株価の快進撃 予期された調整場面
例年調整色を強める3月を前に先物中心の売りが集中し、世界的株価調整が起きている。日本株価はコロナ後の底値から年末までに68%の急伸を遂げ、今年に入ってからも11%上昇と快進撃を続けてきたが、2月16日高値から1週間で1600円6%の急落となった。米国株式もNYダウ30はほぼ最高値圏にあるものの、ナスダックは最高値から8%、S&P500は最高値から4%の下落となっている。ここしばらく個人投資家によるゲームストップ株などへの投機的集中投資、テスラ、EV関連など特定株式の暴騰、ビットコインの急伸など、投機的要素が高まり、「株価バブル」説が広く主張されていた。予期されていた調整場面到来であるが、懸念は不要であろう。待ち構えている買い方が絶好のエントリー場面と入ってくるはずである。一気の買戻しが見られるかもしれない。
グローバル景気拡大シナリオ
ワクチン接種によるコロナ制圧が視野に入り、世界景気ブームの到来がほぼ確かとなっている。コロナ制圧の暁には堆積してきた欲望と貯蓄(いわゆるペントアップディマンド)の一気発現が見込まれる。鉄鉱石、銅、石油、海運運賃などの商品市況急騰、半導体、コンテナなどの品不足にその兆しが表れている。中期的にイノベーションが加速することも見えてきた。パンデミックはイノベーションの3条件、技術、市場(ニーズ)、資本(リスクキャピタル)を見事にそろえた。すでにすべての人間活動をネットデジタル化する技術は存在し、潤沢な資本もあったが、ニーズが欠けていた。しかしコロナは在宅勤務、在宅授業、在宅診察など、大半のビジネスと生活をネット化する必要性をもたらし、一気に市場ニーズが形成された。それによりDX化のトレンドが可視化され、デジタルネット革命での投資競争が展開されている。脱炭素、自動車のEV化の流れがそれをさらに加速させている。グローバル景気拡大シナリオにさしたる死角は見当たらない。
盤石な米国の経済対策
株高が途切れるとしたら、景気失速か、財政金融緩和策の転換だが、政策面での不都合も考えにくい。バイデン政権は1.9兆ドルのコロナ対策、2兆ドルの環境・インフラ投資と、矢継ぎ早に財政政策を打ち出すだろう。イエレン米国財務長官は「財政政策は、大規模な経済対策で債務は増大するものの、金利が歴史的低水準にある現在、大きな行動に出ることが最も賢明であり、長期的には経済対策の恩恵はコストを大きく上回る」と主張し、エコノミストや市場の支持を得ている。パウエル氏率いるFRBはQE(国債購入)、で対応し財政金融一体緩和(事実上のMMT)を推進する。
悪い金利上昇にはならないだろう
この安心しきった市場に金利上昇が「ショック」を与えた。昨年8月0.5%で底入れした長期金利は2月25日には1.55%と急騰し市場心理を一変させている。市場フレンドリーな経済政策が失敗するとしたら唯一あり得るものが、インフレと金利の急上昇である。今起きている金利上昇が市場を暗転させる悪い金利上昇か、一時的なものかが問われるが、この金利上昇は長く続く悪い金利上昇にはならないだろう。
①長短金利差イールドカーブのスティープ化が進行しているがそれは金融機関収益改善、リスクテイクの誘因をもたらす、
②FRBは短期のみならず長期金利もQEにより采配でき、事実上のイールドカーブコントロールをしている、悪い金利上昇はQEにより食い止められる、
③雇用の全面回復は時間がかかる、パウエルFRB議長が述べているように労働参加率は高止まりしており、一気に供給力不足インフレになる状況ではない、
④景気回復の初期における長期金利のオーバーシュートは通過儀礼、それまでの低金利継続の反動から大きく一時的に上振れするが、それは長くは続かない、などが指摘できる。
ドル安トレンドは終了した可能性
金利上昇を口実とした株価調整は一過性、ドル高も一気に進行することはないだろう。ただワクチン接種に先行していることも含め米国経済のリードが明確であり、ドル安トレンドは終わったと言えるのではないか。非資源新興国は苦しくなるかもしれない。また株式市場では金融相場から業績相場への移行期に差し掛かっている。物色対象のグロース株から景気敏感のバリュー株にシフトは定着するだろう。
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武者陵司氏
1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券(株)に入社。
1988年~1993年ニューヨーク駐在、(株)大和総研アメリカでチーフアナリスト、米国のマクロ・ミクロ市場を調査。1997年ドイツ証券(株)調査部長兼チーフストラテジスト、2005年ドイツ証券(株)副会長を経て、2009年(株)武者リサーチを設立。
著書に『超金融緩和の時代』等がある。