【外為総研 House View】
目次
▼ポンド/円
・ポンド/円の基調と予想レンジ
・ポンド/円 8月の推移
・8月の各市場
・8月のポンド/円ポジション動向
・9月の英国注目イベント
・ポンド/円 9月の見通し
▼豪ドル/円
・豪ドル/円の基調と予想レンジ
・豪ドル/円 8月の推移
・8月の各市場
・8月の豪ドル/円ポジション動向
・9月の豪州・中国注目イベント
・豪ドル/円 9月の見通し
ポンド/円
ポンド/円の基調と予想レンジ
ポンド/円 8月の推移
8月のポンド/円相場は137.750~142.042円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約2.2%上昇(ポンド高・円安)した。ユーロと同様に、ポンド買い材料が目立った訳ではなかったが、ドル安と円安のあおりで上昇圧力がかかった。
英4-6月期国内総生産(GDP)が先進国中で最悪の落ち込みとなった事や、欧州連合(EU)との通商交渉に進展がなかった事などから中旬までは140円前後が上値抵抗となっていたが、27日にこれを明確に上抜けると31日には2月以来の高値となる142.042円前後まで上値を伸ばした。
6日
英中銀(BOE)は大方の予想通りに政策金利(0.10%)と資産買い入れプログラム(7450億ポンド)の据え置きを全会一致で決定。同時に公表した金融政策報告書では、2年後にインフレ率が目標の2%に戻るとの想定に基づいた経済見通しを披露。「経済に対する新型コロナの直接的な影響は、予測期間中に徐々に消滅すると想定」とした。
市場は、現時点でBOEが追加緩和の必要性を認めていないと受け止め、ポンド買いが優勢となった。なお、ベイリーBOE総裁もその後の会見で「(マイナス金利は)政策手段のひとつだが現時点で使うつもりはない」と述べた。
11日
英7月失業率は7.5%、同失業保険申請件数は9.44万件増となり、6月(7.2%、6.85万件減)から悪化した。これを受けてポンドは一時弱含んだ。なお、英4-6月失業率(ILO方式)は3.9%、同週平均賃金は前年比-1.2%であった(予想:4.2%、-1.1%)。
12日
英4-6月期国内総生産(GDP)・速報値は前期比-20.4%、前年比-21.7%と過去最大の落ち込みを記録(予想:-20.7%、-22.3%)。年率換算では-59.8%となり、主要国の中では最悪となる見通し。なお、英6月鉱工業生産は前月比+9.3%と予想(+9.0%)を上回った。
14日
英国が新型コロナ対策としてフランスやオランダなどからの入国者に14日間の隔離を義務付けた事や、中国8月小売売上高などの冴えない結果が嫌気されて欧州株が売り先行でスタート。円が強含みとなり、ポンド/円は下落した。
19日
英7月消費者物価指数は前月比+0.4%、前年比+1.0%と予想(-0.1%、+0.6%)を大幅に上回った。これを受けてポンド/円は一時139.95円前後まで上値を伸ばした。ただ、インフレの加速が新型コロナの影響で夏の衣料品セールが実施されなかったためとわかり、一時的な現象との見方が広がるとポンドは失速した。
米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が想定したほどハト派的ではなかったとの見方からドルが買い戻されポンド/ドルが下落した事も重しとなった。
21日
英7月小売売上高は前月比+3.6%と予想(+2.0%)以上の伸びとなった。自動車燃料を除いた売上高も前月比+2.0%と堅調な伸びを示した(予想:+0.2%)。その後も、英8月製造業PMI・速報値は55.3、同サービス業PMI・速報値は60.1と、いずれも市場予想(54.0、57.0)を上回った。しかし、ポンドの上昇は限定的かつ一時的だった。英国と欧州連合(EU)がこの日まで行った通商交渉にほとんど進展がなかった事でポンドが軟化した。
なお、EU側のバルニエ首席交渉官は交渉終了後に「現段階で合意できる公算は小さいと思われる。今週は前進ではなく後退しているように感じられた」などと発言した。これに対し、フロスト英首席交渉官は「今週は有益な協議ができたが進展はほとんどなかった」などとする声明を発表した。
28日
安倍首相が辞任の意向を固めたとの一報が流れると円が全面的に上昇。日経平均株価は一時600円超値下がりした。なお、安倍首相はその後の会見で持病の潰瘍性大腸炎が再発した事を明らかにした上で「国民の負託に自信を持って応えられない以上、総理の職を辞する事にする」と述べた。ただ、その後はポンド高・ドル安に振れた影響からポンド/円は下げ渋った。
8月の各市場
8月のポンド/円ポジション動向
9月の英国注目イベント
ポンド/円 9月の見通し
英国を取り巻く環境の厳しさから、このところのポンド相場の上昇を懐疑的に見ている市場関係者は少なくないようだが、そうした見方に反するようにポンドは堅調に推移している。
ユーロとともにポンドがドル売りの受け皿になっていると見られるが、ドル売りの流れがあまりにも強いため、ポンドショートが白旗を挙げた事で上昇が加速した面もあるようだ。シカゴマーカンタイル取引所の通貨先物市場(IMM)の取組は、8月以降ショートポジションの減少が続いている。7月末に2.5万枚強のネットショート(売り越し)だった投機筋のポジションは、8月中にネットロング(買い越し)に転じている。これは、ショート勢のロスカットによるポンド買い戻しが一巡した事を示唆しており、この点から見れば9月のポンドの上値は重くなると考えられる。
その他、9月7日の週に再開する英国と欧州連合(EU)の将来関係を巡る交渉もポンド相場の重しとなる公算が大きい。8月の交渉ではEU側の交渉責任者であるバルニエ氏が「(9月に)合意できる公算は小さい」との見解を示しており、市場には合意への期待はないに等しい。このため、9月交渉が不調でもポンドが急落する事はないと見るが、上値を抑える理由にはなるだろう。
豪ドル/円
豪ドル/円の基調と予想レンジ
豪ドル/円 8月の推移
8月の豪ドル/円相場は75.102~78.460円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約3.3%の上昇(豪ドル高・円安)となった。
株高や資源高のリスクオン地合いの中、上旬から堅調に推移。香港問題を巡り米中関係が緊張した事などから中旬は上値の重さも見られたが、下旬には上昇が加速した。米連邦準備制度理事会(FRB)が2%のインフレ目標を「平均」で目指すとして超低金利政策の長期化を示唆した事などから米国株が続伸。同時にドル安(豪ドル高)が進行した事で豪ドル/円の上昇に弾みが付いた。
なお、31日には豪ドル/米ドルが2018年8月以来の0.74ドル台に上伸。豪ドル/円も同日に78.40円台まで上値を伸ばして2019年5月以来の高値を付けた。
3日
中国7月財新製造業PMIは52.8と市場予想(51.1)を上回り、2011年1月以来の高水準となった。中国の景気回復期待が高まる中、上海株も上昇したが豪ドルは反応薄だった。
4日
豪6月貿易収支は82.02億豪ドルの黒字と、黒字額は予想(88.00億豪ドル)を下回った。一方、豪6月小売売上高は前月比+2.7%と予想(+2.4%)を上回る伸びとなった。
その後、豪中銀(RBA)は予想通りに金融政策の据え置きを発表。声明では「豪経済は非常に困難な時期を迎えており、1930年代以来最大の縮小を経験している」と指摘。「景気の落ち込みは予想したほど深刻でなく、国内の大部分の地域で回復しつつあるものの、ビクトリア州がコロナ感染第2波による経済的打撃を受けており、全体として回復は不均一で不安定なものとなる可能性が高い」との見方を示した。
7日
トランプ米大統領が、中国「TikTok」運営会社との取引を禁止する大統領令を発出した事でリスク回避のドル買いが先行。米7月雇用統計が予想より良好だった事もドル高を後押しした。
なお、RBAはこの日発表した金融政策報告で「ビクトリア州が最近導入したコロナ感染防止策により、第3四半期GDPが少なくとも2ポイント押し下げられると予想」「来年は回復を見込むものの、ペースは従来想定より鈍い」とした上で、2021年成長率予想を7%から4%に下方修正した。
10日
米中関係の悪化を懸念して香港株が下落。香港警察が、国家安全法違反の疑いで民主運動家らを逮捕した事などが嫌気された。これを受けてドル買いが強まると豪ドル/米ドルは下落したが、ドル/円が強含んだため豪ドル/円は小動きとなった。
13日
豪7月雇用統計は新規雇用者数が11.47万人増、失業率は7.5%と、予想(3.00万人増、7.8%)より良好な結果であった。ただ、これを好感した豪ドル買いの動きは一時的であった。
14日
中国7月小売売上高は前年比-1.1%、同鉱工業生産は前年比+4.8%といずれも予想(+0.1%、+5.2%)を下回った。なお、豪中銀(RBA)のロウ総裁はこれより前に「雇用拡大促進のために豪ドル安を望む。ただ、今の水準が過大評価とは言えない」「マイナス金利を排除しないが、可能性は非常に低い」などと述べた。
18日
RBA議事録では「景気下降は予想されたほど深刻でなく、豪州の大部分の地域で回復が進行中だが、ビクトリア州での新型コロナウイルス感染拡大が経済に重大な影響を与えており、回復ペースは予想より緩慢になる可能性が高い」との認識が改めて示された。
また、メンバーは「現状では政策パッケージを調整する必要がない」と再確認する一方、「状況の展開を引き続き評価し、正当な理由があれば現行パッケージを調整する可能性を排除しない」点でも一致した事が明らかになった。
24日
米食品医薬品局(FDA)が、新型コロナウイルス感染症から回復した人の血漿を使う治療法に対し、緊急使用許可を付与した事などを受けて上昇していた欧州株が一段高となる中、豪ドル買い・円売りが優勢となった。
ただ、その後は米長期金利の上昇などを背景にドルが上昇したため、豪ドル/米ドルが反落。これに連れて豪ドル/円も上げ幅を縮小した。
28日
安倍首相が辞任の意向を固めたとの一報が流れると日経平均株価が一時600円超値下がりするとともに円買いが強まった。しかし、その後はドル安主導で豪ドル/米ドルが上昇したため、豪ドル/円は持ち直した。
8月の各市場
8月の豪ドル/円ポジション動向
9月の豪州・中国注目イベント
豪ドル/円 9月の見通し
豪州では、貿易収支の黒字定着などを背景に昨年中盤以降、経常収支が黒字化しており、為替の基礎的需給は豪ドル買いが優位となっている模様だ。これに加え、足元ではドルの下落によって資源価格や株価とともに豪ドルが押し上げられている。
そうしたリスクオンの市場環境の中、豪ドル/円も約1年4カ月ぶりの78円台へと上伸している。リスクオンの流れが続けば、9月中にも80円の大台乗せが視野に入りそうだ。ただ、9月2日時点で豪ドル/円の日足相対力指数(RSI)は短期・中期ともに過熱を示す70%を超えている。仮にリスクオンの流れが反転するようなら豪ドルの調整は深くなると考えられる。
コロナ問題や香港問題を巡り、豪中関係が悪化している点などはやや気がかりだ。中国による豪州からの輸入規制は、現状では牛肉や大麦などの農産品が中心だが、鉄鉱石などの資源品に及ぶ事がないか注意が必要だろう。
9月の豪ドル/円は、先高期待感と高値警戒感が入り混じる中、神経質な相場展開となりそうだ。