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ポンド/円・豪ドル/円の6月見通し「クロス円は中銀スタンスの違いでマチマチの動き」

【外為総研 House View】

House View

執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也

目次

▼ポンド/円
・ポンド/円の基調と予想レンジ
・ポンド/円 5月の推移
・5月の各市場
・5月のポンド/円ポジション動向
・6月の英国注目イベント
・ポンド/円 6月の見通し

▼豪ドル/円
・豪ドル/円の基調と予想レンジ
・豪ドル/円 5月の推移
・5月の各市場
・5月の豪ドル/円ポジション動向
・6月の豪州・中国注目イベント
・豪ドル/円 6月の見通し

ポンド/円

ポンド/円の基調と予想レンジ

ポンド/円 5月の推移

5月のポンド/円相場は167.846~174.268円のレンジで推移し、月間の終値ベースで約1.3%上昇した(ポンド高・円安)。英国経済が警戒したほど落ち込まずに済んだとの見方によるポンドの堅調推移が続いた。

英中銀(BOE)の利上げ打ち止めが近いとの見方から11日には168円台を割り込む場面もあったが、国際通貨基金(IMF)による英成長見通しの上方修正や英4月消費者物価指数(CPI)の高止まりを受けて堅調に推移すると30日には174.27円前後まで上伸。2016年2月以来の高値を付けた。

もっとも、米長期金利の上昇などからドルも堅調だったためポンド/ドルは月間でやや軟化。対円でのポンド高はドル/円の上昇に支えられた面もあった。

出所:外為どっとコム

11日
BOEは大方の予想通りに政策金利を25bp(0.25%ポイント)引き上げて4.50%とした。同時に公表した議事録では、利上げの決定が7対2で金融政策委員会(MPC)メンバー2人は据え置きを主張したことが明らかになった。また、「物価圧力がさらに持続する証拠があれば、金融政策の一段の引き締めが必要になるだろう」と前回の文言を踏襲した。

ベイリー総裁はその後の記者会見で「安定した低インフレは健全な経済の土台だ」とし、「インフレ率が目標の2%に戻ることを確実にするために政策姿勢を堅持することが必要だ」と語った。一方で、その後のメディアのインタビューで総裁は「金利水準については、ある意味で利上げ休止が可能になる地点に近付いている」との見解を示した。

12日
英1-3月期国内総生産(GDP)・速報値は前期比+0.1%と予想通りだった。10-12月期(+0.1%)に続いて2四半期連続の小幅なプラス成長となった。このほか、英3月鉱工業生産は前月比+0.7%(予想+0.1%、前回-0.1%)、同貿易収支は163.56億ポンドの赤字(予想175.00億ポンドの赤字)だった。

その後、BOEのMPCメンバーでチーフエコノミストのピル氏は、「インフレ見通しの望ましいパターンを示す証拠が出ている」としてインフレが低下に向かうとの見通しに自信を示した。もっとも、過去の傾向とは異なる形で進展が妨げられる可能性があるとして「中銀にはまだ行うべきことが残っている」との見解も示した。

16日
英4月失業率は4.0%(前回3.9%)、同失業保険申請件数は4.67万件(前回2.65万件)となった。英1-3月国際労働機関(ILO)基準失業率は3.9%で予想および前回(3.8%)を上回った。また、英1-3月の週平均賃金は前年比+5.8%となり、予想および前回と同じだった。

17日
ベイリーBOE総裁は「インフレ率は、エネルギー価格の下落により今後数カ月に、現在の10.1%という水準から急低下するはずだ」と発言。「英経済が現在直面している異例の時期はインフレ目標という制度に対する過去最大の試練だ」との見解も示した。

23日
英4月公共部門純借入は256億ポンドと市場予想(191億ポンド)を上回った。物価連動債の利払いやエネルギー補助金の増加で財政赤字が膨らんだ。また、英5月PMI・速報値は製造業が46.9(予想48.0)、サービス業が55.1(予想55.3)となり、いずれも前月からやや低下した。

一方、国際通貨基金(IMF)はこの日、英国経済の見通しを上方修正。2023年の成長率予測を従来の-0.3%から+0.4%に引き上げた。インフレ率は23年末までに5%程度まで低下するとの見通しを示した。

24日
英4月CPIは前年比+8.7%と、前月の+10.1%から伸びが鈍化したものの、市場予想(+8.2%)を上回った。エネルギー・食品・アルコール・タバコを除いたコアCPIは前年比+6.8%に加速した(予想、前月ともに+6.2%)。

その後、ベイリーBOE総裁は「全般的なインフレ率の低下は勧化すべきことだが、食品価格とコアインフレ率が上昇したことに焦点を当てる必要がある」と指摘。「今後、インフレが緩やかにしか低下しないリスクがある」と述べた。

26日
英4月小売売上高は前月比+0.5%と市場予想(+0.3%)を上回った。悪天候の影響などから落ち込んでいた3月(前月比-1.2%)から急回復した。

5月の各市場

5月のポンド/円ポジション動向

【情報提供:外為どっとコム】

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6月の英国注目イベント

ポンド/円 6月の見通し

英国のインフレ率は4月にようやくひとケタ台(前年比+8.7%)へ低下したが、サービス価格の上昇などからコアインフレ率(同+6.8%)はむしろ加速した。こうした中で、ベイリー英中銀(BOE)総裁の発言トーンが変化している点は注目に値する。

総裁は5月17日の講演で「インフレ率は、エネルギー価格の下落により今後数カ月に、現在の水準から急低下するはずだ」との見解を示したが、4月インフレ率が発表された直後には「今後、インフレが緩やかにしか低下しないリスクがある」と指摘した。「ある意味で利上げ休止が可能になる地点に近付いている」とした11日の見解も大きく変化している可能性がある。市場も、6月、8月、9月の25bp(0.25%ポイント)利上げをほぼ織り込んでおり、政策金利のターミナルレート(最終到達点)は5.25%を超えるとの見方を強めている。

そうした中、BOEが22日に利上げを決めた上で、今後のスタンスについてどのような見解を示すか注目されよう。英経済が小幅ながらもプラス成長となる中で、利上げ期待が剥落しなければポンドの強含みの推移が続きそうだ。なお、ポンド/円相場のチャート上の上値ポイントは2016年高値の177.37円前後と見られる。
(予想レンジ:170.000~177.500円)

豪ドル/円

豪ドル/円の基調と予想レンジ

豪ドル/円 5月の推移

5月の豪ドル/円相場は89.167~92.431円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約0.5%上昇した(豪ドル高・円安)。豪中銀(RBA)の予想外の利上げで2日に92.43円前後まで上昇したがその後は伸び悩んだ。とはいえ下値も堅く4日に付けた89.17円前後をその後下回ることもなかった。

18日の豪4月雇用統計の冴えない結果などから、RBAの追加利上げ期待が高まらなかったことが豪ドルの重しとなった一方、米長期金利の上昇などからドルが上昇したため、豪ドル/米ドルは31日に年初来安値を更新するなど軟調だった。

他方、日米金利差の拡大でドル/円が年初来高値を更新して上昇するなど、円安も進んだ。豪ドル/米ドルの下落とドル/円の上昇に挟まれる格好となった豪ドル/円は方向感が出にくかった。

出所:外為どっとコム

2日
RBAは大方の予想に反して政策金利を3.60%から3.85%へと引き上げた。声明では「インフレ率はピークを過ぎたが7%は依然として高すぎ、目標範囲に戻るにはまだ時間がかかる」「合理的な時間枠内でインフレを目標に戻すことの重要性を考慮して、理事会は金利のさらなる上昇が正当化されると判断」とした上で「インフレ率が合理的な時間枠で目標に戻ることを確実にするためには、金融政策の一層の引き締めが必要になるかもしれないが、それは経済とインフレがどのように推移するかによって決まる」と表明した。

4日
豪3月貿易収支は152.69億豪ドルの黒字となり、黒字額は市場予想(130.00億豪ドル)を上回った。中国向け鉄鉱石輸出の増加などを受けて黒字額は過去2番目の高水準を記録した。

5日
RBAは四半期に一度の金融政策報告を発表。今年6月時点のインフレ率トリム平均を6.0%と予測。前回の四半期報告での予想値(6.25%)から引き下げた。12月時点の同見通しも前回の4.25%から4.0%に下方修正した。

もっとも、インフレはピークアウトしたものの「極めて高い」と警告。「生産性の伸びが弱いままの場合、高インフレ環境でコスト圧力緩和に伴い企業の利益率が拡大する場合、物価上昇と賃金の間に予想以上のフィードバックがある場合、賃料が予想以上に上昇した場合、インフレはより持続的になる可能性がある」と指摘した。

16日
RBAは5月理事会の議事録を公表。予想外の利上げ再開を決めた理由について「労働市場が引き続きタイトでインフレ圧力も著しい様子が前月のデータで確認され、インフレ見通しの上振れリスクも示唆された」と説明。その上で「政策委メンバーは、追加利上げがなお必要かもしれないが、景気とインフレの動向次第との認識で一致した」ことが明らかになった。

ただ、利上げと据え置きの「2つの選択肢を比較検討する中で、議論は微妙なバランスだった」とした。また、中国4月鉱工業生産は前年比+5.6%と3月の+3.9%から上昇幅が拡大したが、市場予想(+10.9%)は大きく下回った。同小売売上高も前年比+18.4%と大幅に伸びたが市場予想(+21.9%)には届かなかった。

17日
豪1-3月期賃金指数は前期比+0.8%と予想(+0.9%)に届かなかったが、前年比では+3.7%と予想(+3.6%)を上回り、10-12月期(+3.4%)から伸びが加速した。

18日
豪4月失業率は3.7%と前月および市場予想(3.5%)を上回った。同新規雇用者数は0.43万人減と、予想(2.50万人増)に反して減少した。労働参加率は前月から変わらずの66.7%で予想通りだった。

26日
豪4月小売売上高は前月比±0.0%と市場予想(+0.3%)を下回った。豪統計局の小売統計部門責任者は「消費者が生活費高騰と金利上昇に対処して裁量的支出を抑えたため、小売売上高はここ半年頭打ちとなっている」との見解を示した。

31日
豪4月消費者物価指数(CPI)は前年比+6.8%と市場予想(+6.4%)を上回り前月の+6.3%から伸びが加速。RBAが6月の利上げを見送るとの観測が後退する中で豪ドルは上昇したが、同時に発表された中国5月製造業PMIが48.8と予想(49.5)を下回って低下したため失速した。

5月の各市場

5月の豪ドル/円ポジション動向

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6月の豪州・中国注目イベント

豪ドル/円 6月の見通し

豪中銀(RBA)は6月6日の理事会で難しい判断を迫られそうだ。5月に予想外の利上げを決めた際には声明で「インフレ率が合理的な時間枠で目標に戻ることを確実にするためには、金融政策の一層の引き締めが必要になるかもしれないが、それは経済とインフレがどのように推移するかによって決まる」とした。その経済については、4月に失業率が上昇した上に、雇用者数は4カ月ぶりに減少。4月は小売売上高も前月比横ばいにとどまった。

一方でインフレについては、4月の月次消費者物価指数(CPI)が再び加速。1-3月期の賃金指数も前年比で伸びが加速した。景気に配慮して利上げを見送るか、インフレ抑制に向けて利上げを決めるか、今回も5月と同様にRBA内の議論は「微妙なバランス」になりそうだ。

米国はともかくユーロ圏、英国などの6月利上げが確実視される中、豪ドルが上昇基調に戻るためにはRBAの利上げが欠かせないだろう。仮に、RBAが6月利上げを見送れば、中国の景気不安も相まって豪ドルに下落圧力がかかる可能性もある。6月の豪ドル相場は、RBAの利上げを巡る判断と中国の5月経済指標の結果がポイントになりそうだ。
(予想レンジ:88.000~93.000円)

 
uehara.jpg 外為どっとコム総合研究所 調査部 研究員
宇栄原 宗平(うえはら・しゅうへい)
国際テクニカルアナリスト連盟 認定テクニカルアナリスト(CFTe) 2015年から金融業界に参入し、顧客サポートなどに従事。また金融セミナーの講師としても活躍する。2022年2月(株)外為どっとコム総合研究所へ入社。これまでの経験や知識を活かしながら、FX個人投資家へ精力的な情報発信を行っている。経済番組専門放送局「ストックボイス」や、ニッポン放送『辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!』でのレギュラー解説ほか出演多数。マネー誌『ダイヤモンドZAi(ザイ)』にてドル円・ユーロ円見通しを連載中。
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