【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ドル/円
・ドル/円の基調と予想レンジ
・ドル/円 1月の推移
・1月の各市場
・1月のドル/円ポジション動向
・2月の日・米注目イベント
・ドル/円 2月の見通し
ドル/円
ドル/円の基調と予想レンジ
ドル/円 1月の推移
1月のドル/円相場は153.712~158.866円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約1.3%下落(ドル安・円高)した。20日に米国の第47代大統領に就任したトランプ氏の関税政策を巡りドルは堅調だったが、それ以上に日銀の利上げ観測を背景とする円買いが優勢だった。トランプ米大統領は、就任前から関税に絡んで数多く発言。6日には関税対象を絞る考えとの一部報道を真っ向から否定した。関税政策によりインフレが再加速すれば米長期金利が高止まりすることでドルの押し上げ要因になるとの見方が根強い中、10日に発表された米12月雇用統計が良好な結果になるとドル/円は昨年7月以来の高値となる158.87円前後まで上昇した。しかし、14日、15日と日銀の正副総裁が相次いで24日の金融政策決定会合における利上げの可能性に言及すると円買い主導で急落。その後も日銀の利上げを示唆する観測報道が続き、ドル/円の上値を抑えた。154円台では下げ渋る様子も見られたが、27日には中国新興企業の低コストAIモデルが米AI関連企業の優位性を脅かすとの見方からハイテク株が急落する「ディープシーク・ショック」が発生。ドル/円は一時153.71円前後まで下落して約1カ月半ぶりの安値を付けた。なお、日銀は24日に政策金利を0.25%から0.50%に引き上げ、一方の米連邦公開市場委員会(FOMC)は29日に政策金利の据え置きを発表したが、いずれもドル/円の動きに大きな影響を与えなかった。
始値 | 高値 | 安値 | 終値 |
157.197 | 158.866 | 153.712 | 155.191 |
出所:外為どっとコム「外貨ネクストネオ」
6日
米紙ワシントン・ポストは米次期政権下における輸入品への関税を巡り、すべての国に課すものの対象は重要品に絞る計画をトランプ氏の側近が検討していると報じた。課税範囲が限定されるなら、インフレ圧力は高まりにくいとの見方から米長期金利が低下。しかし、トランプ次期大統領は「ワシントン・ポストの記事」は、存在しない匿名の関係者を引用し、私の関税政策が縮小されると誤って報じている。それは間違いだ」とSNSに投稿。これを受けて再び米長期金利が上昇すると、ドルを買い戻す動きが強まった。
8日
FOMCは12月の議事録を公表。「大半のメンバーが金融緩和のペースを緩めるのに適切な地点、もしくは近づいている」「『向こう数四半期』は慎重なアプローチが必要」との認識を示した。
10日
米12月雇用統計は、非農業部門雇用者数が25.6万人増と市場予想(16.5万人増)を上回った。失業率は4.1%に低下(予想、前回ともに4.2%)。平均時給は前月比+0.3%、前年比+3.9%(予想+0.3%、+4.0%)だった。良好な雇用統計の結果を受けて、複数の米大手金融機関が年内の利下げ幅の見通しを減少方向へと修正した。
15日
日銀の植田総裁は、政策調整のタイミングは今後の経済・物価・金融情勢次第としながらも「来週の決定会合で利上げを行うかどうか議論し、判断したい」と発言。前日の氷見野副総裁に続いて総裁も来週の利上げの可能性に言及した。米12月CPIは前年比+2.9%と予想通りに伸びが加速した(前回+2.7%)。ただ、食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年比+3.2%に鈍化(予想、前回ともに+3.3%)。コアCPIが鈍化するのは7月以来5カ月ぶり。インフレ再加速の懸念が和らいだことで米長期金利が大幅に低下した。
16日
米12月小売売上高は前月比+0.4%と市場予想(+0.6%)を下回った。自動車を除いた売上高も前月比+0.4%と市場予想(+0.5%)に届かなかった。ただ、GDPの算出に用いられる、自動車・ガソリン・建材・外食を除いたコア売上高は前月比+0.7%と市場予想(+0.4%)を上回った。
20日
トランプ米大統領は就任演説で、米国民の利益を優先する「米国第一」を掲げ「黄金時代」を築くと語った。また、「南部国境における非常事態を宣言する」と述べ、不法移民の入国を阻止し、米国に滞在する不法移民を強制送還する考えを明示。さらに、「国家エネルギー緊急事態も宣言する」と表明。石油や天然ガスの増産により、エネルギー価格を大幅に引き下げインフレを抑える考えを示し、「ドリル・ベイビー・ドリル(掘って掘って掘りまくれ)だ」と述べた。
24日
日銀は予想通りに政策金利を0.25%から0.50%に引き上げた。同時に発表した展望リポートでは、物価見通しを引き上げた上に、「24年度と25年度は上振れリスクの方が大きい」との認識を示した。植田総裁はその後の会見で、政策金利が0.5%に上昇しても「中立金利にはまだ相応の距離があるとみている」として、まだ利上げの余地があることを示唆しつつも、今後の利上げのペースやタイミングについて「経済・物価・金融情勢次第で予断は持っていない」「今回の利上げの影響がどう出てくるか確かめつつ、今後の進め方を決めていきたい」としたやや慎重な姿勢を示した。
29日
FOMCは大方の予想通りに政策金利であるFF金利の誘導目標を「4.25-4.50%」に据え置いた。声明からは「インフレは2%の目標に向けて進展した」との文言が削除された。パウエルFRB議長は「金融政策スタンスが景気を抑制する度合いは以前より大幅に弱まっており、経済は強さを維持していることから、政策スタンスの調整を急ぐ必要はない」と述べた。声明でインフレに関する文章が削除されたことについては、「インフレに関する部分を短くすると決めただけ」とし、「シグナルを送ることを意図したわけではない」と説明した。なおトランプ政権の関税、移民などの政策については、「政策自体が明瞭になるのを待つ必要がある」と述べた。
1月の各市場
1月のドル/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
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2月の日・米注目イベント
ドル/円 2月の見通し
日銀は1月24日の金融政策決定会合で政策金利を0.25%から0.50%に引き上げた。声明や総裁会見では緩やかなペースで利上げを継続する方針が確認された。翌25日の日本経済新聞は、日銀が半年に一度程度のペースで利上げを行なう方針であると関係者の話として伝えた。しかし、日銀自身が説明するように、政策金利からインフレ率を差し引いた「実質金利」は依然として大幅なマイナス圏にあることから円を買う材料としては弱いと言わざるを得ない。日銀の緩やかな利上げへの期待は現状、過度な円安を抑制する要因と位置付けるべきだろう。円相場が大きく動きそうにない中で、当面のドル/円相場はドルの趨勢がカギ握ることになりそうだ。ドルの動きを巡る争点は、トランプ米大統領の関税政策と米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策だ。トランプ関税については、2月1日、メキシコとカナダおよび中国への賦課が決まった。関税強化によってインフレ圧力が高まることで米長期金利が高止まりしやすいとの見方から、為替市場へのインパクトはドル高と見られている。実際に、メキシコ・カナダ・中国への関税賦課が正式に決まってから初の取引となった3日のアジア・オセアニア市場では、対円も含めてドルが全面的に上昇した。メキシコペソやカナダドルなど、関税賦課の対象になった国の通貨がより大きく売られている点を踏まえると、仮に対米貿易黒字を有する日本にも関税が賦課されることになればドル/円も比較的大きく上昇する可能性があろう。しかし、トランプ関税が今後、米経済にどのような影響を及ぼすかは不透明な部分もある。仮に世界的な貿易戦争に発展すれば、これまで好調を維持してきた米国景気にも悪影響が及ぶおそれが出てくるだろう。1月31日時点の米金利先物は、FRBの年内の利下げ幅が合計で42bp(0.42%ポイント)程度になるとの見方を示す水準で推移。これは市場が、FRBは年内に25bp換算で1.6回程度しか利下げしないと見ていることを意味する。裏を返せば、7日に発表される1月雇用統計などの米重要統計が悪化した場合は利下げ回数の増加を織り込む余地が大きいとも言える。もし、トランプ関税の負の面が意識される中でFRBの利下げ観測が強まることになれば、ドル/円が比較的大きく下落することも考えられる。2月のドル/円相場は、トランプ関税とFRBの利下げを巡り神経質な値動きになりやすいだろう。
(予想レンジ:151.500~159.000円)
お知らせ:FX初心者向けに12時からライブ解説を配信
外為どっとコム総合研究所の調査部に所属する外国為替市場の研究員が、FX初心者向けに平日毎日12時ごろからライブ配信を行っています。前日の振り返り、今日の相場ポイントなどをわかりやすく解説しています。YouTubeの「外為どっとコム公式FX初心者ch」でご覧いただけます。

神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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