
ドル円160円突破が現実味を帯びる一方、財務省は過去最大11兆7,349億円の円買い介入を実施しました。介入警戒感から160円台は強力な壁として機能しており、6月15日~17日の日米中銀ウィークがドル円相場の分岐点となる可能性があります。本稿では3つのシナリオで今後のドル円見通しを解説します。
FRB新議長就任とドル/円相場160円再突入の可能性
2026年5月現在、ドル/円相場は再び150円台後半から160円突破をうかがう高値圏で推移しています。2024年7月に付けた歴史的高値の161円95銭が意識される中、市場に大きな地殻変動をもたらしたのが米FRB(連邦準備理事会)のトップ交代です。
ジェローム・パウエル前FRB議長の後任として、ケビン・ウォーシュ氏が2026年5月22日、第17代FRB議長に正式就任しました。パウエル前議長が理事として組織に留任するという異例の移行体制に加えて、足元では、日本政府・日銀による月間ベースで過去最大規模の11兆7,349億円という為替介入が実行されたことが明らかになり、市場の緊張感が高まっています。
今、市場が最も注目しているのは、ウォーシュ新議長がトランプ政権の意を汲んだ「ハト派的舵取り」をするのか、それとも「インフレ警戒姿勢」を示すのかという点です。ここでは日米の中央銀行の動向、最新の介入実績、そして2026年後半の金融政策発表予定を踏まえ、ファンダメンタルズとテクニカルの両面からドル/円の新たな転換点を読み解きます。
FRB新議長ケビン・ウォーシュ氏とは
ケビン・ウォーシュ氏は、ジョージ・ブッシュ大統領の経済政策担当補佐官を経て、2006年から2011年までFRB理事を務めました。2008年のリーマン・ショック時の危機対応を最前線で主導した実績を持ち、今回、ドナルド・トランプ大統領に指名され、上院の承認を経て、第17代FRB議長に就任しました。
「改革志向の中央銀行」を掲げるウォーシュ氏は、伝統的なタカ派、つまりインフレ抑制を重視する論客として市場で広く知られています。
直近の米4月CPI(消費者物価指数)は、前年比で3.8%と高水準を記録しており、米国内ではインフレ再燃や原油高、地政学的リスクが警戒されています。ウォーシュ新議長は、パウエル前議長が進めていた利下げ路線を一時的にストップし、「高金利の長期維持(Higher for longer)」、あるいはデータ次第で追加利上げの選択肢も辞さない厳しい姿勢を示すと見られています。
ただ、同氏は枠組みに縛られない柔軟な政策運営を好む傾向もあるとされており、就任後初めてとなる6月のFOMCでどのようなメッセージを打ち出すかによって、市場に強いサプライズを与える可能性があります。
市場を動かす「日米金利差」と「介入実績」
日銀は2024年の追加利上げ以降、慎重に経済データを見極めてきました。しかし、人手不足を背景とした賃上げの強さや物価の基調維持から、市場には2026年中のさらなる追加利上げに対する期待感が残っています。
一方の米国内では、FRB内部で将来の政策方針を巡って意見が対立するなど、市場の警戒感は高まっています。ウォーシュ氏のタカ派姿勢が意識される限り、米長期金利は高止まりしやすく、米ドルを買い支える構造が続きます。
日本政府・日銀による円買い為替介入
米ドル/円相場が160円という大台に乗る局面で、最も警戒すべき防衛ラインが、政府・日銀による実弾介入のデータから浮かび上がっています。財務省が公表したデータでは、大型連休期間中を含む為替介入額は総額11兆7,349億円に上り、月次ベースの円買い介入としては、歴史的に見て過去最大規模となりました。

このデータから、財務省の明確な意思として「160円を超えて加速度的に円安が進む局面では、5兆円規模の巨額資金を躊躇なく投入する」という強い姿勢が確認できます。これは、160円台後半で強烈な売り圧力、つまり介入警戒ゾーンとして機能することになります。
今後の主要な政策発表スケジュールと考察
2026年後半、市場を揺るがす分岐点となる日米の重要会合を整理しました。

特に警戒すべきは6月中旬です。日銀決定会合の直後に、ウォーシュ新議長初のFOMCが控える緊迫のスケジュールとなっています。
日銀が仮に円安けん制のメッセージを出しても、直後に新FRB議長が高金利維持の強気な見通しを示せば、円高圧力がドル高に相殺されるリスクがあります。年後半の主導権がどちらにあるのか、この6月中旬の日米中銀ウィークが決定的な転換点になるかもしれません。
週足チャートのテクニカル分析で大局を読む
次に、週足チャートからドル/円相場の大きな流れを確認します。

パーフェクトオーダーで上昇トレンドは継続
週足チャートでは、短期、中期、長期の3本の移動平均線が表示されています。現在、上から「短期 > 中期 > 長期」の順に並ぶパーフェクトオーダーを維持しており、大局的には円安・ドル高の上昇トレンドの構造は崩れていません。
注目は現在値と中期移動平均線との乖離です。過去の大きな反転局面では、この中期線からのプラス乖離が歴史的水準に拡大したタイミングで、相場が反転するケースが見られました。上に離れれば離れるほど、平均回帰の圧力が強まるサインとなります。
ボリンジャーバンドは+2σが上値の目安
週足のボリンジャーバンドでは、足元のローソク足が「+1σ」と「+2σ」の間に位置しています。現在、「+2σ」のラインは2024年7月の最高値付近に位置しており、バンドの天井が徐々に近づいています。
週足レベルでこの+2σに接触した後、上ヒゲのローソク足や陰線が出始めると、上昇から調整局面への転換を警戒する必要があります。
移動平均線が示すドル買いの強さとサポートの特性
続いて、日足チャートから足元の攻防を確認します。

ドル/円相場の日足チャート。25日移動平均線が下値支持線として機能し、200日移動平均線が深い調整時の目安となる
日足ベースにおける最も顕著な特徴は、25日短期移動平均線が強力なサポートとして機能している点です。上昇トレンドの過程において、一時的に押し目となった場面でも、基本的にはこの25日線にタッチする前後で買いが入り、上昇トレンドを維持する起点となっています。
サポート崩壊時の警戒サイン
一方で、この堅牢な25日短期移動平均線を明確に下抜けるケースには注意が必要です。2026年初めの調整局面のように、25日線を割り込む動きが出たときは、そのまま中期移動平均線である75日線を一気に下抜ける急落に発展しやすい特徴があります。
つまり、25日線攻防で踏みとどまれなかった場合、中途半端な水準で拾うのは危険であり、一段深い下落を覚悟する必要があるという警戒信号になります。
最終防衛線は200日長期移動平均線
短期・中期線が一気に崩れた際、相場の底および最も強い買い場として機能するのが200日長期移動平均線です。
過去にドル/円相場が大きく調整した場面でも、200日長期線にタッチした局面では反発し、そこから再び上昇相場へと転じるケースが見られました。
現在は上値を160.727円の介入レジスタンス、下値を25日短期線に挟まれた神経質な位置にあります。この日足の移動平均線3本の配置は、トレーダーにとって重要な判断材料になるでしょう。
ファクトとテクニカルが交錯する3つのシナリオ
最後に、今後の相場がどのような動きを示す可能性があるのか、3つのシナリオで整理します。
シナリオA:レンジ継続、または上限トライ(157〜162円)
条件:ウォーシュ新議長が6月のFOMCでインフレ抑制を最優先に掲げ、利下げ凍結を示唆する一方、日銀が利上げを慎重に見送る場合。
展開:6月中旬の日銀決定会合からFOMCという連続イベントを通過する中でドル買いが優勢となり、日足レジスタンスである160.727円のブレイクを試みます。ただし、160円を超えると実弾介入への警戒感が強まるため、2024年最高値の手前では急落リスクにも注意が必要です。
シナリオB:もみ合い・方向感の模索(155〜160円)
条件:ウォーシュ新議長が激しい市場動揺を避けるため、慎重な対話に終始し、日銀も経済指標の確認を優先する場合。
展開:上値は160円の手前で介入警戒ゾーンに抑えられる一方、下値は200日線が強力なサポートとして機能するため、155〜160円のレンジ内での推移が継続します。
シナリオC:円高への調整(150〜155円方向)
条件:日銀が7月会合に向けて追加利上げのシグナルを強める一方、米国の景気減速データが強まり、新FRB体制でも利下げを余儀なくされる場合。
展開:日足の上昇トレンドラインおよび75日移動平均線を明確に下抜けることで調整が本格化します。週足ベースの平均回帰圧力が現実化し、200日平均線方向への深い調整売りを形成することになります。
今後の立ち回り方とリスク管理
2026年5月末現在のドル/円相場は、新FRBの政策スタンス、日銀の利上げ見通し、そして財務省による為替介入の実績という3つの要素が複雑に絡み合う局面です。
ケビン・ウォーシュ新FRB議長の就任は、米国の高金利環境が長引くとの見方を強め、足元のドル高の支えとなっています。チャート上でも日足の25日線がサポートとして機能しており、底堅さを見せていますが、同時に160.727円に位置する介入レジスタンスを踏まえると、ここからの安易な上値追いには警戒が必要です。
1)下値サポートの基準:日足の25日短期移動平均線の上側で推移している間は、堅調な地合いが維持されやすいと言えます。ただし、ここを明確に割り込んだ場合は、短期・中期線の一斉下抜けに伴う急落リスクに留意する必要があります。
2)深い調整時の目安:仮に政策転換や指標の急変によって相場の下落基調が強まった場合、過去のデータから200日長期移動平均線が底固め・反発の基準として意識されます。
3)直近の注目イベント:6月15〜16日の日銀政策決定会合、およびその直後に続く6月16〜17日のFOMCが、夏場に向けた最大の分岐点となります。
日米の中央銀行による新たな金利見通しと、FRB新議長が発する具体的なメッセージを見極めるまでは、ポジションサイズを普段よりも抑え、リスク管理を徹底する姿勢が求められます。市場の方向性が明確になった段階で動き出すという、慎重かつフラットなアプローチが有効な戦略となるでしょう。
岩田仙吉(いわたせんきち)氏株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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