【外為総研 House View】
執筆・監修:株式会社外為どっとコム総合研究所 調査部長 神田卓也
目次
▼ポンド/円
・ポンド/円の基調と予想レンジ
・ポンド/円 5月の推移
・5月の各市場
・5月のポンド/円ポジション動向
・6月の英国注目イベント
・ポンド/円 6月の見通し
▼豪ドル/円
・豪ドル/円の基調と予想レンジ
・豪ドル/円 5月の推移
・5月の各市場
・5月の豪ドル/円ポジション動向
・6月の豪州・中国注目イベント
・豪ドル/円 6月の見通し
ポンド/円
ポンド/円の基調と予想レンジ
ポンド/円 5月の推移
5月のポンド/円相場は155.592~163.893円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは0.7%下落した(ポンド安・円高)。
英中銀(BOE)が2023年のマイナス成長を予測した事でポンド売りが先行。主要中銀の金融引き締めで世界経済が減速するとの懸念が広がる中、12日には155.59円前後まで下落して約2カ月ぶりの安値を付けた。しかしその後は、ドル高修正の動きが入りポンド/ドル相場が反発した事などから持ち直した。主要国株価の不安定な値動きを眺めて乱高下する場面もあったが、株安がひとまず収まった月末にかけて162円台を回復。月初の下げをあらかた埋めて小幅安で5月の取引を終えた。
出所:外為どっとコム
5日
BOEは、予想通りに政策金利を0.75%から1.00%へと引き上げた。同時に発表した議事録では「一部の委員は今後数カ月、追加引き締めが必要になると予想している」とした。四半期に一度の金融政策報告書では、2023年の成長率が-0.25%に落ち込むとの見通しを示した。さらに、ベイリーBOE総裁が会見で「BOE予測はリセッションの定義に合致しないが、非常に急激な経済成長の減速となる公算」などと発言した事でポンドが急落した。
12日
英1-3月期国内総生産(GDP)・速報値は前期比+0.8%と10-12月期の+1.3%から減速。市場予想(+1.0%)も下回った。英3月鉱工業生産は前月比-0.2%(予想±0.0%)、同貿易収支は238.97億ポンドの赤字(予想184.50億ポンドの赤字)であった。英国がスタグフレーション(不況下の物価高)に陥るとの懸念が広がりポンド売りが活発化した。
17日
英4月雇用統計は、失業率が4.1%に低下し、失業保険申請件数は5.69万件減(前回4.2%、8.16万件減)となった。1-3月の国際労働機関(ILO)基準失業率は3.7%(予想3.8%)と、1947年来の低水準となった。雇用統計の好結果を受けてポンド買いが優勢となった。
18日
英4月消費者物価指数(CPI)は前年比+9.0%と予想(9.1%)には届かなかったものの、約40年ぶりの高い伸びを記録。ポンドは英国のスタグフレーションへの懸念が強まり、CPIの発表後に下落した。米国景気の先行きに対する不透明感から、NYダウ平均が1000ドル超下落した事でリスク回避の円買いも強まり、ポンド/円の下げに拍車がかかった。
20日
英4月小売売上高は前月比+1.4%(予想:-0.3%)、自動車燃料を除く売上高は前月比+1.4%(予想:-0.2%)となった。予想外の上昇を受けてポンドは買いが優勢となった。
23日
ベイリーBOE総裁が「インフレを抑制するために、必要に応じて再利上げする」「失業率は現在の3.8%の範囲から低下すると予想」などと発言したが、ポンドは特に反応を示さなかった。
24日
英5月製造業PMI・速報値は54.6(予想:55.0)、同サービス業PMI・速報値は51.8と(予想:57.0)と特にサービス業の弱さが目立った。英国の消費動向に不透明感が広がると、発表直後にポンド売りが強まった。
5月の各市場
5月のポンド/円ポジション動向
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6月の英国注目イベント
ポンド/円 6月の見通し
6月のポンド相場は、英国の政治と経済の両面から上値が重くなりそうだ。政治については、ジョンソン首相の不信任決議リスクと「北アイルランド議定書」を巡る欧州連合(EU)との対立リスクが挙げられる。ジョンソン首相は、コロナ禍のロックダウン(都市封鎖)中に官邸で度々パーティを開催した事で謝罪に追い込まれたが、引き続き批判の声が強く、与党内からも不信任投票の実施を求める声が出ている。英国がEUから離脱するにあたり取り交わした特別貿易ルールである「北アイルランド議定書」について、英政府は内容の見直しを進めている。見直し法案は数週間以内に英議会に提出されると見られる。EU側はこれに対し、英国が一方的な動きに出た場合、法的措置を取る可能性があると警告している。こうした政治面の他、英国経済の先行きに対する不透明感もポンドの重しになりそうだ。
英中銀(BOE)は、インフレ抑制に向けて金融引き締めを進めているが、5月5日の金融政策委員会(MPC)では英経済が2023年にマイナス成長に陥るとの見通しが示された。にもかかわらず、BOEは追加利上げに前向きな姿勢を示しており、市場ではBOEが景気を犠牲にしてでも物価の押し下げに注力するとの見方が強まっている。市場は英政策金利が年内に2.25%~2.50%程度まで引き上げられると見込んでいるが、景気後退懸念が強まれば利上げの織り込み度が低下するとともにポンドに下落圧力がかかる可能性があるだろう。6月のポンド/円相場は、円安が主導する形で強含む可能性はあるものの、ポンドが自律的に上昇する公算は小さいと見られる。
(予想レンジ:156.500~166.000円)
豪ドル/円
豪ドル/円の基調と予想レンジ
豪ドル/円 5月の推移
5月の豪ドル/円相場は87.296~94.033円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約0.7%の小幅な上昇(豪ドル高・円安)となった。
豪中銀(RBA)が3日に11年半ぶりの利上げを発表し、追加利上げにも前向きな姿勢を示した事で5日には94円台にワンタッチしたものの、その後は12日にかけて87.30円前後まで反落した。世界的な金融引き締めで景気後退に陥るとの懸念から主要国の株価が下落したため市場心理が悪化した。その後下げ渋ったものの、しばらくは90円ちょうどを挟んでもみ合いが続いた。ただ、月末にはもみ合いを上放れて反発。米連邦公開市場委員会(FOMC)が9月には利上げをいったんストップするとの思惑で株価がもち直す中、27日に91円台を回復すると、31日には92円台も回復した。29日に中国・上海のロックダウン(都市封鎖)が概ね解除され、同国の景気減速懸念が和らいだ事も豪ドル高に繋がった。
出所:外為どっとコム
3日
RBAは政策金利を0.10%から0.35%に引き上げると発表。利上げは2010年11月以来11年半ぶり。声明では「経済の回復力は労働市場で特に顕著」との見解を示し「今後、金利をさらに引き上げる必要がある」とした。市場は0.25%への利上げを見込んでいた。なお、ロウRBA総裁はその後「年末の政策金利は1.50-1.75%と予想される」などと発言した。
4日
豪4月小売売上高は前月比+1.6%と市場予想(+0.5%)を上回った。これを受けてRBAの追加利上げ期待が高まった。FOMCの利上げ決定で不透明感が後退したとの見方から米国株が上昇した事も豪ドルを押し上げた。
5日
豪3月貿易収支は93.14億豪ドルの黒字となり、予想(84.00豪ドルの黒字)を上回った。一方、豪3月住宅建設許可件数は前月比-18.5%と予想(-12.0%)を下回る大幅な落ち込みとなった。また、その後に発表された中国4月財新サービス業PMIは36.2と予想(40.0)を下回り2020年2月以来の低水準となった。
6日
RBAは四半期に一度の金融政策報告を発表し、インフレ見通しを従来の予測から大幅に引き上げた。基調インフレは年末までに+4.6%に達すると見込んでいることが明らかになった。インフレ目標のレンジ(2-3%)に戻るのは2024年半ばになるとの見通しを示し、金融引き締めが長期化する可能性も示唆した。
12日
前日の米国株の大幅安を受けてアジア株と欧州株が下落。主要中銀の金融引き締めで世界景気が減速するとの懸念が広がる中、豪ドル/円は90円台から87円台へと急落した。
16日
中国4月小売売上高は前年比-11.1%となり市場予想(-6.6%)以上に悪化。同鉱工業生産も前年比-2.9%と市場予想(+0.5%)に反して悪化した。中国景気の先行き不透明感が広がるとリスク回避の豪ドル売り・円買いが強まる場面もあったが、欧米株が下げ渋ると豪ドルにも買戻しが入った。
18日
豪1-3月期賃金指数は前年比+2.4%と2018年終盤以来となる高い伸びとなったものの予想(+2.5%)には届かなかった。さらに、米国景気の先行き懸念からNYダウ平均が1000ドル超下落するなど米国株が大幅安となる中、豪ドル売りが強まった。
19日
豪4月雇用統計は、失業率が3.9%と予想通りとはいえ1974年以来の低水準に改善。新規雇用者数は0.40万人増と市場予想(3.00万人増)を大幅に下回った。ただ、フルタイム雇用者が9.24万人増加(パートタイム雇用者は8.84万人減)しており、内容としては良好だった。
23日
21日に行われた豪総選挙でモリソン首相率いる保守連合が敗北し、9年ぶりに政権交代となった。新首相に労働党のアンソニー・アルバニージー氏が就任する事になったが、豪ドル相場への影響は限定的だった。
30日
29日に中国・上海当局が、約2カ月続いたロックダウンを6月1日から緩和すると発表したことを好感してアジア株が軒並み上昇する中、豪ドル買いが優勢となった。
5月の各市場
5月の豪ドル/円ポジション動向
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6月の豪州・中国注目イベント
豪ドル/円 6月の見通し
豪ドル/円相場は4月に2015年以来の95円台を付けたのち下落に転じ、5月前半に87円台まで反落した。しかし、5月後半には92円台へと反発。6月1日には93円台を回復しており、出直りムードが強まっている。豪中銀(RBA)の追加利上げに対する期待も相まって、6月上旬は豪ドル高・円安の流れが続く公算が大きい。
ただ、5月前半と同様に主要中銀の金融引き締めで世界景気が減速するとの懸念が再燃するようなら、4月に付けた95.74円前後の高値を更新するのは難しくなるだろう。中国が上海のロックダウン(都市封鎖)を概ね解除した事などから、同国経済への不安が後退しつつあるため、5月前半のような「全面リスクオフ」の展開にはならないと見ているが、それでも米国株などが再び不安定化すれば豪ドルの上値は抑制されるだろう。7日のRBA理事会以降の豪ドル/円相場は、市場心理を反映する主要国の株価動向がカギとなりそうだ。
(予想レンジ:90.000~95.500円)
神田 卓也(かんだ・たくや)
1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。 為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。 その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。 現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信を主業務とする傍ら、相場動向などについて、経済番組専門放送局の日経CNBC「朝エクスプレス」や、ストックボイスTV「東京マーケットワイド」、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」などレギュラー出演。マスメディアからの取材多数。WEB・新聞・雑誌等にコメントを発信。
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