以下の取材記事はトレーダー個人の経験やお考えに基づくものです。その内容について当社が保証するものではありません。実際のお取引については充分内容をご理解の上ご自身の判断にてお取り組みください。
日本のメガバンクで為替のプロディーラーとして活躍され、その後は独立し上海でコンサルティング会社を運営されている戸田裕大さんにインタビューを行いました。マネ育チャンネルには、毎週香港レポートを掲載いただいています。長時間にわたるインタビューとなり、前編では学生時代に取り組んだテニスの話を中心に掲載しました。
中編ではボードディーラー時代の成功談と失敗談、MBA取得の経緯についてお伺いしました。
前編:https://www.gaitame.com/media/entry/2020/08/19/165125
▼目次
慢心からの手痛い失敗
編集部:- トレーダーとしての成功事例や失敗事例などはありますでしょうか。
戸田:- そうですね、では成功事例から。
ボードディーラーだった当初は、ちょうどオージーがパリティ(1.00000)を割れているところでして。
編集部:- ほぉ。
戸田:- まあトレードアイディアとしては、取り立ててすごくはないんですけど、オージーショートして、めちゃくちゃ勝ったんですよ。「あれ、なんか余裕だな」って思っちゃったりもして。
それ自体が甘い考えだったんですけど、それがすべての始まりだったんです・・・。
編集部:- こ、怖いですね・・・。
戸田:- その後、どんどん大きい金額でトレードしていたんですよ。正直、少し麻痺していました。
なんでもないある日、夜中にめちゃくちゃドル/円を振り回していたんです。
序盤で勝っていて、「ほんとに為替は楽勝だな」って思っちゃっていたんですよ。
編集部:- あはは(笑)。
戸田:- そうしたら、どこかの外銀に、私と逆ポジションを入れられちゃって、見事にドカンとドル/円が落っこちてしまったんですね。
もうそれは凄い金額で…、なにがおきたかわからずに、
…気づいたら失神してました(笑)
編集部:- えっっっ!
戸田:- はい、失神しまして(笑)。
下の階の医務室に運ばれていました。上司がいてくださったんで運んでくれたようです。
・・・ということで、実は大成功事例っていうのはあんまりなくて、大失敗をして学びを得れたのが大成功、とでも言いましょうかね。
編集部:- その、失神したトレードの時間帯としては、夜だったんでしょうか。
戸田:- そうですね、夜中の1時~3時くらいだったと思います。
編集部:- ニューヨーク時間の後半ですし、相場が動く理由がない・・・(笑)。
戸田:- そうなんですよ、でも大量の買い注文を入れてみたりしていました。
編集部:- それは・・・、そもそも大丈夫なんですか?
戸田:- 今はいろいろ厳しくて無理だと思うんですけどね。 でも当時はありでした。むしろ腕の見せ所みたいな。
編集部:- プロでも自分の腕に陶酔してしまうことってあるんですね。
戸田:- ほんとうに、浅はかでした。いやぁほんと、おばかちゃんでしたね。
編集部:- プロであっても、常に襟を正さないといけないのですね。
戸田:- はい。FXで一番気を付けなければいけないところです。やっぱりタガが外れちゃう可能性があるんですよ。
編集部:- はい。
戸田:- 銀行って、リスク管理部とかですね、常時モニターで管理していたりとか、システム上これ以上の金額は入らないようロックがかかるとか、仕組みがあるんです。個人投資家は、自分で取引金額を決められるという、怖さがありますよね。
資金管理は、ほんとうに徹底されたほうが、幸せな人生につながると思います。
将来を考えMBA取得
戸田:- ディーラーとして勤務中、深夜の時間帯、為替取引が活発でないとき、ぼんやりと将来のこと考えました。自分は何がしたいのか、ノートに書いていきまして。
編集部:- はい。
戸田:- 学生時代はテニスに没頭し、アメリカへ留学をしましたが、自分も日本でテニススクールができないかと考えました。ただ、漠然とですが、事業を起こすとき、自分を尊敬してくれる方でないと仲間になってくれないのではないかと思い、自己成長が必要だと思っていました。
そこで思い浮かんだのが海外MBA取得でした。英語への苦手意識があったので、平日2時間、土日5時間、みっちり勉強するようにしました。そんなときに、中国駐在が決まったんです。
編集部:- ええと、英語を学んでいたということはアメリカ留学をするつもりだったんですよね。
戸田:- はい。アメリカの大学でMBAとか、カッコイイなと思っていましたので。ただ、中国で働いているうちに、中国の成長を肌で感じましたので、銀行をやめて米国へMBA取得に行くよりも、中国で働きながらMBA取得をめざすことを選択しました。
編集部:- なるほど。その後に入ったMBAは、どんな雰囲気だったんでしょうか?
戸田:- 60人のクラスで、半数以上が中国人、のこりはイスラエル、オーストラリア、ほか欧米からの留学生でした。日本人は私ひとりです。日本語が通じない環境でしたので、すべて英語でした。「同級生」は価値観が違う方が多く、一緒に学んだ2年間は自分にとって刺激的で、よい経験になったと思っています。
ちなみに平均年齢が40歳前後でした。EMBAといって、エグゼクティブ向けのものです。
編集部:- 結構年齢層が高いですね。
戸田:- ええ、普通のフルタイムに学ぶMBAは平均27歳前後ですね。私は当時32歳くらいでしたので、EMBAでは2番目に若手でした。
編集部:- 同級生はどんな方々で?
戸田:- 言ってみたら、すでにビジネスで成功した方が参加するスクールでした。イスラエルの方は、元軍人で、ヨルダン川で負傷兵の救助を経験していました。彼は退役後、起業して2回失敗して、3社目で成功したそうです。日本には徴兵制がありませんし、私としては、そもそも「軍に行く」という発想がないですから、いろいろな人生があるんだな、と大いに感じることが出来ました。
日本にいると家族や同僚から刺激を受けるものの、価値観自体は近いと思うんです。なので世界中の、様々なバックグラウンドを持つ人と交流が持てたのは良かったです。
編集部:- 資格としてのMBAとともに、人との交流としても価値があったということですね。
戸田:- そうですね。一番の収穫は人材面が大きいです。勉強面でも、価値観の違いを感じましたね。結構、中国人の中には器用にさぼる方もいましたので(笑)。
編集部:- さて、MBA取得後に独立されましたが、現在の目標は何でしょうか。
戸田:- 中国の金融経済情報を変なバイアスなく、正しく、なるべく多くの日本人や日本企業に届けたい、というのが大きな目標です。
私自身、中国のことをあまり知らなかった、そして中国に行ってみたらカルチャーショックを受けるほどのダイナミミズムを肌で感じました。
私が感じたようなことを知らず、日本でも中国を毛嫌いしている方はいると思います。かつて私もそうでした。メディアは、中国をたたいて耳目を引くような報道が多いですし、日本にいる間は、私も報道に影響されていました。
編集部:- はい。
戸田:- 中国という国がどれくらい経済力をもち、大きくなっているのか、知ろうともしなかったんです。ただ、知ることによって、個人投資家の投資内容や、日本企業の対中施策などもプラスの影響が出ると思っています。
日本では、どちらかといえば同盟国のアメリカ寄りの報道を目にすることが多いですよね。
編集部:- 米中関係がこれまでになくこじれる中、中国の本当の情勢が入って来なくなるかもしれません。戸田さんの香港発の情報は、今後より価値が出てくるのではないかと感じました。まさに時代の要請かと。
戸田:- ありがとうございます。経済指標でも、中国のGDPなどが徐々に注目されるようになっています。全国人民代表大会(全人代)や中国人民銀行の金融政策決定会合など、注目度が高まる可能性もありますね。
編集部:- 戸田さんのレポートで勉強させていただいております。
PickUp編集部より
「中国の金融経済情報を変なバイアスなく、正しく、なるべく多くの日本人や日本企業に届けたい、というのが大きな目標」と仰っていた戸田さん。現在はマネ育チャンネルで香港レポートを執筆していただいており、編集部も毎週、未知の情報に感嘆しています。ぜひご覧になってみてください。
後編では、投資初心者の方に向けてのアドバイスをお伺いしました。
【インタビュー】

代表を務めるトレジャリー・パートナーズでは専門家の知見と、テクノロジーを活用して金融マーケットの見通しを提供。その相場観を頼る企業や投資家も多い。 三井住友銀行では10年間外国為替業務を担当する中で、ボードディーラーとして数十億ドル/日の取引を執行すると共に、日本と中国にて計750社の為替リスク管理に対する支援を実施。著書に『米中金融戦争─香港情勢と通貨覇権争いの行方』(扶桑社/ 2020 年)『ウクライナ侵攻後の世界経済─インフレと金融マーケットの行方』(扶桑社/ 2022年)。