米緩和マネーは新興国の景気回復に寄与
FRBは、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、金融危機を防ぎ経済基盤を守るため、3月に大規模な金融緩和を緊急で実施した。事実上のゼロ金利までの利下げや、大規模な資産購入を行ったほか、ファシリティを通じた金融機関、事業会社、州・地方自治体への資金供給体制を整備した。FRBのバランスシートは、8月末で約7兆ドルと、コロナ危機前の約3.7兆ドルから急拡大した。さらに、8月にFRBは、長期目標と金融政策戦略の見直しを行い、“平均+2%”を目指す「柔軟な平均インフレターゲット」を導入した。2%をある程度上振れることが容認されるため、事実上のゼロ金政策が長期化するとの見方を強めた。
実体経済では、感染拡大防止のために、3月中旬から4月下旬にかけて大部分の州でロックダウン(都市封鎖)が実施されたことで、4-6月期の実質GDP成長率は戦後最悪の落ち込みとなった。その後、4月下旬以降のロックダウンの解除によって、5月に景気は回復に転じている。ただし、米国の新型コロナウイルス感染は拡大を続けており、9月10日時点の累計感染者数は約655万人、死者数は19.5万人と世界最多となっている。新型コロナウイルス向けの安全な治療薬、ワクチンの開発・生産には時間がかかると予想されており、今後も感染拡大を抑制するために、ソーシャルディスタンスに配慮せざるを得ない。マスク着用などコロナ対策が進んできたため、全米でロックダウンを再び行う可能性は低いが、州・自治体など地域限定で実施される可能性がある。行動規制の強化と緩和を繰り返す対応が行われることで、経済の回復ペースは抑制されるとみられ、FRBは経済回復を支援するため緩和的な金融政策を長期間継続すると予想される。
FRBの大規模な金融緩和による潤沢な流動性は、企業、家計、政府の資金調達環境を改善し、経済回復を支えているほか、様々な金融資産に向かい資産価格を押し上げた。米S&P500は8月に最高値を更新した。新型コロナへの対応でデジタル化の流れが加速するなか、ハイテク関連産業への期待が強く、資金が向かい易かったほか、「ロビンフッター」と呼ばれる株式取引アプリを利用した個人投資家の株式投資が急激に増えた。
国債利回りが低いこともあり、今後も緩和マネーは株式などリスク資産に向かい易い状況が続くとみられる。また、緩やかながらも世界経済の回復が継続すれば、資金は海外にも向かおう。ドル・キャリートレードでは、金利差が出難い先進国よりも、新興国に多く向かうとみられる。なかでも、新型コロナ対策によって比較的力強い経済成長が期待でき、経常赤字や財政赤字の拡大に対して適切に対応する姿勢を見せている国に向かい易いだろう。
緩和マネーは、米国にとどまらず、コロナ危機によって深刻な影響を受けた多くの国の景気回復に寄与すると見込まれる。
調査研究本部 経済調査部・主任エコノミスト
桂畑 誠治氏
担当は、米国経済・金融マーケット・海外経済総括。1992年、日本総合研究所入社。95年、日本経済研究センターに出向。99年、丸三証券入社。日本、米国、欧州、新興国の経済・金融市場などの分析を担当。2001年から現職。この間、欧州、新興国経済などの担当を兼務。