更新日時:2022年07月11日 12時30分(結果を追記)
執筆日時:2022年07月06日 14時00分
執筆者 :株式会社外為どっとコム総合研究所 小野 直人
目次
1.はじめに
2022年7月8日(金)、日本時間21時30分に米国の6月雇用統計が発表されます。非農業部門雇用者数(NFP)、失業率、時間給など見どころは多いですが、金融引き締めから成長重視に投資家の視線が変わりつつある中で、雇用者数の強弱がフォーカスされそうです。米経済の先行きへの不安が増加すれば、市場はリスクオンの流れへと一気に傾く可能性はあり、注意が必要です。では、早速、前回の振り返りです。
2.前回のおさらい
・賃金の伸びは横ばい
6月3日、米労働省が発表した5月非農業部門雇用者数(NFP)は、市場予想の32.5万人増に対して39.0万人増でした。また、同失業率は予想の3.5%に対して3.6%、同平均時給は前月比+0.4%のところ+0.3%となりました。強弱が混在しているほか、市場が最も望んでいた米利上げスピードの緩和観測は高まらず、逆に9月FOMCでも50bpの利上げ実施の可能性を高める結果になり、全体的な評価は分かれました。
図表1.分野別新規雇用者数(千人)※出所:米国労働省
結果を受けた米ドル/円は、130.100円付近から130.649円まで急伸。その後、もみ合いを挟みながらもNYタイム昼に130.981円まで上伸しました。そのほかでは、米10年債利回りは一時2.98%まで上昇した一方、株式は積極的な引き締めへの警戒心が重荷になり、ダウ工業株30種平均は348.58ドル安い32899.70ドルへ下落しました。
図表2.前回発表前後のドル円の動き
米ドル/円 1時間足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
3.今回の見どころ
・前月マイナスだった小売部門の流れが他業種にも広がるか
・賃金の伸び鈍化なら、FRBの引き締め姿勢の変調期待も
足もと発表される経済指標が、米成長の鈍化を示唆する内容のものが散見されるようになり、こうした動きは労働市場にも影響すると見られ、雇用鈍化が意識されそうです。JOLT求人件数は未だ過去最高レベルを維持しているものの、足もと失業保険継続受給者数が底打ちから増加に転じ始めているほか、ISM製造業景況指数の雇用指数も強弱判断の50を下回るなど、弱さを示す指標も目につきます。企業側の人手不足解消が十分でないため基調的な底堅さは保たれると思われますが、ペース鈍化は避けられないでしょう。
こうした動きはFRBがある程度、経済の失速も受け入れながら利上げしている中では止むを得ないのですが、前月、物価上昇により収益圧迫が懸念されて唯一減少した小売部門の動きが他業種にも広がるのかどうかは気になります。財からサービスへ消費活動の中心が移る中でサービス産業の後退が明らかとなれば、米国の景気後退懸念をさらに高めそうです。
今月のNFPの市場予想は24.0万人と、前月の39.0万人からかなり鈍化し、雇用拡大が一服するとみる市場関係者が多いようです。そこで今月は、前月の39.0万人を超えてくる場合-①、予想内の着地となる場合-②、予想を大幅に下回ってくる場合-③の3つを想定したいと考えます。①は、米国の利上げに対し経済は耐えられるとの安堵感から、足もとのリスクオフの巻き戻しが起きそうです。②は市場の反応はミックスで動意は限定されそうですが、雇用拡大にブレーキがかかり始めている状況には変わりがないため、緩やかなリスクオフといった展開を想定します。③は米経済に急ブレーキがかかる感じで、市場はリスクオフ傾向が強まり、円が上昇するのではないでしょうか。
ただ、インフレがピークに達した可能性を示す初期の兆候が出ている中で、時間給の伸びが鈍化すれば、FRBが利上げ継続の姿勢を変更する時期が近いとの楽観的な見方も出始めそうなため、結果に対する反応は一様ではないかもしれません。
☆想定するシナリオ
パターン | NFP(万人) | 想定される米ドル/円の値動き | 理由 |
① | 39.0以上 | 発表後、70銭超上昇 | 安堵感でリスクオフの巻き戻し |
② | 20.0~38.9 | 発表後、60銭程度で上下動 | 頭打ちで先行き不安 |
③ | 19.9以下 | 発表後、1.5円下落 | 米景気後退でリスクオフ |
図表4.[雇用統計の実績と予想]
年月 | 非農業雇用者数変化(万人) | 失業率(%) | ||||
予想値 | 実績値 | 修正値 | 予想値 | 実績値 | 修正値 | |
2022年06月 | 24.0 | 37.2 | – | 3.6 | 3.6 | – |
2022年05月 | 32.5 | 39.0 | 38.4 | 3.5 | 3.6 | – |
2022年04月 | 39.1 | 42.8 | 43.6 | 3.5 | 3.6 | – |
2022年03月 | 49.0 | 43.1 | 42.8 | 3.7 | 3.6 | – |
2022年02月 | 40.0 | 67.8 | 75.0 | 3.9 | 3.8 | – |
2022年01月 | 15.0 | 46.7 | 48.1 | 3.9 | 4.0 | – |
年月 | 平均時給/前月比(%) | 労働参加率(%) | |
予想値 | 実績値 | 実績値 | |
2022年06月 | 0.3 | 0.3 | 62.2 |
2022年05月 | 0.4 | 0.3 | 62.3 |
2022年04月 | 0.4 | 0.3 | 62.2 |
2022年03月 | 0.4 | 0.5 | 62.4 |
2022年02月 | 0.5 | 0.0 | 62.3 |
2022年01月 | 0.5 | 0.7 | 62.2 |
◇関連の経済データ実績
年月 | ISM製造業雇用指数 | ISM非製造業雇用指数 |
2022年06月 | 47.3 | 47.4 |
2022年05月 | 49.6 | 50.2 |
2022年04月 | 50.9 | 49.5 |
2022年03月 | 56.3 | 54.0 |
2022年02月 | 52.9 | 48.5 |
2022年01月 | 54.5 | 52.3 |
出所:Bloomberg、外為どっとコム「経済指標カレンダー」
4.今回の戦略
発表前のレベルによっては、調整が必要ですが、シナリオ①なら買いで追随し、年初来高値(136.998円:6/29)更新を試しそうです。②の場合は流れに乗って、短期売買。③の場合は、トリプルトップ形成を狙って売りで追随し、ネックラインの134.265円割れを待ちたいです。
図表5.ドル/円チャート-8時間足
出所:外為どっとコム「ネオチャート」
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