【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ユーロ/円
・ユーロ/円の基調と予想レンジ
・ユーロ/円 10月の推移
・10月の各市場
・10月のユーロ/円ポジション動向
・11月のユーロ圏注目イベント
・ユーロ/円 11月の見通し
ユーロ/円
ユーロ/円の基調と予想レンジ
ユーロ/円 10月の推移
10月のユーロ/円相場は154.393~160.850円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約1.6%上昇した(ユーロ高・円安)。158円手前で寄り付いた後、3日には日本政府・日銀による円買い介入を思わせる動きで154.39円前後まで下落する場面もあったがその後切り返した。7日には中東でイスラエルとハマスの衝突が発生したが、地上侵攻などの戦火拡大には至らなかったこともあってユーロ相場への影響は限定的だった。
17日に発表された独10月ZEW景気期待指数が中核国ドイツの景況感改善を示したことなどからユーロは堅調を維持。24日にはユーロ/ドル相場が約1カ月ぶりの高値へと上昇した動きにつれて159.92円前後まで上伸。26日に欧州中銀(ECB)が11会合ぶりに政策金利を据え置いたことなどから伸び悩んだが、31日に日銀がイールドカーブコントロール(YCC)を柔軟化した上で金融緩和を維持する方針を示すと円安主導で一気に160円台へと上値を伸ばし、2008年8月以来の高値となる160.85円前後を付けた。
出所:外為どっとコム「外貨ネクストネオ」
4日
ユーロ圏8月小売売上高は前月比-1.2%と予想(-0.5%)を超える落ち込みとなり、インフレ高止まりを背景とする消費者需要の低迷を示唆する結果となった。
9日
7日、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに対して大規模な越境攻撃を実施。週明けの為替市場では有事のドル買いとリスク回避の円買いが交錯したためユーロは軟化した。
12日
ECBは9月14日に開いた理事会の議事録を公表。「一部のメンバーは金利を現在の水準に維持すること(利上げ見送り)を支持」したものの、「利上げの一時停止により引き締めサイクルが終わったとの憶測が生まれ、インフレが回復するリスクが高まる可能性があると主張」して「多数のメンバーは25bp(0.25%ポイント)の利上げへの支持を表明」したことが分かった。
17日
独10月ZEW景気期待指数は-1.1と市場予想(-9.0)を上回り、前月(-11.4)からマイナス幅が縮小した。改善は3カ月連続。ZEW(欧州経済研究所)はドイツ経済について「最悪期は過ぎたようだ」との見解を示した。その直後に、日銀が月末の金融政策決定会合で物価見通しを上方修正するとの観測報道が伝わると円買いが強まったが一時的だった。
24日
独10月製造業PMI・速報値は40.7と市場予想(40.1)を上回り前回(39.6)から持ち直した。一方、サービス業PMI・速報値は48.0と予想(50.0)を下回り前回(50.3)から低下した。その後に発表されたユーロ圏10月製造業PMI・速報値は43.0(予想43.7、前回43.4)、同サービス業PMI・速報値は47.8(予想48.6、前回48.7)だった。
25日
独10月IFO企業景況感指数は86.9と市場予想(86.0)を上回り前回(85.8)から上昇した。IFO経済研究所は「企業は現在の業況にいくらか満足している。さらに、今後数カ月の見通しに関しても以前ほど悲観的ではない。ドイツ経済に明るい兆しが見える」とコメントした。
26日
ECBは主要政策金利を4.50%に据え置いた。据え置きは11会合ぶり。声明では「金利水準が十分に長い期間維持されれば、インフレ率がタイムリーに2%の中期目標に戻ることを確実にするために大きく貢献する」との見解を改めて示した。予想通りの金利据え置きで声明にも目立った変化はなかったことからユーロ相場に大きな反応は見られなかった。その後、ラガルド総裁が会見を行い、焦点のひとつだったパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の再投資を前倒しで終了させる量的引き締めについて「今回は議論されなかった」と明らかにした。これを受けてユーロが売られる場面もあったが一時的だった。ラガルド総裁は「ECBが金利を据え置いたという事実は、二度と金利を引き上げないという意味ではないと言っておきたい」「利下げについて討議することさえ、完全に時期尚早だ」などと述べた。
31日
日銀がイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用をさらに柔軟化すると発表したが、より踏み込んだ緩和修正を期待していた市場は円売りで反応。円安主導でユーロ/円は15年ぶりの高値となる160.85円前後まで上伸した。なお、ユーロ圏7-9月期域内総生産(GDP)・速報値は前期比-0.1%と市場予想(±0.0%)を下回った。同時に発表されたユーロ圏9月消費者物価指数(HICP)・速報値は前年比+2.9%と前月(+4.3%)から鈍化し、予想(+3.1%)を下回った。
10月の各市場
10月のユーロ/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
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11月のユーロ圏注目イベント
ユーロ/円 11月の見通し
ユーロ/円相場は10月31日に160.85円前後まで上伸して15年ぶり高値を付けた。主に円安がけん引した上昇ではあったが、対ドルでユーロが下げ止まったこともユーロ/円の下値を支えた。ユーロの対ドル相場は10月初めに1.044ドル台まで下落して年初来安値を更新したが、その後1.069ドル台に反発するなど底堅い動きとなった。
とはいえ、10月末には一時1.055ドル台に押し戻されるなど、ユーロ圏の景気先行きに不透明感がくすぶる中で上値も重かった。イスラエルとハマスの紛争が長期化しそうな半面、中東全体を巻き込んだ大規模衝突のリスクはいくぶん低下している模様で、ユーロ圏経済の生命線でもある資源価格への影響が読みづらくなっている。そうした中で、11月もユーロ/ドル相場はもみ合い商状が続くと見られ、ユーロ/円相場は引き続き円の動き次第となろう。
日銀が10月31日にイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用を柔軟化しつつも金融緩和の維持を表明したことで円は売られやすい地合いが続きそうだ。 一方で、財務省の神田財務官は1日、為替介入を含む対応について「スタンバイ状態」だと強調。1年ぶりの円買い介入がいつ行われても不思議ではない状況にある。対ドルでの円買い介入がユーロ/円相場のトレンドを下向きに変えることは考えにくいものの、瞬間的には3~5円程度の急落を示現する可能性はある。11月のユーロ/円相場は円安主導で15年ぶり高値を更新する強含みの展開を見込むが、円買い介入による(一時的な)急落のリスクも認識しておきたい。
(予想レンジ:157.000-163.000円)
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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