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今、金融市場の最大関心事といえば、米国の利下げでしょう。「いつ始まって、何回行われるのか」。利下げを強く求めるトランプ米大統領と引き下げに慎重なパウエルFRB議長の攻防が続いています。「金融緩和」に向かう米国に対して、私たちの日本は「いつ、どの程度引き上げるか」という「金融引き締め」の議論が行われており、日本経済の「周回遅れ」ぶりばかりが目立ちます。世界の金融市場が、大きな転換点を迎えていることは間違いありませんが、そうした中、日米の「イールドカーブ」に非常に興味深い現象が起きていることをみなさんはご存知でしょうか?
意味が異なる2つの急カーブ
外為どっとコムのマネ育チャンネルでは、私が執筆するCFDのテクニカル分析記事が、毎週月曜日に掲載されます。その際、重要参考指標として私が毎回紹介しているのが日米のイールドカーブのチャートです。
以下は2025年7月28日に掲載されたCFD向けテクニカル分析記事で紹介した日米のイールドカーブのチャートです。

日本国債のイールドカーブでは「ベア・スティープニング」と呼ばれる現象が起きています。

一方で米国債のイールドカーブでは、「ツイスト・スティープニング」と呼ばれる現象が起きています。
英語で「スティープニング(Steepening)」というと「カーブが急になる」という意味です。金融用語で使う場合の「スティープニング(Steepening)」は、イールドカーブの傾きが急になる現象を指します。
日米ともにイールドカーブに起きている現象について、同じ「スティープニング」という言葉が使われています。しかし、上記2つのチャート形状が異なるように、その原因や意味あいはまったく異なります。この違いは何を物語っているのでしょうか?
過去に掲載したマクロ経済学基礎講座④「イールドカーブと株価指数の関係」では、イールドカーブの基本と日銀のYCC解除で、日本に「順イールド」が起きていることを解説しました。今回はさらに深掘りして、日米が直面する具体的なイールドカーブシフトから、何が分かるのかを説明してみたいと思います。
●前回の記事:イールドカーブと株価指数の関係
https://www.gaitame.com/media/entry/2024/11/19/144137
イールドカーブの「ブル」と「ベア」
一般的に、金融市場で「ブル=雄牛(Bull)」は「強気・価格上昇」を、「ベア=熊(Bear)」は「弱気・価格下落」を意味します。ところが、イールドカーブの「利回り」では、この関係が「逆」になります。それは債券の価格と利回りがシーソーのように動く「逆」の関係にあるためです。
・債券が買われる(強気=Bull) → 債券価格は上昇 → 利回りは下落
・債券が売られる(弱気=Bear) → 債券価格は下落 → 利回りは上昇
したがって、イールドカーブの利回りでは以下のようになります。
・「ブル」のシフト = 利回りが「低下」する動き
・「ベア」のシフト = 利回りが「上昇」する動き
このルールに沿ってイールドカーブの形状の違いについて解説を進めます。
金融引き締めに向かう日本のサイクル(4つのシフト)
まずは日本のイールドカーブです。現在の日本が歩み始めた「金融引き締め」の道筋は、イールドカーブは以下のような4つのステージを経て変化します。
ステージ①:ベア・スティープニング【日本の現在地】

1)状況:金融緩和からの脱却が始まり、市場が将来の「利上げ」を意識し始めた段
階です。
2)金利の動き:将来の利上げ期待を反映し、長期金利が先行して大きく上昇する
ベアの動きを示します。一方で中央銀行(日本銀行)による実際の
利上げはまだ小幅なため、短期金利の上昇は緩やかです。
3)結果:長期金利の上昇に短期金利が追いつかず、カーブの傾きが急になるス
ティープ化が起こります。「利回りが上昇しながら、傾きが急になる」た
め、「ベア・スティープニング」と呼ばれます。
ステージ②:ベア・フラットニング【利上げ継続の局面】

1)状況:本格的な利上げが継続される段階です。
2)金利の動き:中央銀行(日銀)の利上げにより、短期金利が大きく上昇するベア
の動きを示します。しかし市場は将来の景気減速を懸念し、長期金
利の上昇は頭打ちになります。
3)結果:カーブは平坦(フラット)化します。
ステージ③:ツイスト・フラットニング【利上げ最終局面と逆イールド】

1)状況:利上げが行き過ぎ、市場が景気後退を強く意識する段階です。
2)金利の動き:短期金利はまだ高止まりしている一方で、市場は将来の利下げを織
り込み、長期金利は低下に転じます。
3)結果:短期金利が長期金利を上回る「逆イールド」が発生します。
ステージ④:ブル・フラットニング【引き締め終了の局面】

1)状況:景気後退懸念が確信に変わり、市場は「利上げは終わり、次は利下げだ」
と強く意識する段階です。
2)金利の動き:将来の利下げ期待や安全資産とされる長期国債への資金逃避によ
り、長期金利が大幅に低下します(ブルの動き)。
3)結果:逆イールドの状態が続くか、あるいはさらに深まりフラット化します。
金融緩和に向かう米国のサイクル(2つのシフト)
続いて、米国のイールドカーブに視点を移しましょう。米国は、日本とはまったく異なる経済背景のもとで、「金融緩和」への転換期を迎えています。
コロナ禍で世界経済が停滞した2020年。米国は経済を強力に下支えするため、大規模な金融緩和を実施しました。しかし、この大規模な金融緩和政策などの影響で、その後、歴史的な高インフレが発生します。このインフレを抑制するため、中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)は、利上げを実施して金融引き締めを行いました。
そして、2025年夏、インフレ率が落ち着いてきたことから、中央銀行(FRB)は「コロナ禍後の金融引き締め」の出口、つまり段階的な利下げを視野に入れ始めています。この金融緩和局面でイールドカーブに見られるのが、以下の2つの「シフト」です。
ステージ⑤:ブル・スティープニング【金融緩和の典型的な形】

1)状況:景気後退に対応するため、中央銀行(FRB)が利下げで金融緩和を行う段
階です。
2)金利の動き:中央銀行(FRB)の利下げにより、短期金利が大きく低下、ブルの
動きを示します。市場は将来の景気回復を期待するため、長期金利
の低下は限定的です。
3)結果:カーブの傾きは再び急になり、「スティープ化」します。利下げ局面にお
ける基本的な「シフト」が起こります。
ステージ⑥:ツイスト・スティープニング【米国の現在地】

1)状況:中央銀行(FRB)はコロナ禍後のインフレ鎮静化を目的に、金融引き締め
の出口、つまり、段階的な利下げを視野に入れています。しかし、一方で
複数の強力な要因による長期金利の押し上げが続いており、「金融緩和の
期待」と「将来への懸念」が綱引きする複雑な局面となります。
2)金利の動き:この状況では短期金利と長期金利に、まったく逆方向の圧力がかか
ります。
2-1)短期金利(低下圧力):市場は将来の利下げを織り込んでおり、短期金利には
ブルの方向に向かう「低下圧力」がかかります。これ
は、「景気が減速すれば金利も下がるはずだ」という
教科書的な期待を反映した動きです。
4)長期金利(上昇圧力): しかし、長期金利はまったく異なる理由で、ベアな方向
に向かう強力な「上昇圧力」にさらされています。
5)インフレ率と好景気:インフレ率は中央銀行の目標である2%まで、なかなか下が
りきらない「しぶとさ」を見せます。加えて、雇用や個人
消費といった経済指標も依然として強く、中央銀行
(FRB)が大幅な利下げに踏み切りにくい状況です。
6)国債の供給量:政府(米国)は巨額の財政赤字を賄うため、国債を大量に発行し
続けています。市場への国債「供給」量が増加することは、国債
価格の下落と「利回り上昇」に直結します。
7)国債の需要:これまで国債の最大の買い手だった中央銀行(FRB)自身が「量的
引き締め(QT)」を行い、市場からの国債買い入れを減らしている
上に、海外投資家の需要も以前ほど旺盛ではなく、国債の「買い
手」は不足気味になります。
このステージでは、短期金利に対して「利下げ期待」という低下圧力が発生し、長期金利に対しては「インフレ・需給」という強力な上昇圧力が同時にかかります。この「ねじれ」によって、「短期金利は低下」して、「長期金利は上昇」することで、イールドカーブの傾きは急になります。これが「ツイスト・スティープニング」です。
イールドカーブシフトで世界各国の経済状況を判断
さて、今回は6つのイールドカーブシフトを、日米それぞれが迎えた異なる金融政策サイクルに当てはめて解説しました。
1)日本で金融引き締めが本格化した場合に、イールドカーブがたどる可能性のある4つのステージを学びました。
2)一方、米国が迎えた金融緩和局面で起こる2つのステージを紹介して、なぜ今、米国で複雑な「ツイスト・スティープニング」が起きているのかを説明しました。
このように、イールドカーブシフトの推移を追いかけると、その国の経済が置かれた状況と、市場参加者の心理を読み解くことができます。グローバルな視点で投資を考える上で、イールドカーブシフトの知識は非常に強力な武器となるでしょう。

(本文ここまで)
岩田仙吉(いわたせんきち)氏株式会社タートルズ代表/テクニカルアナリスト
2004年、東京工業大学から一橋大学へ編入学。専門は数理経済学。卒業後、FX会社のシステムトレードプロジェクトのリーダーになり、プラットフォーム開発および自動売買プログラムの開発に従事。その後、金融系ベンチャーの立ち上げに参画。より多くの人に金融のことを知ってほしいと思い金融教育コンテンツの制作に集中するために会社を創業。現在は、ハイリスク・ハイリターンの投資手法ではなく、初心者でも長く続けられるリスクを抑えた投資手法を研究中。
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