こんにちは、戸田です。
本シリーズでは、発表された報道や現地の声、公表された経済データなどをもとに、香港の最新の情勢について迫っていきます。中国や香港とのビジネスや投資、米ドル・人民元・香港ドルといった通貨の、売買のご参考にして頂ければ幸いです。 さて第15回は「香港中銀40回目の為替介入と、それを監視する米国」でお届けいたします。
それでは、本題に入っていきます。
目次
1.香港中銀が2020年40回目の為替介入を実施
2.米国は香港を為替操作国に指定する?
1.香港中銀が2020年40回目の為替介入を実施
さて、香港ドルの為替相場ですが、米ドル安の流れが続く中、相対的な香港ドル高が継続しています。2020年の4月から、足元まで、継続して米ドル売り、香港ドル買いが優勢となっており、香港中銀が定めるレンジ(7.75 - 7.85)の下限である、1米ドル=7.75香港ドルで相場は一見すると膠着しているように見えます。
しかし、本シリーズでお伝えしています通り、香港中銀は1米ドル=7.75香港ドルを死守すべく、為替介入を繰り返し行っています。そして9月に入り、なんと、今年40回目の為替介入を実施しました。これは2018年、2019年と比較しても、金額・回数ともに明らかに増加しています。
香港中銀は、香港ドル高を食い止めるために、「香港ドル売り、米ドル買い」の為替介入オペレーションを繰り返すわけですが、これが何を生むのか?結果として、香港には、4,500億米ドルという、かなり巨額の外貨準備預金が蓄積されるに至りました。
この4,500億米ドルと言う外貨準備高は、世界でもトップクラスであり、且つ香港の経済規模(約3,660億米ドルのGDP)と比較すると、明らかに過大と言えます。言葉を選ばずに言えば、米国からみて、どうにも香港中銀の為替介入が目に付くようになってきたと思います。
これに対して米国は今までと同様に、香港を特別視して、見て見ぬふりをし続けるのでしょうか?どうもそうならない可能性も考慮にいれておいた方がよいと考えています。
2.米国は香港を為替操作国に指定する?
米国は過去に、日本や中国に対して、度重なる為替介入、つまり為替操作を指摘してきました。これは日本や中国が事実として為替介入を繰り返し行ってきた歴史があり、意図的に自国通貨安、ドル高相場を醸成してきたからに他なりません。
日本や中国は製造業中心、つまり輸出企業が多く、海外売上を底上げするために、為替を自国通貨安にしておきたい思惑があります。そこで例えば日本では、為替が円高に進むと、その度に円売り米ドル買いの為替介入を繰り返し行ってきた経緯があります。
そうして積み上がった外貨準備高は日本が約1.4兆ドル、中国が3.2兆ドルとそれぞれ世界第二位と一位の金額です。香港は額で言えば、4,500億ドルですから、さすがに日本や中国には届きませんが、その経済活動の規模から言えば、より一層為替介入の頻度や規模が際立つと言うわけです。
もともと、米国は香港と、香港政策法(United States–Hong Kong Policy Act)にもとづく、中国本土とは切り分けた、特別な関係を維持してきました。ところが最近は、香港・国家維持安全法の制定を踏まえて、トランプ大統領は、香港は中国と同様にみなされるべきであると、繰り返し発言しています。
香港を中国本土と切り分けないのであれば、米国はいつまでもこの著しい為替操作を容認し続けるのでしょうか?
米国が他国を為替操作国に指定する基準は、米国との二国間貿易量が400億ドルを超えることに加えて、「対米貿易黒字額が200億ドル以上」「経常黒字額が対象国GDPの2%以上」「一方向への為替介入額がGDPの2%以上」の三つを満たすことです。
米国と香港との二国間貿易量は400億ドルをわずかに超えておりますが、他の基準は現在のところ満たしていません。しかし、中国も上記の基準をすべて満たしていない中で、2019年に為替操作国に指定された経緯もありますし、何よりも香港の外貨準備は、その経済規模と比較して巨額に膨れ上がっていますので、そこを指摘されると香港としても反論に苦しいところはあるでしょう。
ですから、米国が香港に対して、為替レートの切り下げ、つまり香港ドルの切り上げを要求する可能性は今後十分にありうるのではないでしょうか。油断をしていると、香港中銀が米国との為替合意にいたり、1米ドル=7.75香港ドルから例えば7.35香港ドルまで5%程度、為替レートを調整する、などといった可能性には十分に留意しておきたいところです。
さて、本日はここまでとなります。
なお蛇足にはなりますが、弊社香港社員より、香港は、新型肺炎の影響が大分と和らいできており、通常運行にもどりつつあるとの報が入っております。
引き続き注目度・影響度の高い、中国本土・香港の情報について皆様にご報告させて頂きたく思っておりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
それでは、またの機会にお会いしましょう。
戸田裕大
【インタビュー記事】
【過去記事】
<参考文献・ご留意事項>
Hong Kong Monetary Authority:外貨準備高および、為替介入金額
https://www.hkma.gov.hk/eng
South China Morning Post
https://www.scmp.com/business
Investing.com:為替レート及び 各種株価データ
https://www.investing.com
米財務省:Macroeconomic and Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States
https://home.treasury.gov/policy-issues/international/macroeconomic-and-foreign-exchange-policies-of-major-trading-partners-of-the-united-states
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。