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最終決着するまでドル/円の上値は取りに行きにくい 経済アナリスト 田嶋智太郎 米大統領選2020

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米大統領選が最終決着するまでドル/円の上値は取りに行きにくい 

 既知のとおり、今回の米大統領選においては民主党のバイデン前副大統領が当選を確実なものとした。だが、トランプ米大統領は政権移行の初期段階の手続きを進めることに関してはようやく容認したものの、なおも大統領選での敗北は認めないという異例の事態になっている。

 いずれにしても、最終的には来年の1月20日にバイデン氏が新たな大統領に就任することとなるのだろうが、それまでの間、トランプ氏が敗北を認めない姿勢を続けた場合、最も警戒しなければならないのは米国の安全保障が脅かされるような事態である。政治空白がしばらく続けば、そのスキを突こうと中国やロシアなどが挑発行動を仕掛けてくる可能性もないではない。万一、そのような事態になれば、一時的にも市場のボラティリティーは大きく高まることにもなろう。

  なお、米連邦議会の上下両院議員選については、ひとまず民主党が下院を制する結果となった。一方で、100議席を争う上院選については共和党が非改選を含む50議席、民主党が48議席を固めており、残る2議席については年明けに行われるジョージア州の決戦投票で決着することとなっている。ここで民主党が2議席を確保した場合には、上院議長を務める副大統領の一票で決まる運びとなり、民主党が上院でも主導権を握る可能性は残っている。

 今のところ、市場は上院が共和党、下院が民主党との前提で基本的にはリスク選好姿勢を強めている。そこにあるのは、与野党が同調しやすい追加経済対策が大規模に実施される一方で、民主党が掲げる増税方針については共和党の反対によって先送りされる可能性が高いとの読みである。

 むろん、仮に民主党が上院をも制することとなった場合には前提が少々異なってくるわけだが、それでも、市場はおそらく「いいところ取り」の姿勢を続けるだろうし、場合によってはバイデン氏自らが増税の先送り方針を掲げる可能性も大いにある。バイデン氏が最優先課題に位置づけているのは新型コロナウイルス対策なのであり、その意味では増税の先送りも「対策」の一環と考えるのが自然であろう。

イエレン前FRB議長が急浮上 次期財務長官

 なお、目下の市場の関心は「次期財務長官は誰か?」に移り始めている。これまで最も有力とされてきたのは、かつてオバマ政権で財務次官(国際問題担当)を務めたブレイナード米連邦準備制度理事会(FRB)理事であったが、ここにきて一気にイエレン前FRB議長の名前が急浮上してきた。ブレイナード氏には、2022年に任期が終了するパウエルFRB議長の後任を務めてもらおうという算段のようである。

 イエレン氏もハト派としてよく知られる人物であるが、とはいえ「ブレイナード氏ほどではない」と見る向きもあるようで、直ちにドル安・円高が進む可能性はやや低下したといったところか。

 もちろん、イエレン氏の慎重かつ現実的な政策運営手腕にはかねてより定評があり、その点を考慮すれば、少し長い目で米国の景気回復を確実なものとし、結果的に米国の威信とドルの強みが見事な復活を遂げる可能性も大いにあろう。

好調な米経済指標 厳しいユーロ圏経済

 執筆時のドル/円は104円台半ばの水準まで少々大きく値を戻す動きを見せている。11月23日に発表された11月の米製造業・サービス部門の購買担当者景気指数(PMI)速報値が予想を上回り、同月の総合PMI速報値が5年7か月ぶりの高水準となったことなどがドル買い材料視されたとの見方もある。ただ、感謝祭を控えたタイミングでポジションの巻き戻しがまとまって出た可能性というのも否定はできず、その点は少々警戒を要する。

 むろん、11月のユーロ圏の非製造業PMIが大きく低下したことからも窺い知れるように、各地で都市封鎖(ロックダウン)の実施が相次ぐユーロ圏の景況感が悪化している実情を鑑みれば、相対的にドルの価値が見直されやすい状況となっていることも確かではある。

 また、欧州連合(EU)の首脳が7月に合意した欧州復興基金案の成立が遅れていることもユーロにとっては一つの気掛かり材料と言える。文字通り、コロナ禍からの「復興」を実現するための重要な基金が、予定通り2021年の年初から稼働できなければ欧州全体の景気回復は先延ばしになりかねない。

チャート分析 ユーロ/ドルの上値は重く

 執筆時のユーロ/ドルは1.1850ドル処で高止まりはしているものの、依然として1.1900ドル処の上値の壁が厚く感じられることも事実である。

 週足チャート上では、9月下旬からパラボリックが弱気基調に転換したことを示すシグナルを灯しており、同時にMACDもシグナルラインを下抜けて低下傾向を辿っている。既知のとおり、12月10日に予定されるECBの定例理事会では追加緩和実施の決定が下されるものと確実視されている。果たして、政策実施の決定によって「弱気材料はすべて出尽くし」といった運びになるものかどうか。当面のユーロ/ドルに関しては、やはり上値追いに慎重でありたいと個人的には考える。

ユーロドル 日足

チャート分析 ドル/円はレンジへ回帰か

 ドル/円に話を戻すと、やはり米大統領選が最終決着を見ないことには少なくとも上値を取りに行きにくい。米大統領が交代するのは4年もしくは8年に1度しかないことなのであるから、足下で少々先行きが見通しにくいのも致し方ない。

 とはいえ、時が経過するにつれ追加経済対策や新型コロナウイルス向けワクチンの効果への期待が現実となり、結果的に米債利回りが大きく上昇する可能性も高まってくるに違いない。その意味で、やはりドル/円の下値は自ずと限られ、遅くとも1月下旬以降には再び105-107円のレンジに戻るものと見ておきたい

 

ドル円 日足

 ちなみに、海外勢は11月1日~14日に日本の中長期債を1兆1600億円余り買い越しているが、同期間に国内投資家は海外の中長期債を2兆4000億円近く買い越している。海外勢による「日本買い」は目先筋によるものと推察されるが、国内勢による近年の「外債買い」は半ば恒常的なものとなりつつある。つまり、中長期的な日本の資本収支はマイナスの状態が続き、そのぶん基本的には円安になびきやすい状況が醸成されていると考える。

yoshizaki.jpg田嶋智太郎氏
経済アナリスト 慶應義塾大学を卒業後、現三菱UFJモルガン・スタンレー証券を経て、経済アナリストに転身。現場体験と綿密な取材活動をもとに、金融・経済全般から戦略的な企業経営、個人の資産掲載まで幅広い範囲を分析・研究。 WEBサイトで経済・経営のコラム執筆を担当し、株式・外為・商品などの投資ストラテジストとしても高い評価を得ている。 また、「上昇する米国経済に乗って儲ける法」など書籍も手掛けるほか、日経CNBCレギュラーコメンテーターも務める。