更新日時:2022年02月07日 13時00分
執筆日時:2022年02月01日 16時00分
執筆者:株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
1.はじめに
2.前回のおさらい
3.今回の見どころ
4.今回の戦略
1.はじめに
2022年2月4日(金)、日本時間22時30分に米国で1月雇用統計が発表されます。米労働市場は昨年末にかけ幾分失速した可能性が示唆されます。コロナ再拡大からこの状況がさらに顕著となっている恐れがあり、NFP(非農業部門雇用者数)の動向が短期的には気になります。しかし、中長期での問題点は別なところにあるような気がしています。それは、今後、利上げが開始されるにあたり何れかの時点で企業の採用意欲が頭打ちとなるであろうといった点です。コロナ感染の再襲来により、就業者数の推移から雇用市場の健全性を推し量るのが難しくなるなかで、企業の採用意欲の動向が労働市場の行方を見通す上でより重視されることになるかもしれません。
2.前回のおさらい
1月7日、米労働省が発表した12月の非農業部門雇用者数(NFP)は市場予想40.0万人増の約半分となる19.9万人増。11月の24.9万人増(21.0万人増から修正)を下回り、2020年12月以降、最低水準を塗り替え雇用の伸び鈍化を示唆する結果となりました。ただ、失業率は3.9%へ改善したほか、時間給は前月比0.6%増と大きな伸びを示すなど、全体的には米金融当局のタカ派的傾向を正当化する内容でした。
結果を受けた為替市場の反応は想定外の展開に。結果公表直後はNFPの弱さに反応して、115.80円付近を振幅していたドル/円は115.60円台まで低下。その後、直ちに時給の伸びや失業率改善が見直され115.92円近辺まで切り返しましたが戻りは限定的で、買い一巡後は緩やかに115.50円台まで上値を切り下げる格好になりました。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)
産業別 | Dec-20 | Oct-21 | Nov-21 | Dec-21 |
全体 | -306 | 648 | 249 | 199 |
製造分野 | 82 | 100 | 72 | 54 |
鉱業・林業 | 0 | 4 | 2 | 6 |
建設業 | 47 | 44 | 35 | 22 |
製造 | 35 | 52 | 35 | 26 |
非製造業分野 | -356 | 614 | 198 | 157 |
倉庫 | 14.8 | 14.3 | 11.2 | 13.7 |
小売 | 30.10 | 50.6 | -13.3 | -2.1 |
運輸 | -43.2 | 56.8 | 42.2 | 18.7 |
公益(電気・ガス・水道) | -1 | 0.1 | -0.1 | -0.2 |
情報 | 9 | 12 | 1 | 0 |
金融・保険 | 18 | 28 | 17 | 8 |
専門・企業向け | 159 | 130 | 72 | 43 |
医療・教育 | -29 | 71 | 14 | 10 |
レジャー・娯楽 | -498 | 211 | 41 | 53 |
その他のサービス | -16 | 40 | 13 | 13 |
政府分野 | -32 | -66 | -21 | -12 |
出所:米国労働省
また、株式市場は米金融政策の正常化が想定より速いペースで進むとの見方から、ハイテク株中心に下落。もっとも、企業決算への期待感から押し目では景気敏感株か買い拾われ、ダウ工業株30種平均は一時プラスサイドへ戻す場面もありました。ダウ工業株30種平均の終値は前日比4.81ドル安い36231.66ドルでその週の取引を終えました。かたや、金利は上昇。長期金利は5日続伸となり1.76%へ上げました。もっとも、市場は雇用統計の結果よりも、新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染拡大への警戒心の方が高かったようです。
図表2.前回発表前後のドル円の動き
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
3.今回の見どころ
米労働市場は年末にかけ幾分失速した可能性がありますが、21年通年での増加幅は640万人と1939年の統計開始以降で最大となり、好調な回復基調を継続しています。これは企業の採用意欲が高い点からも裏付けられます。企業の求人件数は高止まりするなか、平均時給は予想を上回る伸びを示しています。つまり、企業は人員確保に向け報酬を増やすことに意欲的であるということです。コロナ感染症の再襲来により、今後数カ月は新規雇用者の増加ペースが鈍るとみられますが、今回のコロナ感染もピークアウトの兆しが見受けられるなか、3月以降は雇用の回復ペースは戻っていきそうです。雇用市場は全体的には底堅いままでしょう。
図表3.米NFP(非農業部門雇用者数)と求人件数
データ:米労働省、作成:外為どっとコム総研
では、底堅い米雇用市場にとって一番の不安点は何かと言えば、それは利上げにより企業の採用意欲が大きく後退することではないでしょうか。利上げが実施され、どこかの段階で企業の採用意欲が頭打ちとなるのは容易に想像がつきます。そのときは、米景気減速論も浮上しかねません。市場では今年4回以上の利上げやバランスシート縮小観測を織り込もうとドルが底堅く推移していますが、個人的には夏場にかけて米景気鈍化懸念からドルが下値を試す可能性があるのではとみています。そのときは、ドル/円も110.00円付近まで調整するかもしれません。
もっとも、今月の雇用統計を考える上でこれらの心配をするのは早計で、足元はコロナへの警戒心や米利上げ観測など外部要因に大きな変化はみられていません。昨年12月分の雇用情勢と同傾向となる、新規の雇用者数は低迷と賃金上昇の継続性が確認される格好になりそうです。
図表4.米コロナ新規感染者数(7日平均)
出所:米Our World Data
シナリオとしては、NFPは20-30万人程度、時間給が前月比で0.5-0.6%(A )、NFPが10-20万人程度、時間給が0.4-0.5%(B )、NFPが予想外のマイナス、時間給が0.2-0.3%程度(C )を想定したいと考えます。A の場合は、FRBの早期緩和縮小見通し進展に伴うドル高と株価調整による円買いが同居する格好になり、ドル円は116円台への戻りを試すも、その後、失速するイメージです。
B は米金利が高止まりはするもののドルの押し上げ力が限られるなかで、株価調整のインパクトが目立ち、ドル/円は114円半ばを目指す形になるのではないでしょうか。そして、最後にC ですが、これは米金利・株価調整が共存してドル全面安となり、ドル/円は114.00円割れに向かう展開を想定しています。果たしてどうでしょう。
☆想定するシナリオ
パターン | NFPと 時間給(前月比) | 想定される値動き |
A | 20-30万 0.5-0.6% |
116円台への戻りトライも失速 |
B | 10-20万 0.3-0.4% |
ドル円が114円半ばを目指す |
C | マイナス 0.0-0.2% |
114.00円割れ |
図表5.[雇用統計の実績と予想]
年月 | 非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||||
予想値 | 実績値 | 修正値 | 予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2022年01月 | 17.0 | 46.7 | 3.9 | 4.0 | ||
2021年12月 | 40.0 | 19.9 | 51.0 | 4.1 | 3.9 | – |
2021年11月 | 55.0 | 21.0 | 24.9 | 4.5 | 4.2 | – |
2021年10月 | 45.0 | 53.1 | 54.6 | 4.7 | 4.6 | – |
2021年09月 | 50.0 | 19.4 | 31.2 | 5.1 | 4.8 | – |
2021年08月 | 75 | 23.5 | 36.6 | 5.2 | 5.2 | – |
年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
予想値 | 実績値 | 実績値 | |
2022年01月 | 0.5 | 0.7 | 62.2 |
2021年12月 | 0.4 | 0.6 | 61.9 |
2021年11月 | 0.4 | 0.4 | 61.9 |
2021年10月 | 0.4 | 0.4 | 61.7 |
2021年09月 | 0.3 | 0.6 | 61.7 |
2021年08月 | 0.3 | 0.4 | 61.7 |
◇関連の経済データ実績
年月 | ADP雇用統計(万人) | ||
予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2022年01月 | 20.8 | -30.1 | |
2021年12月 | 40.0 | 80.7 | 77.6 |
2021年11月 | 52.5 | 53.4 | 50.5 |
2021年10月 | 40.0 | 57.1 | 57.0 |
2021年09月 | 43.0 | 56.8 | 52.3 |
2021年08月 | 63.8 | 37.4 | 34.0 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
4.今回の戦略
116円台では戻り売り目線か
直近1週間程度のドル/円は、113.70-80円付近へ上昇中の90日移動平均線にサポートされ、一目均衡表における強い売りシグナルとされる三役逆転を回避すると、115.683円まで切り返しましたが、直ちに114円後半へ押し戻されています。ここ2カ月程度の値動きを振り返ると、昨年12月3日安値112.561円を起点とした上昇チャネルがワークしているようで、上限のラインが推移する116.80-117.00円を一度はチャレンジする期待はあります。
ただ、その一方で不安な点もあります。昨年9月後半以降のローソク足の推移をみると、昨年9月22日から同11月24日の上昇幅が6.394円、同11月30日から1月4日の上昇幅が3.814円、直近の上昇幅が2.217円とひとつ前の上昇幅の6割程度にとどまり、上値を伸ばしきれていません。しかも前の2回の上昇時は上昇が一巡して各々、約3円近く下落しているのです。今回も、この傾向を踏襲するなら、1カ月程度のスパンで112.70円付近までの下値もあるかもしれません。こうした点を踏まえると、雇用指標が相当強い結果でない限りは115円後半からは、戻り売りを検討してもよさそうです。
図表6.ドル/円チャート-日足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
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