します。米ドルも底堅いでしょうからあまり大きな伸びを期待せずに割安であれば買っていくというスタンスで臨みます。
AUD/USDチャート、日足
AUD/JPYはドル円次第のところが多分にあるのですが、押し目買いの目線として90円前後を挙げています。豪ドルが一旦0.70を割り込み、ドル円が少し下押しするとこのレベルに達するはずですので、そこは一旦拾っても面白いと思います。
ただUSD/JPYで買って行っても良い気がしますし、米株価指数の崩れなど気になる材料もありますので、無理せずのスタンスの方が無難かもしれません。
AUD/JPY 4時間足
本日は以上となります。
引き続き、みなさんのお役に立つ記事を作成してまいりますので、応援して頂けますと幸いです。
戸田裕大
<参考文献>
豪ドルチャート、IMM通貨ポジションデータ:外為どっとコム
各種データ:Investing.com
RBA:Statement by Philip Lowe, Governor: Monetary Policy Decision
https://www.rba.gov.au/media-releases/2022/mr-22-12.html
<最新著書のご紹介>
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【インタビュー記事】
戸田裕大氏レポート
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。
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