以下の取材記事はトレーダー個人の経験やお考えに基づくものです。その内容について当社が保証するものではありません。実際のお取引については充分内容をご理解の上ご自身の判断にてお取り組みください。
日本のメガバンクで為替のプロディーラーとして活躍され、その後は独立し上海でコンサルティング会社を運営されている戸田裕大さんにインタビューを行いました。マネ育チャンネルには、毎週香港レポートを掲載いただいています。長時間にわたるインタビューとなり、前編では学生時代に取り組んだテニスの話を中心に掲載しました。
中編ではボードディーラー時代の成功談と失敗談、MBA取得の経緯について。 最後の後編となる今回は、FX初心者の方へのメッセージ、米中貿易戦争、偽トレーダーについてお話頂きました。
前編:https://www.gaitame.com/media/entry/2020/08/19/165125
中編:https://www.gaitame.com/media/entry/2020/08/27/140000
▼目次
1.投資初心者に向けて 時間帯ごとの癖を見つける
2.リスクには、ルールで立ち向かう
3.”不当に低い” 人民元の水準
4.米中貿易戦争の影
5.世の中、甘い話はない 偽トレーダーについて
投資初心者に向けて 時間帯ごとの癖を見つける
編集部:- 投資初心者向けに伝えたいことは何でしょうか?
戸田:- トレードで大事なのは、時間軸だと思います。 デイトレードのように、一日に何回か売買する方、週に数回の方、長期的に投資する方と様々です。Twitterなどで見ますと、個人投資家の方は一般的にデイトレードが多いと思っています。まずデイトレーダーに対してアドバイスです。 まず、前日の高値安値、当日の(経済)イベント、各国通貨の仲値情報、それからFX顧客の注文情報ですね。50(ゴマル)にオーダーが多いぞ、などを見ることですね。
マネ育チャンネルで毎日掲載しているFXレポートで分かる情報が多いので、こちらを利用してほしいと感じました。
あとは、通貨ごとに、買われやすい時間帯、売られやすい時間帯はあるので、それをチャートなどで検証していく。1時から3時は、ドル/円が上がったのか、下がったのかなど、丁寧に調べていきます。
編集部:- はい。
戸田:- すると、この時間帯は上がる、などなんとなく値動きが見えてくると思います。昔は、ゴトービ(5日、10日など5の倍数の日)は輸入が多いのではないかと言われたり、月末は輸出が多いのではないか、などありました。そのような話は朝一番で認識しておき、売りの力が強いのかなどを見てデイトレードの参考にするという準備は基本だと思います。 このあたりを日々行わないと、トレードでは勝てないと思います。
編集部:- なるほど。 トレーダーとして銀行で勤務されていた最近まで、実需取引を見ていらっしゃったと思うのですが、ゴトービなどの相場分析は、この令和の時代にトレードに有効なんでしょうか。
戸田:- 有効だとはおもいます。世の中の構造はたえず変化しているのですが、過去半年、1年を振り返ってどうなのかの検証は大事です。月末のドル/円の仲値はどうなっているか、12か月追って、法則があるのであればそれに則って取引をする。これが、私が新人ディーラーだった時に行っていた手法です。
編集部:- プロといえども、結構地道な努力が必要なんですね。
戸田:- 銀行のビッグデータ分析システムを使って、1秒ごとのレートをとにかく縦に並べて1日、それを横に5営業日、20営業日と並べて分析をかけたことがあります。すると、この時間は値が飛びやすい特有の動きがあるな、など、時間帯ごとの傾向が見えてきました。
編集部:- やっぱり時間によって、傾向って出るんですね。
戸田:- ええ。デイトレードするのに、相場観を持つな、という話もあるんですけど。仲値のところやNYクローズのところは特に活用していましたね。
編集部:- FX初心者が、過去の値動きの傾向を頭に入れておくのは有効なんですね。
戸田:- はい、FX初心者が行うトレーニングとしてはとても有効だと思いますよ。値動きのクセを見つけられたら、その裏には背景があるはずですからそこを探します。例えば3時に為替変動があることを見つけたとき、輸出企業がその時間帯に円転するから、レートが動くんだ、などが分かれば、より自信を持ったディールになると思います。・・・当然、予想通りにならないこともあります。また、その時だけ、たまたま実需以上の大きな注文が来れば、変動する法則は飲みこまれますし。とはいえ10回のうち7回勝てれば、全然いいと思いますね。
編集部:- 人民元も値動きにクセってあるんですか?
戸田:- はい。2016年のとき、15~16時に元高に振れやすい傾向がありました。これはあくまで推測なんですが、その時は人民元が世界通貨基金(IMF)から国際通貨として認められ、特別引出権(SDR)に組み込まれるという話があって、その流れに追随した欧州の中銀が人民元の準備預金として中国国債を買い増していた時期なんです。その中銀の注文が、アジアから欧州時間に切り替わるタイミングで来ているという感覚がありました。
編集部:- ほうほう。
戸田:- ですので、まず値動きから異変を感じ取り、世の中の事象へ結びづける裏付けをする、ということなんです。一度値動きのクセが見つけられると、再現性があって、最も勝ちやすいのではないかと思います。
リスクには、ルールで立ち向かう
編集部:- それでは話題を変えまして、リスク管理について、元プロに伺います。
戸田:- 投資で本当に気を付けなければいけないのはリスク管理ですね。私は、プロでありながら失敗した経験を持っています。 これは極端なお話ですが、マーケットで見通しを外しても、大丈夫なんです。またトレードすればいいだけ。 ただ、熱くなって、訳が分からなくなって、「倍返し」と思ってレバレッジをかけて取引すると、場合によっては人生に大きな影響が出てしまいます。それだけはやめた方が良いと強く言いたいです。
編集部:- 防ぐためにはどうすればいいでしょうか。
戸田:- 必ず、自分の中でルールを作ってください。私は、エクセルやワードで、ルールを書いておき、トレード前やポジションをクローズする前にも必ず見るようにしています。
編集部:- 必ず、ですか。トレードルールは、だいたい覚えていそうなものですが・・・。
戸田:- 人間って、意外と忘れっぽいと思うんです。1年前の痛みは、いずれ忘れてしまう。でも、痛い経験は忘れてはダメなので、ルールに組み込んで、それを必ず守るように徹底してほしいと思います。
編集部:- 銀行の現場で10年以上の経験がある元プロでも、毎回ルールを振り返るんだなあ・・・。
戸田:- そうですよ。 あと、トレードで負けたときは成長のチャンスなんです。なぜ負けたのか、自分のルーティンから外れていたのか、見直す良い機会です。 トレードに勝った時は、じつは得るものはあまりなくて、PL(損益計算書)のプラスが、ちょっと積みあがる程度。相場で熱くなった時、自分が誤作動を起こさないため、ルールの徹底、あとは仕組化は大事ですね。
編集部:- ちなみに取引ルールにはどのようなことが書かれているんでしょうか。
戸田:- FX以外に、株式投資も行っていますので、まず2つの考え方の違いについて書いています。株は世の中の成長によって拡大していく傾向がありますので上昇したらそのまま伸びる可能性があり、保持したままでよい。FXはそうではなく、通貨価値はバランスしてきますので、FXのトレードでは上昇が続いたら、どこかで売らなければいけない。そのような前提で、何があったら売り買いしてよいかを書いています。
編集部:- 金融商品ごとの特性の違いについて書いているんですね。
戸田:- はい。 あとは、これから持つポジションが、短期なのか中期なのかを決めます。具体例を挙げると、月末の仲値をめがけて売るという短期取引をした場合は、月末仲値を迎えたら決済する。 中期であれば、政治イベントなどで世の中の流れが変わったと感じたらポジションを閉じるなど。戦略やポジションごとにトリガー(きっかけ)が違うので、取引期間ごとのトリガーが書かれていたりします。
編集部:- それらを、毎回しっかり読み上げていらっしゃる。
戸田:- ええ。ルール通りやってうまくいかなかったときは、ルールの見直しに入ります。 ですので、自分のルールなしにトレードを繰り返すと・・・怖いですよね。 そんなにFXは、簡単じゃないです。私は為替に関わって10年ですが、ようやく相場がわかってきたかな、という感じです。 同じく、10年ひたすら打ち込んだテニスも、10年たって見えてきたという経験をしています。
編集部:- このお話、説得力がありますね。
戸田:- FXは、世界中の投資家とつながっています。世の中には凄腕のディーラーっていうのは、いるんですよ。個人投資家の中にもいるし、ヘッジファンドの中にもいます。私からすれば、モンスター級のつわものですね。その人たちと一緒にトレードしているという事実をしっかり理解しないといけないと思います。FXトレード自体は簡単にできますが、いつの間にか、つわものに足元をすくわれて痛い目にあうことも覚悟しておかないといけません。
編集部:- なるほど。
戸田:- 痛い目を見るというのも大事ですけど。私の感覚では、3年くらいの間は、安定して勝ち続けることは難しいと思います。マーケットの値動きも手探りだし、自分のコントロールも十分にはできない期間だと思います。なので、5年ほど投資をやって、成果が出たらいいな、くらいの中長期視点でいるのが大事かなと思います。 FXで、世界の強豪トレーダーとつながれるということに喜びを感じてやっていくのが良いと感じます。為替から得られるものはすごく多いと思いますしね。
編集部:- 無理やりテニスに例えると、対戦相手にいきなりジョコビッチとあたる可能性もあるということですかね。
戸田:- そうですね。2013年に私が銀行で大きな損を出した時、相手はラスボス級の方だったんだろうなと思います。ディーラーになって4年、経験が増えて、トレード成績もよくなっていた時です。 油断したら、全部持っていかれるので。まとめると、まずはリスク管理ですね。これさえやっておけば、退場はないと思います。
”不当に低い” 人民元の水準
編集部:- 中国市場についての質問です。戸田さんは毎週マネ育チャンネルに入稿いただいておりますので、こちらを読んでいただきたいのですが人民元のトレードのポイントがありましたら教えてください。外為どっとコムでも人民元を特集しています。
戸田:- 人民元の魅力は2つあります。ひとつは、キャリーがつく、つまり人民元/円や人民元/ドルの買い・ロングポジションでスワップポイントを受け取れるということです。この、キャリーがつくということは大事だと思っています。キャリーは市場の金利で決まってくるのですが、キャリーがつくから、またつかないから為替市場が下がる、上がるという決まりはないわけです。金融市場が、あくまで、いまの2通貨間の金利差から勝手に逆算してつけているだけです。将来のレートへはリンクしないんです。ですから、キャリーはがついた方が良いんです。人民元円はキャリーが取れます。ほかの高金利通貨もキャリーが取れますが、国の経済がボロボロというのも多いです。
編集部:- はい。
戸田:- そういう国は、経済が良くないのでお金が無くなってしまうので、お金を擦るんですが、そうするとお金の価値が下がる、ということを延々と繰り返しているわけです。ですから、構造上、通貨の価値が上がらない。ところが、中国は国が儲かっているんです。通貨をあらたに発行する必要もないんです。
編集部:- なるほど。
戸田:- ビックマック指数ってご存知でしょうか。その国のマクドナルドで売られているハンバーガーの「ビックマック」の値段から為替レートを算出するというものなんですが、これですと1ドルは3.8元くらいなんです。
編集部:- はい。
戸田:- 実際の為替レートは、1ドル7元です。おそらくですが、過去に相当な元売りドル買い介入をして不当に元安水準にいるので、まだまだ元高の余地ってあると思っているんです。なので私は人民元は買い・ロングでしか考えていないですね。
編集部:- スワップポイントが魅力のほかの高金利通貨と、人民元の違いがよく分かりました。
米中貿易戦争の影
戸田:- 最近は、米中の対立が激化しているので気を付けなければいけませんが。この対立で中国経済がおかしくなると感じたら、人民元を売ればよいかなと。キャリーを受け取れず、支払いになりますが。ちなみに米中貿易摩擦開始以降、過去2年間で、12.5%ほど元は対ドルで安くなっています。
編集部:- 結構下がっているんですね。
戸田:- はい。韓国と中国と日本って、どこも輸出大国という意味で同じだと思うんです。ドル/円はかつて360円でしたが、いまは大体100円です。人民元も以前は8.2元くらいでした。いまは7元ほどです。基本的に、輸出で財を成していく国は、自国通貨高に行くと言われています。なぜかと言うと、輸出して、それで得たドルを自国に再投資する際にドル売り・円買いするため、といわれています。長期間で見ると、経常黒字国は通貨高になっていくというのは、ひとつのセオリーなんです。
編集部:- なるほど。
戸田:- 中国はここ5年ほど強かったので、人民元高へ進むことも多かったと思います。逆に、経常赤字国は通貨安になりますね。経常収支の黒字国、赤字国の違いが為替に影響するという話です。それで、このような経常黒字国の通貨価値の調整は、経常収支がゼロ均衡になると落ち着くといわれています。ドル円であれば100円前後なんです。なので、100円前後で均衡してどちらにも行きづらい、という考え方もあります。2018年からの米中貿易戦争が苛烈になってきています。中国経済に悲観される方であれば、元売りでよろしいかと思います。
編集部:- 今後の米中関係の行方によって人民元は上下どちらかに行くということですね。
戸田:- 最近のドルインデックスは気になるところです。93台になっている。本当のドル売りが進むと、ドルの基軸通貨としての価値が下がるということですよね。そのような可能性は、無きにしもあらずです。永遠と続くものなのはないので、いつかは起きることかなと。
編集部:- ほぉ~。
そういえば、長年取り組んでいたテニスはいまもしていますか?
戸田:- はい。上海の駐在員仲間のなかでは、チャンピオンですね。テニスは、はじめて27年ほどですが四半世紀もずっとやっていますと、悟りを開いてくるものですね。
編集部:- さとり、ですか・・・。
戸田:- 昔より、戦術的にうまくなってきた気がします。為替も、27年やれば、いまとは違う姿が見えてくるのかなと思っています。
編集部:- そのほか、最近お感じのことなどありますか?
戸田:- 最近思うのは、世の中が情報過多なので、情報が氾濫していると思うんですよ。私としては、個人投資家さんは多すぎる情報にのまれちゃっているのではないかと思っています。ということで、地味なのですが、経済新聞を読むですとか、外為どっとコムさんの資料や記事などありますし、そのようなものを活用して、情報に対して、感度を高くしていくのはいいのではと思います。日々目に通すもので人は視座を高める、という言葉を聞きましたが、その通りだと思います。 Twitterで飛び交う、「買いました」「売りました」のツイートではなく、自分で考える努力を。あとは情報は、情報元から、加工されていないデータにアクセスすることができるのでしたら、自分で見てみるのも価値あるかなと。私のレポートも、なるべく元情報からとるようにしています。各国の金融政策や、法律の原文をもとにしています。純度を高めたレポートを書くようにしています。
世の中、甘い話はない 偽トレーダーについて
編集部:- 身の回りで、投資詐欺などありますでしょうか。コメントをお願いいたします。
戸田:- とにかく、言いたいのは世の中に甘い話は、ないということです。私のTwitterで、フォロアのアカウントを見ると、トレードシステムを使うと10万円もらえます、など儲け話について書かれている。甘い話には裏がありますので。
編集部:- なんだか、含蓄があるコメントですね。
戸田:- 甘い話に乗りたいときって、弱い立場の時じゃないですか。なにかを始めたばかりで、何をしていいのかわからないという、そういう時に近寄ってくる人っているんですよ。FXも、なかなか利益が安定しないときとか、今年こそは頑張ってみよう、と思っている人にこそ、そういう情報が届くんです。一回痛い目を見ればわかるのですが・・・。
編集部:- 痛い目は、あいたくないです・・・
戸田:- Twitterで見る、爆益アピールなどは、他人のことであって自分のことではないので、切り分けたほうがいいですね。私は、有名なトレーダーの方のツイートを見て、とてもよいところで取引されているな、と思うことも多いのですが、そればかり見ていても、自分のトレードは上手くならないんです。自分でそろえたデータで、自分で考えてトレードするから、結果戦略が間違っていたなどが分かるんです。言い方は失礼ですが、有名トレーダーの「マネごっこ」だけでは、トレード判断を半ば依存したままになってしまいます。フォローしているトレーダーだって調子が悪くなることがあるので、そんなときに向け自分で考えていないといけません。
編集部:- そうですね。
戸田:- 他人や他のところからヒントを得るのは良いと思います。最後に決めるのは自分でないと、成長につながらないので。FXの世界は、ヒトより一歩先に気づいてトレードをすることが重要だと思っていますので。
編集部:- 本日は長時間、ありがとうございました。
PickUp編集部より
いかがだったでしょうか。
初心者の方へ向けてたくさんアドバイスを頂きましたが、投資で本当に大事なことはリスク管理だと強くお話されていたことが印象的です。
時間軸やゴトー日、通貨ごとの値動きの癖など、しっかりと情報を収集することも大切であると仰っていました。 戸田さん執筆の毎週火曜日更新香港レポートも、ぜひご覧になってみてください。
【インタビュー】
代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。