【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ドル/円
・ドル/円の基調と予想レンジ
・ドル/円 4月の推移
・4月の各市場
・4月のドル/円ポジション動向
・5月の日・米注目イベント
・ドル/円 5月の見通し
ドル/円
ドル/円の基調と予想レンジ
ドル/円 4月の推移
4月のドル/円相場は130.584~136.563円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約2.6%上昇した(ドル高・円安)。米3月ISM製造業景況指数をはじめ、米3月ADP全国雇用者数など月初に冴えない米経済指標が続いたことで130.58円前後まで下落したが、7日の米3月雇用統計を受けて下げ渋ると、10日には植田日銀新総裁のハト派発言を受けて上昇に転じた。その後も、米3月消費者物価指数(CPI)と米3月生産者物価指数(PPI)の鈍化を受けて調整したが、132.00円付近で下げ渋るなど底堅く推移。
19日には135円台を回復する場面もあったが決め手を欠き、134.00円を挟んだもみ合いへと移行した。24日には、経営難に陥った米地銀ファースト・リパブリック・バンクから多額の預金が流出したことが判明したが、リスク回避の円買いとドル買いが交錯したため方向感を欠いた。ところが、28日に日銀が大規模金融緩和の継続を決めると円売りが活発化。クロス円の大幅高にも支えられて、前月10日以来の高値となる136.56円前後まで上伸した。
出所:外為どっとコム「外貨ネクストネオ」
3日
米3月ISM製造業景況指数は46.3と2年10カ月ぶりの水準に低下。市場予想(47.5)を下回った。構成指数の仕入価格は49.2に落ち込み(前回51.3)、雇用も46.9(前回49.1)、新規受注も44.3(前回47.0)に低下した。
7日
米3月雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比23.6万人増と予想(23.0万人増)を僅かに上回り、失業率は3.5%に低下した(予想、前回ともに3.6%)。労働参加率は62.6%に上昇(予想、前回ともに62.5%)。平均時給は前月比+0.3%、前年比+4.2%であった(予想+0.3%、+4.3%)。
10日
植田日銀総裁が就任会見を行い「現状の経済、物価、金融情勢を鑑みると、現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)を継続するということが適当」「(YCCは)現状では経済にとって最も適切と考えられるイールドカーブの形成を実現するための仕組みだ」と発言。マイナス金利についても「現在の緩和策のベースになっている」として「継続するのが適当」と発言した。
12日
米3月消費者物価指数(CPI)は前年比+5.0%と予想(+5.1%)を下回り、前月(+6.0%)から伸びが鈍化。一方、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアCPIは+5.6%と予想通りに前月(+5.5%)を上回った。3月の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録で「銀行セクターで最近起きた展開が経済活動とインフレに与え得る影響を踏まえ、十分に景気抑制的となるFF金利誘導目標レンジの判断を下方修正したと、多くの参加者が指摘した」ことが明らかになった。
14日
米3月小売売上高は前月比-1.0%と市場予想(-0.5%)を下回った。変動の大きい自動車を除いた売上高も前月比-0.8%と予想(-0.4%)以上に減少した。一方、国内総生産(GDP)の算出に用いられるコア売上高(食品サービス、ガソリン、建材、自動車を除く)は前月比-0.3%と予想(-0.5%)を上回った。その後、ミシガン大4月消費者信頼感指数・速報値は63.5と市場予想(62.1)を上回った。1年先の消費者期待インフレ率は4.6%となり、前月の3.6%から急上昇した。
24日
植田日銀総裁は「現在は物価の基調がまだ2%を下回っている状態であると認識しているので緩和を継続する」と明言。一方で「2%に届く見通しになってくれば正常化の方向に向かう」「そこの判断に誤りがないように物価の見通しについては一段と精査をして努力してまいりたい」と述べた。なお、経営難に陥った米地銀ファースト・リパブリック・バンクは引け後に発表した1-3月期決算で、預金の約4割にあたる1000億ドル前後が流出したことを明らかにした。
28日
日銀は大方の予想通りに現行の金融緩和策の現状維持を決定。声明で「粘り強く金融緩和を継続していくことで、賃金の上昇を伴う形で、2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することを目指していく」と表明。
一方で「現在の長短金利の水準、またはそれを下回る水準で推移することを想定」としていた低金利に関するフォワードガイダンスを削除した。また、過去25年間の金融政策運営について、1年から1年半程度の時間をかけて、多角的にレビューを行うと表明した。同時に公表した展望リポートでは2023年度の物価見通しを1.6%から1.8%に上方修正、24年度も1.8%から2.0%に引き上げた。
他方、2025年度については1.6%に鈍化するとの予測を示した。植田日銀総裁は会見で「政策の引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクより、拙速な引き締めで物価安定目標を実現できなくなるリスクの方が大きい」と述べて金融緩和を継続する姿勢を強調。金融政策運営に関するレビューについても「目先の政策変更に結ぶ付けてやるものではない」と説明した。
4月の各市場
4月のドル/円ポジション動向
【情報提供:外為どっとコム】
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5月の日・米注目イベント
ドル/円 5月の見通し
ドル/円は5月2日12時の本稿執筆時点で約2カ月ぶりの137円台で堅調に推移している。4月28日に日銀が大規模金融緩和の継続を決定した一方、5月3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では25bp(0.25%ポイント)の追加利上げが濃厚とあって、日米金融政策の方向性の相違を意識したドル買い・円売りが強まっているようだ。FOMC後もこうしたドル高・円安基調が続くかどうかが注目される。
市場には、FOMCが今回をもって利上げを休止するとの観測がくすぶっている。仮に声明文やパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の会見で6月の利上げ見送りが示唆されれば、ドルの下落は避けられないだろう。しかし、インフレが鈍化したとはいえ目標を大幅に上回る現状において、FRBが6月利上げ見送りのシグナルを積極的に発することは考えにくい。結局は「金融政策はデータ次第」の姿勢を維持する公算が大きいと見る。そうなると、市場としては5日の米4月雇用統計と10日の米4月消費者物価指数(CPI)の結果に注目せざるを得なくなるだろう。
これらの結果を踏まえて6月利上げの期待が強まるようなら1ドル=140円への続伸も視野に入りそうだ。他方、6月利上げ見送りの確度が高まれば、135円台を割り込んで132円に向けて調整する可能性もある。なお、本稿執筆時点で米金利先物は、FOMCが5月3日に25bpの利上げを決める確率を9割以上織り込んでいる一方、6月の25bp利上げについては2割ほどの織り込みにとどまっている。5月のドル/円相場は、6月FOMCの利上げを巡る市場の思惑次第で動くことになるだろう。
(予想レンジ:132.500~141.000円)
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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