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劣勢のトランプ 再選に必要な「2つのV」 ジャーナリスト 中岡望 米大統領選2020

米大統領選2020

 11月の大統領選挙まで残すところ3カ月となった。だが、いつもの大統領選挙と違って一向に熱気が伝わってこない。新型コロナウイルスの感染拡大で気勢が削がれている面もあるが、候補者のトランプ大統領とバイデン前副大統領の人気がいまひとつ芳しくない面も否定できない。トランプ大統領の不人気は今に始まったことではないが、新型コロナウイルス対策の対応で失敗したのと評価から、さらに低下している。支持者を集めて気勢をあげようと開かれたオクラホマ州サルサでの政治集会は空席が目立ち、気勢を上げるという雰囲気ではなかった。さらに地元の保険当局の警告を無視して開催したものの、結果的にコロナウイルスの感染を広げてしまう結果となった。十分に支持者を動員できなかった理由で、トランプ大統領は選挙運動責任者を更迭している。

 政策面でも目立った方針はまだ出てきていない。アメリカの政治では、魅力的な政策課題を掲げること、すなわちアジェンダ・セッティングが極めて重要だが、前回の大統領選挙の時に掲げた「Make America Great Again」といったスローガンは出てきていない。2期目に向かう明確な政治的指針を示せないでいる。これは、トランプ政権が国内政策で後退を強いられていることも響いていると思われる。経済政策では大幅減税以外、成果らしい成果をまったくと言ってあげていない。外交政策も派手な行動はあったが、実質的な成果は見られない。最近になって中国批判を強めているのも、明らかに選挙を意識してのことである。対中国強硬姿勢は支持層に訴えると同時に、中国に対して軟弱だと言われるバイデン候補批判につながる。国内の社会政策では、保守派の判事を任命したにもかかわらず、最高裁はトランプ大統領の面子を潰すような、リベラル派に有利な判決を相次いで出している。共和党内部にも、このままでは議会選挙に勝てないと、トランプ大統領に距離を置く議員が増えている。また共和党の穏健派は「リンカーン・プロジェクト」という組織を結成して、「トランプ大統領を落選させる」動きを強化している。トランプ大統領の強固な支持基盤である保守派のキリスト教徒のエバンジェリカルの支持も低下傾向をしめしている。

 他方、バイデン候補は政治集会開催を避け、もっぱらSNSなどを通じて有権者に支持を訴えているが、迫力はない。6月から相次いで政策を発表している。経済政策では、トランプ大統領の「Make America Great Again」に対抗して、アメリカ製品の購入を訴える「Buy America」というスローガンを掲げ、国内産業復興を訴えている。また大統領選挙の予備選挙に立候補していた左派のバニー・サンダース上院議員やウォーレン上院議員に対する配慮から、環境問題を重視するグリーン・ニューディール政策を打ち上げている。さらに育児支援など福祉政策を重視する姿勢を示している。この狙いは、民主党内の左派の支持を得ることである。サンダース議員やウォーレン議員は若者層の支持を得ていた。バイデン候補にとって、こうした若者層の支持を取り付けることが選挙で勝つ必須条件になる。今回の大統領選挙では投票率が低下すると予想される。低投票率なら、トランプ大統領や共和党候補に有利に作用するだろう。そのためにも、よりリベラルな政策を打ち出す必要がある。さらに副大統領については、バイデン候補は女性を選ぶと公言しており、8月初旬には決めると伝えられている。アメリカ・メディアでは、黒人女性を伴走者にする可能性が強いと伝えている。従来から、黒人はバイデン候補の支持層である。バイデン候補の選挙組織はバイデン候補を、ニューディール政策を行ったフランクリン・ルーズベルト大統領の再来だとアピールする計画のようだ。だが、これに対してトランプ大統領はバイデン候補を“社会主義者”と批判するだろう。

 世論調査を見ると、バイデン候補がトランプ大統領を圧倒している。全国調査では10ポイントを上回るリードを維持している。選挙結果に大きな影響を与える激戦州でも、バイデン候補のリードが目立つ。これだけの差があれば、バイデン候補の楽勝かと思われるが、必ずしもバイデン候補勝利を確信する状況ではない。バイデン候補のリードは、バイデン候補を支持するというよりも、トランプ大統領を再選させたくないという層がバイデン候補支持に回っており、状況次第では最終的にどう動くか予想できない。あるアメリカのメディアは優れた候補を選ぶ選挙ではなく、”less evil(どちらが害が少ないか)“を選ぶ選挙だと分析していた。世論調査の項目に「熱狂度(enthusiastic)」というのがある。バイデン候補支持者は熱狂的に同候補を支持しているわけではない。オバマ大統領が当選したとき、熱狂的な支持がみられた。またオバマ大統領は「movement」を起こして、無名の候補者であったにも拘わらず、勝利を得た。だが、バイデン候補は高齢で、自らを「次世代への繋ぎの大統領」と語るなど、支持者層を活性化し、盛り上げるという候補者ではない。

 世論調査はあてにならないものである。前回の大統領選挙では9月の段階までヒラリー・クリントン候補が世論調査で10ポイント以上差を付けていた。それが一気に逆転した経緯がある。ある選挙の専門家は、可能性が低いが、「2つのV」が起これば、トランプ大統領の再選も不可能ではないと指摘していた。それは経済のV字回復と、コロナウイルスの状況のV字回復である。もうひとつ大きな要因となるものを付け加えれば、先に指摘したように投票率がどうなるかだ。現状では、バイデン候補有利だが、3カ月間に何が起こるかわからない。大統領選挙に決定的な影響を与えるのは、投票日の1か月前の経済、社会情勢だという分析もある。まだ、大統領選挙の予想は不透明である。

f:id:gaitamesk:20050928094155j:plain 中岡 望 氏
ジャーナリスト、元東洋英和女学院大学副学長 国際基督教大学卒。
東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)を経て1973年東洋経済新報社に入社。『週刊東洋経済』編集委員、『会社四季報』副編集長などを務め、2002年退社。フリーのジャーナリストへ。 1981~82年フルブライト・ジャーナリスト、ハーバード大学ケネディ政治大学院フェロー。1993年、ハワイの大学院大学イースト・ウエスト・センターのジェファーソン・フェロー。2002~03年、ワシントン大学(セントルイス)ビジティング・スカラー。東洋英和女学院大学教授(国際経済学、公共選択などを担当)、同大学副学長を経て、2016年より現職。ジャーナリストとしても、様々なメディアに寄稿、本の執筆、講演活動を展開。