更新日時:2021年10月8日22時00分
執筆日時:2021年10月5日10時00分
執筆者:株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
1.はじめに
2. 前回のおさらい
3. 今回の見どころ
4.今回の戦略
はじめに
2021年10月8日(金)、日本時間21時30分に米国で9月雇用統計が発表されます。11月の米テーパリング開始が市場コンセンサスとなるなか、雇用統計への注目度はいくらか低下しています。しかし、結果によっては大方の予想を裏切りテーパリングを後ろ倒しにする危険もあり油断はできません。また、少し気が早いようにも感じますが、利上げ時期を見通す最初のヒントになり得るとの見方もあり、市場はそれなりに関心を持って見守っています。前月からのリバウンドで11月テーパリング開始へスムーズにことが運ぶか注目です。
前回のおさらい
9月3日、米労働省が発表した8月の非農業部門雇用者数(NFP)は23.5万人増と、市場予想73.3万人の凡そ3分の1に留まり、今年1月以来の低い数字となりました。どの分野もきつかったようですが、特に小売・外食など対面でのサービスが求められる職種の苦戦が目立ちました。バカンスシーズンなど特殊要因はあるのですが、新型コロナ変異種の感染拡大が大きく影響したようです。
他方、時間給は増加。前月比0.6%と4月以来の強い伸びでした。製造業の人手不足や低賃金層の給与引き上げが続いています。企業の採用目標未達、インフレ加速と好感しづらい内容に、ここ数カ月続いていた労働市場のミスマッチ解消が後退したイメージでした。
結果を受け、金融市場は混乱気味でした。為替市場はドル安で反応し109.90円付近で推移していたドル円は109円半ばへ下落。ユーロドルは1.1907ドル付近までレンジ上限を広げ7月30日以来の高水準をつけました。他方、株式市場は売りが先行しましたが、米当局が現行の政策を直ちに変更しないのではとの思いから後半下げ幅を縮小し、ダウ平均は前日比74.73p安の35,369.09ドルで取引を終えました。また、金利はインフレ加速から10年債利回りは1.32%台へ小幅に上昇しました。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)
産業別 | Aug-20 | Jun-21 | Jul-21 | Aug-21 |
全体 | 1,583 | 962 | 1,053 | 235 |
製造分野 | 53 | 42 | 64 | 40 |
鉱業・林業 | -4 | 12 | 6 | 6 |
建設業 | 26 | -2 | 6 | -3 |
製造 | 31 | 32 | 52 | 37 |
非製造業分野 | 1,013 | 766 | 734 | 203 |
倉庫 | 7.1 | 27.4 | 13.6 | 1.4 |
小売 | 252.90 | 88.9 | -8 | -28.5 |
運輸 | 87.2 | 23.6 | 55 | 53.2 |
公益(電気・ガス) | 0.4 | -0.7 | 0 | -1.3 |
情報 | 25 | 12 | 21 | 17 |
金融・保険 | 28 | 0 | 24 | 16 |
専門・企業向け | 200 | 70 | 79 | 74 |
医療・教育 | 199 | 72 | 88 | 35 |
レジャー・娯楽 | 139 | 397 | 415 | 0 |
その他のサービス | 74 | 76 | 46 | 37 |
政府分野 | 517 | 154 | 255 | -8 |
出所:米国労働省
図表2.前回発表前後のドル円の動き
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
今回の見どころ
米金融政策を巡っては雇用統計を受けて紆余曲折はありましたが、9月FOMCの結果を通過して11月からテーパリングが開始されるとの見方で、ひとまずコンセンサスが形成されています。物価と雇用で「さらなる著しい進展」が見られることをテーパリング開始の条件としてきた米金融当局は、『物価』については既に条件は満たされたとの認識を示しています。残りは『雇用』となりますが、パウエルFRB議長は「目標の5・6割を到達」との見解を明らかにしており、もう間もなくこちらについても条件に適合すると期待を寄せています。今回の雇用統計で『余程の落ち込み』でもなければ、テーパリング時期を巡る軌道修正もないでしょう。
しかしながら、コロナ感染再拡大の影響で小中校生の母親が就業をためらうなど、働かない理由が『就職先がみつからない』ではなく『コロナ感染症への恐怖から働きに出たくない』と、羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く状況の失業者が一定割合いることには注意です。ひょっとしたら雇用回復は予想以上に鈍いままかもしれません。そのためFOMC後に進展したシナリオがNFPの結果を受けて覆される危険はわずかに残っていると言えそうです。今月は、結果が金利正常化スケジュールを遅らせるのかどうかが着目点と言えます。
図表3.米国の新規感染者数-7日間平均
データ:米労働省;Our World in Data、作成:外為どっとコム総研
では、『余程の落ち込み』とはいかほどなのかが気になるところですが、それには前回のパンデミック(昨年秋から今年2月)を振り返ってみることが重要と考えます。当時は今年1月に新規感染者数がピークを付けたあと徐々に感染者数が低減しています。そして、同時期のNFPについては1月に4.9万人まで低下しましたが、2月のNFPには37.9万人増と1月から33万人増しています。今回も同じような軌道を辿るなら、失業給付上乗せ措置の失効分も加わり前月から33万人以上リバウンドすると考えるのが妥当でしょう。ただし、前述した不安要素のため多少割り引いて考える必要はあり、個人的には30-50万人程度がコアになるのではと想定しています。
従って、今月は①50万人上、②30-50万人、③30万人以下の3つのケースに分けたいと思います。①の場合、雇用情勢が順調に回復しつつあるほか、米金融当局の利上げ前倒し観測を高め、ドルが上昇することになりそうです。このときは、米長期金利が1.7%を目指す形となり、ドル円も113円付近まで持ち上げられそうです。②の場合、2022年半ばのテーパリング終了から、同年末の利上げでドルは底堅さを保ちつつも上値が抑制されやすくなるとみています。このときは、米金利は1.5%付近で頭打ちとなり、ドル円は112円前半で頭を抑えられそうです。そして③の場合は、テーパリング開始時期が後ろ倒しされるとの見方から、金利が1.3%台へ低下しドル円も再度109円台へ下げる流れをざっくりと想定しています。
☆想定するシナリオ
ケース① | 50万人以上 | 米金融当局の利上げ前倒し観測を高めドル高 |
ケース② | 30-50万人 | ドルは底堅さを保ちつつも上値抑制 |
ケース③ | 30万人以下 | テーパリング開始時期が後ろ倒しでドル安 |
図表4.5年物BEIとドル円の推移
出所:Bloomberg、外為どっとコム
もっとも、①と③についてはその後も同トレンドを継続するかは不明です。①については、金融政策のすう勢を反映しやすいとされる米5年物ブレークイーブンインフレ率(BEI)が、直近、2.5%付近で伸び悩んでいることです。インフレ上昇は想定よりも長期間続く可能性がある一方、市場は加速ペースが一気に速まるとも捉えてない様子です。そのため、ドル円が上方向を目指したとしても、ドル円の上値は広がりづらいかもしれません。逆に③については、商品価格の上昇傾向がはっきりしているためインフレ懸念は継続となり、物価上昇圧力に伴うドルの底堅さは維持され結果的にドル円の下値も広がりづらいと考えられます。
図表5[雇用統計の実績と予想]
年月 |
非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||||
予想値 | 実績値 | 修正値 | 予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2021年 9月 | 50.0 | 19.4 |
5.1 |
4.8 | ||
2021年 8月 | 75 | 23.5 | 36.6 | 5.2 | 5.2 | 5.2 |
2021年 7月 | 87 | 94.3 | 105.3 | 5.7 | 5.4 | – |
2021年 6月 | 70 | 85 | 93.8 | 5.7 | 5.9 | – |
2021年 5月 | 65 | 55.9 | 58.3 | 5.9 | 5.8 | – |
2021年 4月 | 97.8 | 26.6 | 27.8 | 5.8 | 6.1 | – |
年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
予想値 | 実績値 | 実績値 | |
2021年 9月 | 0.4 | 0.6 | 61.6 |
2021年 8月 | 0.3 | 0.4 | 61.7 |
2021年 7月 | 0.3 | 0.4 | 61.7 |
2021年 6月 | 0.4 | 0.3 | 61.6 |
2021年 5月 | 0.2 | 0.5 | 61.6 |
2021年 4月 | 0 | 0.7 | 61.7 |
◇関連の経済データ実績
年月 | ADP雇用統計(万人) | ||
予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2021年 9月 | 45.0 | 56.8 | |
2021年 8月 | 61.3 | 37.4 | 34.0 |
2021年 7月 | 69.5 | 33 | 32.6 |
2021年 6月 | 60 | 69.2 | 68 |
2021年 5月 | 65 | 97.8 | 88.6 |
2021年 4月 | 80 | 74.2 | 65.4 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
今回の戦略
臨機応変な対応心がけも、最終的には押し目買い
この内、筆者はケース②が妥当と考えていますので、押し目買いスタンスで臨む形を想定しています。結果発表直前の水準にもよりますが、結果を受けて日足一目均衡表・基準線(110.60円)付近ないし同雲上限(110.18円)付近で支えられる形なら、そこから買い出動を検討しています。また、ケース①となったときは、流れに乗って買い追随ですが、112.50円を越えてしまったときはいったん様子見。何なら113円手前は軽く売りでさばきたいと考えています。ケース③のときは、売りが先行する展開になりそうですが、108.40-50円を走行する200日移動平均線を見越せば、109.50円付近からは買い下がりと考えています。
図表6.ドル円日足チャート
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
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